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第10話:真珠の首飾りの領収書

 最高法院と王宮会計局による合同調査は、私の申し入れ通り、呪術による証言を裏付ける「物証」の捜査を中心に進められていた。

 そしてついに、ジュリアン殿下が私的に流用していた公金の決定的な証拠が発見されたのだ。


 最高法院の応接室で、調査官が私の前に一枚の古い購入伝票を提示した。


 差し出された紙は端が少し擦れていたが、王室御用達店の印も会計局の受領印も鮮明に残っていた。私はすぐに結論を聞かず、日付、購入者、支出の名目を上から順に追った。王子妃教育で何度も見た形式と同じで、書き損じた紙や私的な覚え書きではなかった。


「ご覧ください、ヴィオレッタ様。これは半年前に王室御用達の宝飾店で発行された伝票です。購入品目は『最高級白真珠の首飾り』。購入目的の欄には『第二王子妃候補ヴィオレッタ・ロシュフォールへの誕生日贈答品』と明確に記載されております」


 伝票の金額は、一般の貴族の年収に匹敵するほどの高額だった。

 そして実物の首飾りは、リディア・バリエの私室の宝石箱から押収され、伝票に記載された製造番号および真珠の個数と完全に一致した。


 購入欄にある私の名前を見ても、自分の品を取り戻したいとは思わなかった。首飾りを選ぶ場に私は呼ばれておらず、贈るという話も聞いていない。私に渡す予定だったという記載だけが、公費を使う理由として利用されていたのである。


 製造番号と真珠の数が一致しているなら、別の品と取り違えたという説明も難しい。ジュリアン殿下が祝宴で語った内容が、呪いの消えた後にも紙と品物の両方に残っていた。


 リディア側は取り調べに対し、


「ジュリアン殿下から深い愛情の証として贈られたものであり、公金で購入されたものだとは知らなかった」


 と供述しているという。


 さらに調査が進むにつれ、真珠の首飾りだけに留まらず、ジュリアン殿下がリディアとの密会に使った高級馬車のレンタル料、極上のワインや花束の購入費、さらには離宮での豪華な宴の費用までが、様々な名目で王家の公費へ付け替えられていたことが判明した。


 私は関連する伝票も机へ並べてもらった。馬車を使った日付は火曜日、花束が届けられた日は木曜日が多く、祝宴で殿下が口にした密会の曜日と重なっている。離宮の支出には宿泊した2日分の食事と酒が記録され、葡萄園の視察に必要とは思えない品まで含まれていた。


 一枚だけなら記載の誤りと説明できたかもしれない。同じ相手との密会に合わせて支出が繰り返されている以上、偶然として片づけることはできなかった。


 調査官は私に同情的な視線を向けた。


「本来であればヴィオレッタ様の誕生日に贈られるはずだった品が、他の女性へ渡されていたとは……お心が痛むことでございましょう」


 だが、私自身は拍子抜けするほど静かな心境だった。

 首飾りを奪われたことへのショックや嫉妬などは、もう欠片も残っていなかった。

 私の視線は、首飾りの写真ではなく、伝票の端に書かれた会計処理の過失に向けられていた。


 そこには本来必要な確認者の署名がなく、代わりに第二王子付きの者が処理を急ぐよう記した跡があった。私が同じ伝票を提出すれば、理由を説明するまで受理されなかっただろう。王子妃候補へ課された厳しさが、王子本人の支出には向けられていなかった。


 誕生日に贈り物が届かなかった日の寂しさは、すでに冬至の夜に口にして手放している。今机にあるのは、私一人の感情で許してよい金ではなかった。


「いいえ。私が憤りを覚えるのは、感情的な理由からではありません。この不自然な帳簿の処理方法についてです」


 私は王子妃教育において、王室会計の厳格な規律を叩き込まれてきた。

 伝票一枚の金額の不備、領収書の理由記載の曖昧さについて、私は厳しく指導され、一切の誤差も許されなかった。

 それにもかかわらず、当のジュリアン殿下本人が、自らの娯楽のために規律を徹底的に踏みにじり、虚偽の公文書を作成させていたのだ。


 同席していた王宮会計官が、青ざめた顔で私に指示を仰いだ。


「ヴィオレッタ様……元婚約者としての過失を庇うため、調査をある程度の規模で留めることも可能ですが……どこまで調べるべきとお考えでしょうか」


 私は迷うことなく、会計官をまっすぐに見つめ返した。


「私への私情や、婚約者としての恥を隠すために調査を曇らせる必要は一切ございません。これは私と殿下の個人問題ではなく、民から集められた大切な税の使い道に関する問題です。不自然な処理がなされている項目は、過去に遡って全項目を徹底的に監査すべきです」


 私の断固とした姿勢に、会計官たちは深く頭を下げた。


 私は特別な扱いを求めているのではないと付け加えた。私の名が使われた支出も、リディアに渡った品も、同じ基準で確かめればよい。婚約者だった私が恥を隠したと受け取られる余地を、自分の手で残したくなかった。


 確認すべき範囲が広がれば、王家にとって都合の悪い事実も増えるだろう。それでも途中で線を引けば、その線を決めた者の都合が疑われる。私は伝票を閉じず、次の頁を開くよう求めた。


 私刑や過剰な復讐のためではなく、制度の正しさと国民への責任のために動く私の立場は、王宮内でも高い評価を得ることとなった。


 しかし、全項目の帳簿監査が進められる中、一つの重大な違法処理が浮上した。

 会計官が震える手で開いた書類には、『北西河川治水視察費』という名目で巨額の予算が引き出された記録が残されていた。


 北西河川という文字を見た瞬間、私は顔を上げた。ロシュフォール領にも繋がるその川については、3年前に洪水救済計画をまとめた時、過去の水位と堤防の状態まで調べている。視察が行われたなら、現地から報告書が届いているはずだった。


 私は日付を確かめた。ジュリアン殿下が離宮へ2泊したと告白した時期と重なっている。書類の金額は酒食の付け替えだけで済む額には見えなかった。


 会計官が青ざめた顔で告げた。


「ヴィオレッタ様……大変なことが分かりました。殿下が治水視察と称して予算を引き出していたこの日程……現地での視察は、一切実施されておりません」

お読みいただきありがとうございます!

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次回も楽しんでいただけるよう頑張ります!

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