23 レアドロップ
「こっちは数が少ないんだよね」
私は、モンスターたちが少数だけ落としたアイテムを見る。
ゴブリンが落としたのは、灰色にくすんだ、煙の塊のようなもの。
固形物のようでそうではなく、触れるとわずかな弾力があり、重さはほとんど感じない。
オークが落としたのは、赤い丸薬のようなもの。
プニプニしてて、ソラマメのような形をしている。
⋯⋯事情があって、正直あんまり触りたくない。
トロルが落としたのは、底が浅く口の広い丸瓶に、白いクリーム状のなにかが入ってるものだ。
ポーションもそうだけど、容器ごとドロップするのは気が利いてる。ギルドでは使用済みの容器だけでも買取してくれると言っていた。
「どれもハード以上で出たんだよね」
ハードでゴブリンとオークのものが、ベリーハード以降は三種全てが出た。
インフェルノでは合計10体しか倒してないのに、それぞれ1、2個ドロップしてる。
通常のドロップとレアドロが同時に落ちることもあるようだ。
で、これらの謎アイテムの正体なのだが――
「ビギナーに戻したら情報が出た。ええっと、こうかな」
もう一度ドロップアイテムの情報を表示する。
「これについて詳しく知りたい!」と思えばいいようだ。
ゴブリンの煙玉:使うと敵に見つかりにくくなる。効果は4時間持続する。
オークの睾丸:食べると男性器の機能が活発になる。効果は4時間持続する。使いすぎると体内の精力が枯渇して死亡する。
トロルの背脂:傷をたちどころに治す強力な軟膏。トロルの体内で作られる特殊なステロイドを凝集したもの。使いすぎると免疫系に副作用が生じる他、患部が多毛化することも。顔や陰部など吸収のいい場所への使用は副作用が重篤化する。
「なんか中途半端にリアルだな」
いくら傷が治るといっても、副作用が多いと言われると二の足を踏むな。
それでも有用なアイテムにちがいはないけど。
(いちばん使えそうなのはゴブリンの煙玉かな)
私にはミニマップと盗賊士の気配察知能力があるけど、マップに映らないモンスターだとか、気配を潜めてるモンスターだとかがいないとは限らない。
(他の冒険者から身を隠すのにもよさそうだね)
敵でない冒険者はミニマップに表示されていない。
でも、私は知っている。
(この際、いちばんこわいのは人間だよね。同じ盗賊士で私より腕のいい人なんてたくさんいるはずだし。私の力を見られるのは避けたいな)
現在私が持ってる煙玉は4個だけ。16時間分だ。
「もういくつかほしいよね」
というわけで、私はモンスターハウスのジェネレーターは放置したまま、ベリーハードでゴブリンを狩ることにした。
数時間後。
「ううう⋯⋯なんでオークの睾丸ばっか出るの」
自分のドロップ運のなさを嘆きながら、私は来た道を引き返していた。
途中迷路の構造が変わってたが、ベアノフから聞いてた話とミニマップを組み合わせてなんとか通った。
私の身体のまわりには、灰色の煙がまとわりついてる。
もちろん、ゴブリンの煙玉だ。
「まぁ、これを10個確保できたから、とりあえずはいいんだけどさ」
持ってきたバッグがパンパンだ。
入りきらなかったポーションは、全部その場で飲み干してる。
おかげで、私の体内には大量のエーテルが満ち満ちてて、長時間の探索の疲れをほとんど感じない。歩く速さも、私とは思えないくらい速くなった。ドロップアイテムでいっぱいのリュックも軽く感じるくらいだ。
「モンスターはあいかわらず瞬殺だからよくわからないけど、強くはなってるよね」
怯えたりせず、無駄のない動きで戦えるようになったと思う。
初日の成果としては上々だ。
私がダンジョンから出ると、とっくに日は暮れていた。
「もうそんな時間か。真っ暗だから感覚が狂うな」
物足りないくらいで引き返せ。
いまさらながら盗賊士ギルドマスター・ドモさんの忠告を思い出す。
ダンジョンの入り口を見張っている領主の兵がいたが、なぜかこちらに気づかない。
「あっ、煙玉のせいか」
私は見張り兵にかまりのところまで近づいてみる。
1メートルくらいまで近づいても反応がない。
視線を遮るように立ってみると、見張り兵は前が見えないのを不思議がるようにまばたきした。
「これ、『解除』できないのかな」
私がそうつぶやいた途端、
「――うわっ!」
見張り兵が驚いた。
あきらかに私に焦点が合っている。
「お、脅かすな。ただでさえモンスターがこないか気を張ってるんだぞ」
まだ二十歳になるやならずやといった年頃の見張り兵がそう言った。
「ご、ごめんなさい。ダンジョンで息を潜めてたものだから」
「気をつけてくれよ? なまじ腕の立つ、戦士あがりの兵士だったりしたら、怪しい気配がしたってだけで斬りかかることもあるんだからな。場所が場所だけに、悪いのは気配を殺してた冒険者ってことになる」
「すみません、気をつけます」
本気で忠告してくれてるっぽい兵に、私は素直に頭を下げる。
見張り兵は、クリップボードくらいの大きさの木板を見ながら、
「ええっと、君は盗賊士ギルド所属のミナト、であってるか? 今日帰還する予定の冒険者の中では最後だぞ」
「はい、ミナトです」
「それだけ完璧に気配を殺せるなら、見た目にそぐわず優秀な盗賊士なんだろうが、あまり遅くまでの探索はどのギルドも推奨していない」
「すみません、ちょっと道に迷ってしまって」
「いや、謝る必要はない。そこは冒険者の自己責任だからな。ただ、探索の目安とするために、こういう声がけをせよと言われてるんだ。
ともあれ、これで『ミナト』も帰還、と。今日は犠牲者が出なかった。冒険者なら、グランドマスターに祈りでも捧げておくんだな」
たしかに、グラマス加護にはお世話になった。
お祈りくらい、してもバチは当たらないだろう。
「あ、ドロップアイテムの買取所はまだやってますか?」
「それなら急いだほうがいい。そろそろ閉まるはずだから」
私は足早になって、ダンジョン前に天幕を張る買取所へと向かうのだった。




