表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カルメ・トーウェンの打算に満ちた求婚  作者: 砂山一座


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/6

3 カルメ11歳【誤算】

 週末にアルノの手伝いをする生活が始まり、私の普段の生活は週末に向けての準備が中心となった。

 学園生活は想像以上に穏やかで快適だ。何より、いままで外に出れば必ず感じていた視線を気にしなくてよくなったことが、私たちの心を軽くした。

 でも、出来ることならば、学校に通わないで毎日アルノの手伝いがしたい。

 イオは毎日をラルゴと過ごしていて安泰だけれど、私のアルノ攻略はだいぶ出遅れている。

 難易度は高いけれど、これを頑張れば、私達にとって大きな利益を生む。アルノの太い実家のことを知るたびに、そう思うことが増えてきた。


 学年も終わりに近づいた春の頃のことだ。

 私は、目立たず沈みすぎずと、バランスをとりながら学園生活を続けていた。

 週末を楽しみにするだけの穏やかな学校生活を騒がしくしたのは、同年代の男子からの乱暴で不躾な態度だった。

 特に、同じクラスのボルター・ボッツは、暇があれば私にちょっかいを出してくる。

 少しずつ色が濃くなってきたブロンドを短く刈り上げて、やんちゃに制服を着崩すボルターは、クラスの女子たちから人気がある。けれど、私にとってボルターは、幼すぎる行動が鼻につく嫌な奴だ。

 ――ああ、腹が立つ。

 今も教室に残って当番日誌を書いている私の後ろの席で、何かぼそぼそと小さな声で何か言っている。


「おい、聞いているのか?」

「痛っ……なんですの?」


 無視して日誌を書き続けていたら、ボルターに髪を引っ張られた。


「カルメ・トーウェン、俺の誕生パーティーに来てもいいといったんだ」


 髪を引っ張ったのは、誕生日のパーティに招待するためだったようだ。

 横面を打ってやろうかと心の中で手を振りかぶるけれど、長年の習慣で、双子らしい振る舞いを変えることはできていない。

 私はいつも通りに、怒りを隠して、イオと同じ声音でおっとりと返した。


「あら、ボッツさん、誕生日おめでとう。でも、ごめんなさい。週末は仕事の手伝いがあるんですの。今から迎えがきますのよ」


 当番で教室に残っていたの私だけで、イオたちはすでに教室を後にしている。

 ボルターは人前で私を誘うのが恥ずかしくて、一人の時を狙ってきたのだろう。ボルターのそういう幼稚なやり方が大嫌いだ。


「仕事? 十二の娘を働かせるなんて、おまえの家は余程余裕がないと見える」

「違うんですの、私がやりたくてやっていますのよ」


 こんな時イオはどう考えるのだろう。イオに擬態して笑みを浮かべるけれど、怒りの沸点の低い私は、内心穏やかでいられない。

 ボルターに、実は実家の手伝いではなくてバロッキー家で竜の手伝いをするのだと言えたらどんなに爽快だろう。バロッキーの竜に怯えて、うずくまるボルターを想像することで、どうにか留飲を下げた。


「それじゃボッツさん、よい週末を」


 イオを真似た愛らしいしぐさで別れを告げ、馬車に向かう。それなのに、まだボルターがついてくる。


(面倒なことになったわね。こうなったら、アルノに助けてもらうしかないわ)


 私が困っていたら、アルノが少しは気にかけてくれるのではないかという淡い期待で、馬車に急いだ。

 派手ではないが質のいい細工の施されたアルノの馬車は、いつも校門を出た先の、目立たない場所に停めてある。私が来たのが分かったのか、扉が開いて人影が見えた。

 アルノは目立たないように色眼鏡をかけ、目深に帽子をかぶり馬車から顔を出す。


「アルノ!」


 イオを真似た、愛くるしい子犬のようなしぐさで走り寄ったのに、アルノは私を見ないで、後ろから来たボルターに目をやる。


「カルメ、そちらは?」

「ええと、学友のボルター・ボッツさんです。私――」


 アルノにボルターのしつこさを訴えるよりも前に、ボルターが私の前に跳び出て、覚えたばかりのような姿勢で腰を折る。


「あの!……ボッツ商会のボルターです。これから家で僕の誕生会があるんです! カルメさんを招待してもよろしいでしょうか?」

「え――?」


 ボルターの予想しなかった行動に、焦って声をうわずらせる。

 粗野なボルターを退けるアルノと可憐な私、そういう構図を思い描いていたのに。

 紳士的に挨拶を始めたボルターに舌打ちしたい気持ちになった。


「でも、私、仕事が――」


 冷や汗をかきながらどうにか断る理由をさがすのに、アルノは思案顔で私とボルターを交互に見る。


「別に、急ぎの仕事はない。学生の本分は友好を温めることでもあるらしいし、行ってきたらどうだ?」


 アルノに訴えて、しつこい学友から救ってもらうはずだったのに、真逆の方向に向かっている。

 しまった。我慢しないで、横っ面を張るのが正解だった!


「ボッツ商会のご子息だな。お父上によろしく伝えてくれ」


 アルノには私がパーティに行きたくないのが分かったはずだ。それなのに友好を温めてこいなんて、別の男に目を向けろと言われているようなものだ。

 責め立てたい気持ちを込めてアルノを睨めば、バツが悪そうに視線を逸らして迎えの時刻を告げられた。

 私は渋々、ボルターについて行くことになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