もう一つの真実
ミーガンが次期当主であるという話は、犯人を誘き出すための一芝居だと伯爵自身が告白したので、ミーガンに対しての視線は厳しいものから、むしろ優しげなものになり、以前の状況に戻った。
ミゲルの葬儀もひっそりと行われた。さすがに血族の一人が殺人鬼であるというのは、醜聞になる。そのため、ミゲルの死は影華の君の災いによるものだと、伯爵は公に発表した。今まで過去にも、きっと権力争いに陥り、同じような状況が繰り返されたのだろうと思われた。
北部の戦線が落ち着きを見せた頃、ミーガンは、はっきり伯爵にギャレットとは、婚姻する意思はないことを伝えた。今までは、伯爵の言葉に従うことが彼に対しての恩返しになると思ったのだが、そうではない。むしろ、自分のことや意見はもっと伝えたほうがよかったのだと、そう思ったから。勇気を出して伝えると、伯爵はまっすぐにミーガンの話を聞いて、頷いてくれた。それから程なくして、ギャレットはリディアとともに、ジブソン領へ戻っていったと聞いた。
一週間ほど休むと、ミーガンの体調はほぼ平常と変わらないところまで回復したので、周囲の反対を半ば押し切って、学園に戻った。
戻ってきて一番にしたことは、王都のカフェを予約することだった。
先日、カリナのお茶会を途中で抜け出してきてしまったので、その埋め合わせをしなければとずっと思っていたのだ。
「いらっしゃいませ」
予約したカフェに向かうと、店員は愛想よく笑う。
「予約していました……」
ミーガンは自分自身の名前を告げると、店員はすぐに席に案内してくれた。
通された席は、ガラス窓からの展望もよく居心地の良い席だった。テラス席もあり、テラスにつながる入り口から時折吹き抜ける風に目を細め、人心地つくような感覚があり、この店を選んで良かったと思わずにはいられない。
「ミーガン、元気だった?」
ほどなくしてカリナも店にやってきた。彼女の家にはあらかじめ連絡を入れていたのだ。カリナの顔を見ると、ようやく学園に戻って来たのだと言う気持ちになる。
「うん。カリナも元気そうで何より」
席についたカリナにメニューを見せると、彼女は目を輝かせた。
「すごい。こんなに紅茶の種類があるお店があるなんて。失念していたわ。どうやって見つけたの?」
「偶然なの。ちょっとこの辺りに用事があって、それで目に留まったのね。それで」
ミーガンはちょっと自信あり気に笑みを浮かべるが、偶然だと言ったのはもちろん建前。カリナに喜んでもらえるように、埋め合わせも含めて、一日がかりでミーガンが探し歩いた店だ。
「嬉しい。ケーキも――、この辺りでは取り扱いが難しいフルーツを使っているものや、本当に素敵なお店ね」
「喜んでくれて嬉しいわ。でも、謝らなければならないのは私の方。以前、せっかく誘ってくれたお茶会を家のことで台無しにしてしまって」
「それはいいの。仕方のないことだわ――もう、大丈夫なの?」
カリナは恐る恐るそう聞いた。
「うん……大丈夫」
ミーガンはカリナに詳しい事情を話すべきかどうか考えてやめた。聞いていて面白い話でもないし、ミーガンの中でもまだ心の整理がついていない部分があった。いつか、もっと時が経てば話せるかもしれない。でも、今はまだ言葉にするのは少し憚られた。
「それよりも聞いたわ」
カリナの次に続く言葉を思い浮かべて、身構えていたのだが、紡がれた言葉はミーガンの思ってもみないものだった。
「ねえ、貴女の家で執事をしていた」
「ケナード?」
「ええ」
「彼は……」
ミーガンは十分にベッドから起き上がれるようになった時にはもう、ケナードはカンニガム伯爵家から姿を消していた。彼はミーガンに手紙を残していた。そこには、彼が秘匿されていた王家の一員だったこと、彼の母親はいつか行方知れずになっていた、姫君であったことが書かれていた。
「王家の?」
「ええ。見つかった殿下が非常に残忍な振る舞いをしているって……でも、私の家にミーガンを迎えにきたあの様子からは想像できなくって。同じ人物なのよね?」
そのやり方は“ケナード”だった時からは想像もつかないものだと、ミーガンも感じていた。そう思うと胸の辺りにきゅっと、小さな痛みが走った気がした。本当の名前を取り戻したケナードとミーガンが再会を果たすのは、また別のお話。
「多分、そうだと思うわ。それよりもね」
「ん? その話よりもほかに何かあるの?」
「うん。私ねやっと、やってみたいことを見つけたの」
ミーガンは嬉しくなって、言葉を矢継ぎ早に紡いでいくのだが、カリナはただ優しく頷いて、いつまでも聞いてくれていた。
暇つぶしに楽しんでいただけたり、面白かったな。など思っていただければ幸いです。
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