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GUN・ACT!(ガン・アクト)‐武装アイドル神岡陽子の活動記録‐  作者: 鳥羽輝人
第十六話

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「廃墟の舞踏会」(5)

「このくそ野郎……ッ!」


 ブランカが立ち上がり、気絶したベアトリスを抱える長坂に銃口を向けた。


「怖えなぁ、おい。大事な仲間がどうなってもいいのか?」


 刃をベアトリスの喉元に近付けながら、長坂が悪役のような台詞を発する。


「……こちらは、人差し指を動かすだけであなたを殺せるんですよ」


 幾分落ち着きを取り戻し、ブランカが応えた。


「ちょっとまずいかもね、ブランカ」


 アズリの発した言葉にブランカが舌打ちする。

 アズリがMAGの銃口を向けた先に、焼け焦げたボロボロの服……否、布切れをまとった近江がいた。


「まずいと思うんなら、もうやめようぜ。俺達もこれ以上、弾丸の無駄遣いはしたくねェんだよ」


 近江はアズリを、その後方からアンドレがブランカを狙っていた。


「峰打ちだ。肋骨の二、三本折れたかも知れないが、大した怪我じゃないよ。当分、ドラムを打つのはきついかも知れんがな。ここいらで幕引きにしようぜ」


 長坂が白い歯を見せて笑った。

 二人で背中を合わせるようにして立っていたアズリとブランカが、やがて長坂につられたように笑みを浮かべる。それはとてもアイドルとは思えない、冷たい笑みだった。

 長坂の笑みが消えた、その時――。


「ゴアァァァァァァッ!」


 熊のような咆哮と共に突然、長坂の背後の瓦礫の山が吹き飛んだ。

 とっさに振り返った長坂の上着を、金属の刃が切り裂く。

 鞭が唸るような、空を裂く音。日本刀だ。

 返す刀で繰り出された、真っ向からの唐竹割りを長坂が紙一重でかわす。初太刀をかわした時に、ベアトリスの身体は長坂の手から離れていた。


「クフフフフ。ついつい居眠りしてしまいマシタ。失敬、失敬」


 瓦礫の下から現れたヴァーグナー。温和な印象を与えていた眼鏡は外れ、頭部からは血が流れている。

 左手に刃渡り二尺八寸(約八五センチ)に及ぶ長寸刀を握り、右手はベアトリスの身体を捕らえていた。大きく見開かれたその目はぎらぎらと輝いている。


「ワタシがお相手しまショウ……真剣同士での立ち合いは初めてデスよォッ……!」


 低い笑い声をあげるヴァーグナーの表情は、既に芸能マネージャーのそれではない。


「……俺だって初めてだよ」


 長坂がそう言って左足をほんの少し動かしたその時、ヴァーグナーはベアトリスの身体を素早く横に投げた。


 それに近江・アンドレ・長坂の視線が集中した隙にアズリのMAGが火を噴いた。

 猛烈な射撃を受け、近江とアンドレが二手に分かれて地面に伏せる。

 ブランカは投げ渡されたベアトリスの身体をそっと地面に横たえた。

 ヴァーグナーは刀を正眼に構え、長坂の目を見据えた。

 長坂は刃渡り二尺二寸(約六八センチ)の軍刀を脇に構え、ヴァーグナーを牽制した。


「いい刀だな。互(ぐ)の目の刃紋に大切先(おおきっさき)……南北朝時代、相伝備前(そうでんびぜん)の太刀……いや、大太刀を磨り上げたものと見た」


 斬りかかるタイミングを逸した長坂が口を開くと、アンドレは大きく口を開けて笑った。


「なかなかの目利きデス。無銘ではありマスが、切れ味では名だたる業物にも引けを取ラヌ一振り。傭兵時代から、何度も窮地を救ッタ私の相棒デス。貴方の刀は……完全な形で見かけるとは珍シイ。陸軍九五式軍刀デスか」


