不老不死になりたいか?
ある日、我が散歩をしていると、森に続く小道で森の精霊に出会った
「ごきげんよう、魔王様」
「やあ、精霊。元気そうだな」
精霊は竜から作られた森の管理者だ。森の理は精霊によって行われている。彼らは我にしか見えない
「最近、魔族や人族の中に我を見出すものが現れました」
「ほう、それはまた面倒な事だな」
精霊が他のものから見えないのは、森の理に干渉されると困るからだ。精霊を見出すと、人も魔族も必ず何かしでかすだろう。それはこれまでの歴史で明らかなので、我は神の頃に精霊を隠したのだ
「何かされたのか?」
「いえ、今のところは何も。ただ…」
「そうだな。必ず何かしてくるだろう。少しの間、竜に戻って姿を隠せ」
「わかりました。その間は誰が管理を?」
「鉱石に任せるしかあるまい」
鉱石は使命を終えた竜の姿だ。とても長い年月を経てその使命を終えた竜は、鉱石となって大きな力を宿している
「我から話しておくから」
「承知しました」
それから暫くして、人族の王であるイナ国王が我を訪ねてきた。旧友となった元コイン国王の息子の息子の息子…だったかな
「魔王殿、ご無沙汰しておる」
「イナ国の王よ、お元気か?」
二人で雑談に興じていたが、やがて王が我に問うた
「魔王殿、最近この森に精霊が現れるという事をご存知か?」
やはり来たか。我はため息しか出なかった
「いや、知らん」
「なんでも精霊の毛は不老長寿の妙薬だとか。興味はござらんか?」
「ない」
国王は精霊の毛をどうしても欲しいので協力して欲しいと言ってきた
「協力はできないが、我らのルールを守るなら森の中は探索してもいい。但し魔王軍と一緒ならな」
「承知した。感謝する」
イナ国王はダンスでもするかのように、軽やかな足取りで帰っていった
我はパラキスを呼び、イナ国に同行するよう伝えた
「よろしいのですか?そのような事に協力して」
「パラキス、お前は永遠に生きたいか?」
我は問うとパラキスは驚いたように答えた
「いいえ、思いません」
「なぜだ?」
「やりたい事は沢山ありますが、満足すればそれで終わり、次の事を考え始めます。ならば、この身体に満足する時も来るはずです。今は充実して活力に満ちて若返っておりますが、我が心が盲の老婆である事に変わりはありません」
「そうだな。体験は満足すれば終わる。この身体を終わらせないのなら、この人生の満足は訪れない」
「つまり、この身体の体験がずっと続くと」
「ああそうだ。命の器は大きくならず、そこで留まっている。永遠の常若に達する事はない。命は不滅だが、生まれ変わり新しい身体になって新たな体験をしていくことが出来ない」
パラキスは暫く考えていたが、やがて
「永遠の常若ですか?」
「道は対と共に螺旋状に進化していく。体験に感動し満足すれば、その階段を一つずつ上がっていく事になる。それが常若だ。別の言い方をすれば同じ体験は二度と起こらない。だが満足しないのなら、愛は満足するまで何度でも同じ体験を与える。不老不死のような身体となって体験を繰り返す事に満足しないならば、それを与え続ける」
パラキスは良くわからないようだ
「わからぬか?新たな体験がないのだ。だから感動もないし、得るものもない。ずっと同じことが起き続ける。その身体に満足したと思うまで耐え続ける事になる」
「それは何かとても不憫だと思うのですが」
「そうだ。まさに忍耐だよ。命も身体も疲弊し、ボロボロになる。それが喜びなのか?人族はそれを好むようだがな」
「精霊はいるのですか?」
「いない」
「ならばやめさせるべきでは?」
「必要ない。探したいなら満足するまで探せばいい。やがて飽きるだろう」
「そうだと良いのですが、そのうちに森を焼き尽くすような事をしなければ良いのですが」
「だからお前達をつけるのだ。いくら探してもいいからと言っても、それは我らのルールの範疇でのことだ」
「必要なら実力行使をせよと」
「当たり前だ。我の許可など必要ない。存分に腕を振え」
「御意」
それか直ぐにイナ国の軍隊である調査隊がやってきた。魔王軍と共に森に入り探索していたが、結局見つからず、季節が一巡りもしないうちに国へ帰っていった
「随分と早くに諦めたな」
我は報告に来たパラキスに尋ねた
「皆聞きわけの良い方々ばかりで、楽しかったです」
パラキスの言い方に何か引っかかるものがあるので尋ねた
「何をした?」
「賭けをしたのです。我らと勝負して勝てたら、この先も探索を続けると」
「それで?」
「コテンパンにして勝ちました」
「まさか身ぐるみ剥いだりしてはいないな?」
「おほほほほ」
ちょっと待て、まさか裸で帰したりはしてないだろうな?風に聞くとそれはもう、彼らのプライドを完全にへし折り、皆泣きながら帰って行ったという
「パラキス、やりすぎだ」
「魔王様、存分に腕を振えとおっしゃて頂きましたので、皆張り切って勝負に挑みました」
まさか、そんなに実力差があるとは
「皆、体験を存分に楽しみ満足したようです」
成程、それは良かった
我はため息しか出なかった




