吾の生涯
「非対称性」
コギトエルゴスムによる強制的な同化から防ぐためその能力の一部を初めて使ったジュリニールは、勝利を確信した。
コギトエルゴスムを用いた自己の増殖——自己と他者の境界の撤廃。それこそが、"黒幕"ジュリニールの狙いだった。
「術式対象を拡張させてくれて助かったよ——おかげで、確実に当たる」
ジュリニールの術式は、結び目理論——それも高次元結び目理論をさらに拡張させたもの。高次元位相幾何学の一種であるそれの術式の万能さは、星輝の支配者をはるかに凌ぐ。
「解」
——その術式が発動した玉響の間に吾は異変に気づいた。
何かが、おかしい。しかしそれがなんなのか考えてもわからない——否、考えられない…?
ジュリニールの声が、遠く聞こえる。
「生きている故に思考する、故に生きている——そんな"にわとりとたまご"のような不死を攻略するにはどうすれば良いか——思考を止めればいいんだよ」
思考が、解けていく。まさか、こんな攻略法があるとは——。
いつからだろう、自分の死を怖いと思わなくなったのは。だがそれは、死自体への恐怖がなくなったわけではなく、自分の死をイメージできなくなっただけなのだろう。——その証拠に、今、こんなにも怖い。
自身、4度目の死。何度経験しても慣れるものではない。
走馬灯が流れる。この身体になってからの、図書館と雨の日の記憶。悠人の伯父として、ユウトに会えた。リリィの兄として、義理の父としてマーサに会えた。それだけで、この人生も——否、キノコ生も悪くはなかったと思った。
解れる思考の中で最後に思い浮かべたのは"今"行われていた戦いだった。
(レオン……アイリ……ルーファス……頼んだぞ……)
(必ず、魔王を——吾を殺してくれ……そして願わくば、リリィを救ってくれ)
そして、吾は消滅した。