「その通り。切れ味じゃ劣るが、頑丈さはなかなかのもんだぜ」


 長坂が小さく息を吐いたのを合図にしたかのように、ヴァーグナーが大きく踏み込んだ。


「参ルッ!」


 示現流において『蜻蛉』と呼ばれる、上段の構えからの唐竹割り。


「エェェェェェェィッ!」


 叫び声と共に繰り出される、猛烈な一撃。しかし、その動きは直線的だった。


「……甘い!」


 唐竹割りをかわした長坂が横から刃を滑り込ませる。


「…………ッ!」


 七十年前の近代刀と七百年前の古刀がぶつかり、散った火花が一瞬だけ周囲を照らす。長坂の繰り出した剣がヴァーグナーの太刀に受け止められていた。


「速イ……しかし、軽イ!」


 太刀の刃が火花を散らしながら軍刀の鎬を削り、長坂の首筋に迫る。

すんでのところで刃を逸らし、長坂は後ろに飛び退いた。


「ぬエェェェェェィッ!」


 恐ろしい雄叫びと共にヴァーグナーの剣が迫る。長坂は傍らのコンクリートブロックを掴み、投げつけた。が――。


「でやァァァァァッ!」


 ヴァーグナーの剛剣はたやすくコンクリートブロックを切り裂いた。


 ――まともに受けるわけにはいかない!


 動きは直線的。しかし、切り返しが異常に速い。しかも、自分を上回る剛剣。リーチも遥かに長い。まともに切り結べば勝ち目は無い――!


 長坂が必死でヴァーグナーの剣を防いでいる間に、近江達は反撃の機会を窺っていた。


 ――距離は三十メートル、軽機が一挺に狙撃手が一人。


 重機の陰に隠れた近江は思考を続けながら、積み上げられた鉄骨の陰に隠れたアンドレと目を合わせた。

アンドレが首を小さく横に振る。


 ――走れば五秒、しかし立ち上がれば蜂の巣にされる。二人で飛び出しても同じだ。せめてもう一発、擲弾筒の弾があれば……いや、あっても駄目だ。ヒデが巻き添えを喰う。


 近江が思案にふける間も、アズリが操るMAGの激しい発射音は止むことがない。


 ――軽機の銃身は相当加熱されているはずだ、そろそろ銃身交換が必要だろう。そのタイミングを狙う手もあるが、狙撃手がそれを黙って許すはずがない。


 近江はその外見に反して、こと戦闘に関しては慎重な考え方の持ち主だった。


「……ふん」


 近江は小さく鼻を鳴らし、発煙手榴弾を取り出した。


「はッ!」


 掛け声とともに繰り出される、ヴァーグナーの鋭い突き。長坂は紙一重で刃を滑らせ、串刺しになるのを逃れる。

 長坂とヴァーグナーの剣技は、ほぼ同等だった。

 どちらかが一瞬でも気を抜けば、勝敗は決する。アズリ達もそれを理解し、二人の戦いに手出しはできないと考えていた。

 また、自分達の間合いに長坂がいる限りは擲弾筒も使えないだろう、と考えていた。


「せやァァァァッ!」


 攻め立てているように見えるヴァーグナーだが、内心では長坂の実力に驚嘆していた。

 攻撃が一度としてヒットすることはなく、ことごとく受け流される。しかし、決して自分から仕掛けてこようとはしない。


 にやり、と長坂が笑った。


 ――思った通りだ! この男、私の攻撃パターンを読んでいる!


