絶望の一通
ある日、星乃悠斗のメールボックスに、件名だけで胃が痛くなるメールが届いた。
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件名:【重要】今後のご執筆活動についてのご相談
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「……終わったな」
「始まったな」
「なにが!?」
◇◇
星乃悠斗先生
いつもお世話になっております。
近頃のご執筆活動に関しまして、いくつかご相談がございます。
特に以下の点について、社内で問題視されております:
・「完結済み」と記載された未完作品の存在
・「御手洗ダンゴ先生も絶賛」など、実在しない人物の引用
・あとがきの3分割および、あとがきのあとがきの存在
・“泣ける”と書かれているが泣けないとの読者からの苦情
つきましては、今後のご契約継続について再検討させていただきたく――
◇◇
「……これ、最後通告ってやつだよな?」
「いや、“再検討”って書いてある。つまり、まだ"ワンチャン"ある」
「お前、どこまでポジティブなんだよ……あともう無駄に強調すんな」
奧昌の提案はこうだった。
◇
編集部に“反省文”を提出。(タイトル:『創作と向き合うということ』)
過去の問題作をすべて“非公開”に。(※バックアップは取ってある)
新作のプロットを提出。「タイトル未定(仮)/ジャンル:純文学風青春群像劇」
「これで、“更生した作家”として再スタートを切れる」
「……俺、何回目の再スタートだよ」
◇◇
このたびは、私の軽率な判断により、読者および編集部の皆様に多大なるご迷惑をおかけしましたこと、深くお詫び申し上げます。
今後は、誠実な創作活動を心がけ、作品一つひとつに真摯に向き合ってまいります。
なお、御手洗ダンゴ先生に関しては、私の中に存在する“理想の作家像”であり、実在の人物ではございません。
星乃悠斗
◇◇
「……これ、逆に文学賞狙えるんじゃない?」
「“反省文で泣かせる作家”って新ジャンルだな」
数日後…
◇
編集部より返信:
星乃先生の真摯なご対応、誠にありがとうございます。
今後のご活躍を期待しております。
※ただし、あとがきの分割は禁止とさせていただきます。
◇
「……生き延びたな」
「生き延びたな」