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第13話 波乱の幕引き

「んじゃ、小久保が黒づくめを雇った金額が1千万だったのか」

「そういうことだ」


いつものスーツ姿の武上と、

目深にキャップをかぶり、眼鏡をかけて変装している和彦は、

記者会見場の一番奥の壁にもたれながら、

たくさんのカメラとマイクに冷や汗をかいている寿々菜を眺めた。


芸能人のくせにカメラとマイクに怯えているようでは、

寿々菜が本物のスポットライトを浴びる日はまだまだ先のようである。





新幹線ジャック事件の翌日、

門野社長の案で早速記者会見が開かれた。


ただし、そこに出席するのは寿々菜と、和彦のマネージャーの山崎だけ。

和彦は出ない。


「どうして和彦は出ないんだ?さぞかし注目を集めるだろうに」

「『KAZUが事件現場に居た』ってだけで、充分に注目集めてるだろ。

俺がわざわざ記者会見に出るまでもない」


確かに、先ほどから寿々菜は、

「KAZUさんとはその時、どういうお話をしたんですか!?」とか、

「KAZUさんが、一時人質になっていたというのは本当ですか!?」とか、

「KAZUさんが、警察と一緒に犯人を取り押さえた時の状況を教えてください!」など、

KAZU関係の質問の集中砲火を浴びている。



「それに、記者会見なんかに出ても1円の稼ぎにもなんねーからな。

門野社長が『スゥと違って、お前がしゃべるとなるとマスコミはいくらでも金を出す。だから絶対に突然のインタビューなんかには答えるな!ギャラを多く出すマスコミ順に、お前の話を聞かせる!』だってさ」

「・・・」


こんな時まで金稼ぎのことを第一に考えるとは、さすが芸能プロダクションの社長。

武上は頭が痛くなった。


「そーいや、奥山の怪我はどうなんだ?」

「ああ、たいしたことない。肩をかすったくらいだ」

「じゃあ、もう退院すんのか?」

「明日にはな」



あの時ボスの撃った弾は、奥山の肩と寿々菜のこめかみをかすめた。

奥山は、傷は浅かったもののかなり出血し、和彦に遺言(?)を残して気絶してしまった。

一方寿々菜は、弾が奥山の肩に当たり威力がそげたお陰で、本当に軽くかすった程度。

今も左目の脇に小さな絆創膏が貼られているくらいだ。


が、さすがに目の前で寿々菜に向かって発砲されたのだ。

その時は怪我の状態もはっきりしない。

和彦は寿々菜に駆け寄り、武上はボスに殴りかかった。

幸い、駆けつけた警察官によって、ボスもノッポも、そして少し離れたところにいたチビも、

すぐに逮捕された。


そして、和彦はR社へ、武上は犯人達と一緒に警察へ、山崎は寿々菜と奥山に付き添って病院へ、

行ったわけである。

もちろんすでに小久保も逮捕され、B社はテンヤワンヤしている。



「でも、奥山はこれからどうするんだろうな。

自分を捨て駒にしたB社に戻るのは辛いだろうし、B社にとっても奥山は腫れ物だ」


B社のことを思い出し、武上は暗い気持ちで呟いた。


「ああ、それなら大丈夫だ」


和彦が簡単に請合う。


「え?」

「R社の久保社長が、身体を張って仕事をやり通す、ってゆー奥山の愛社精神に打たれて、

奥山をB社からR社に引き抜いてくれるらしい」

「そうなのか?よかった。・・・でも、こう言っちゃなんだが奥山は、その、仕事があんまり・・・」

「武上も、なかなか酷いことをゆーな」

「・・・あのな」


武上が和彦を睨む。


「ま、あのおっさんが仕事できないのは事実だ。久保社長はそれも承知で引き抜いてくれるんだ。

庶務課長のポストを用意するってさ」


全国の庶務課長が聞いたら気を悪くするだろう。

庶務課長だって、仕事ができる人間じゃなきゃ務まらない。

久保は奥山を育てるつもりで、敢えて背伸びしたポストを与えたのだ。


「あと、ちょっとしたオマケもつく」

「オマケ?」

「奥山を引き抜く変わりに、俺がR社のCMに無料で出てやることにした」


和彦が胸を張る。

が。


「ふーん」

「ふーん、て・・・。武上、もうちょっと驚けよ」

「お前がどこのCMにいくらで出ようと俺には関係ない」


ごもっともである。

だが、門野社長にとってはどうでもよくない!


門野社長はしかし、和彦の勝手な判断に激怒したものの、

マネージャーの山崎がこれまた勝手にスケジュールを組んでしまったので、どうしようもない。

ボランティアだと、諦めることにしたらしい。


が、後日、この「美談」が門野社長によって雑誌に売られることになろうとは、

和彦にも予想できなかった。



「CMの一つくらい無料で出るからって威張るな」

「・・・武上。俺のCM出演料、いくらか知ってるか?」

「CM出演料?」

「依頼してきた企業が、俺の事務所に払う金額だ」

「うーん」


武上は、自分の給料と照らし合わせて考えてみた。



芸能人は金持ちだからなー。

100万円くらいか?

いや、なんでかKAZUは人気があるからな・・・



「500万円、くらい」

「アホ」


和彦が右手の人差し指を立てる。


「1千万!?」

「1億」

「い、い、1億!?」


和彦はニンマリと笑った。


「黒づくめ達、あんなちんけな仕事せずに、俺を誘拐でもすりゃ良かったのにな。

あっと言う間に大金持ちだぞ」

「・・・」

「でも、その割りに、俺って給料もらってねーんだよなあ」


和彦は、口をあんぐり開いている武上をよそに、

寿々菜の後ろに立っている門野社長を見た。

飄々とした感じの男に見えるが、

頭の中では今頃電卓を叩いていることだろう。



あーあ。俺も春闘、やろうかなあ。



和彦は本気でそう考えた。







――― 「アイドル探偵4 波乱の京都旅行 後編」 完 ―――






最後まで読んで頂きありがとうございました。

この後、また第5弾の連載を行いたいと思います。

話数は大して多くないのですが、一話一話が長めなので、

軽く長編になっておりますが・・・

お付き合い頂けると嬉しいです。

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