 何とか状況を打開せねばと考えるが、下手な動きを見せれば隙を突かれる。

 ヴァーグナーは自分の動きが直線的なことを十分に自覚していた。

 それを切り返しの速さと一撃にかける力で補っているのが、示現流にドイツ式剣術の要素を組み合わせて編み出した我流剣術だ。

 白兵戦で何人もの敵を倒してきたヴァーグナーの剣。しかしそれは、剣術を知らない敵を相手としたものだった。

 ヴァーグナーは太刀を振るいながら、全身を震わせていた。

 自信を打ち砕かれた衝撃と――求めて止まなかった強敵と出会えた喜びに。


「ハハァーッ!」


 笑い声とも喚声ともつかぬ雄叫びを上げながら、ヴァーグナーは長坂に切りかかった。


「ブランカ! もう一人はどこ行ったの?」


 MAGを乱射しながら、アズリが尋ねた。あの榴弾の凄まじい炸裂音から、自慢の聴覚は回復していない。

 自らの耳による状況分析ができない以上、索敵はブランカに任せるしかない。


「今、探しているわ」


 ブランカはMSG-90に載せた暗視スコープを覗き込みながら、小さく答えた。

 早期に決着を着けたいのは近江達だけではなく、アズリとブランカも同じだった。

 自陣から敷地の入り口まで百五十メートル。右には頑丈なコンクリート塀が、左にはセメント作りの建物の外壁がある。

コンクリート塀にはトラップを仕掛けてある。外から回り込もうとすれば命はない。


「…………?」


 MAGの射線の外、左前方にブランカのスコープは動くものを捉えた。


「……クッ」


 小さく歯噛みし、人差し指にかけた力を緩めた。

 体長四、五十センチの狸とその子供達が、叢の陰からこちらを不安そうに見ていた。

 狸の一家はその場を動こうとせず、愛くるしい仕草で地面に置かれた何かを食べていた。

 すぐにブランカは他の場所に目を移そうとしたが、あることが引っ掛かった。

 この戦闘の真っ只中に、狸の餌が湧いて出てくるはずがない。

 狸の一家がいる場所の近くを暗視双眼鏡で見渡すが、何者かがいる気配はない。


「ブランカ!」


 MAGを連射していたアズリが目配せする。銃身交換だ。

 素早くMSG-90を構え直し、前方を警戒する。

 アズリが加熱した銃身のハンドルを握り、引き抜く。傍らに敷いたマットの上に銃身を静かに横たえ、予備の銃身に手を伸ばす――。

 その時、前方に何かが投げられるのをブランカは見た。

 激しく煙を上げる――二発の発煙手榴弾。狸の一家は驚いて敷地の外へ走り去って行った。

 ブランカは自らが焦りで正常な判断力を失っていることに気付いた。

 手榴弾を投げようとする敵の手をスコープに捉え、撃ち抜くこともできたはず。


 ブランカの脳裏を過去の記憶が駆け抜けてゆく。

 家族の仇討ちの為、自らの身を守る為に武器の扱いを覚えた、懐かしくも呪わしい故国。

 復讐鬼と化した自分に優しく手を差し伸べてくれたボス――真鍋公次に連れられて転戦した中東諸国。

 そして……刎頚の友・アズリと出会ったアフガニスタンでの、壮烈を極める戦いの日々。

 これまでに幾度も死を恐れぬ敵・装備と物量で勝る敵と対峙し、そのことごとくを撃破してきた。

 それが、何故――たった四人の敵を相手に、ここまで手こずっているのか?


 ――仕掛けてくる!


 ブランカは牽制の為、二人が隠れる遮蔽物の近くに連続して銃弾を撃ち込んだ。

 既に銃身交換を終えたアズリが射撃に加わる。

 白煙の中に撃ち込まれる無数の銃弾。しかし、敵方に動きは見えない。

 ブランカは激しく歯ぎしりした。


「……くだらない……! 終わりにしましょう」

「……ブランカ!」


 ブランカはRPG-7を手にし、対戦車用のロケット弾を装填していた。


「豚共が……生ぬるい戦いしやがって!」


 口汚く罵りながら、ロケット弾の安全装置を外す。

 冷静さを失ったブランカの横顔に、アズリが息を呑む。ブランカは口元を歪ませてRPG-7の撃鉄を起こし、近江が隠れた重機に狙いを定めた。


「さあ、これで――」


 ブランカが再び口を開くのと同時に、右側面から轟音が鳴り響いた。


「なっ……」


 廃工場と草原を隔てていたコンクリート塀が五十メートルの範囲に渡って、煙を上げながら倒壊し始めた。

 この状況で考えられるのは――正面と右側面からの十字砲火!


 ――しまった!


 アズリとブランカが心の中で同時に叫ぶのと同時に、前方から小銃弾の雨が降り注いだ。

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