表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無間の開拓者たち  作者: 紫水晶号
本編
11/22

かつて地獄だった場所(裏)

前話の別視点です

目を開けると、直前まで感じていたはずの恐ろしい程の空腹と虚脱感が無くなっていた。

なら、恐らく私は転生させられたのだろう。

見覚えのある服装、見覚えのある手足、どれも自分の記憶の通りだ。

だが、状況が理解できなかった。


「何、これ」


目の前に広がるのは、私の背丈を超えて全てを覆い隠す様な、緑色の壁だった。

この色は知っている、植物の色だ。

だが、こんな巨大なものは知らない、見たことが無い。

触れて見ると、それはサラサラという音を立てて簡単に押しのける事が出来た。

不思議に思いながらそれらを押しのけて足を踏み出して、そして気付いた。

空が見えない、上を周囲のそれらと異なる緑色の物体が埋め尽くしている。


「……何、これ」


全く持って意味不明、理解不能な場所に居た私は、酷く不安に思っていた。

だからだろう、早くあの恐ろしい二人に会いたいなどと血迷ってしまったのは。


「……ぁ」


明るい方へ、明るい方へと彷徨っていると、あの男の声が聞こえた気がして身がすくむ。

こっそりと、よくわからない緑と土色に覆われた岩じゃないごつごつした物の影に隠れ様子を伺う。

残念ながら、周囲の背の高い緑色が邪魔で何も見えない。

だから、耳に意識を集中させてやると、やっぱりあの男の声が聞こえてくる。

しかも、あの狂った少女の声まで聞こえるのだから恐ろしい。

恐ろしい……はずだ。

恐ろしいはず、なのに、何故、こんなに落ち着くんだろう。満たされるんだろう。


「…………」


……きっと、空腹感が無いからだろう。

あの二人が居るなら、食べ物がもらえる。

替えの服だって貰えるし、何なら寝床だって用意してもらえる。

だからだ、だからこんなに安心しているんだ。そうに違いない……と、自分に言い聞かせる。

だって、二人からは常に恨まれていたはずだ。

男が私を見る目は常に憎悪の色をしていたし、少女の目には常に蔑むような色が見えた。


だけど、結局酷い事は最後までされなかった。

怖いけど、不思議な事に、痛い事もあんまりされなかった。

せいぜい、少女に逆らって叩かれたくらいだったと思う。

あの男が死ぬ度に、少女の数も減っていった。

男の付属物として自分を定義していたあの少女は、自分の男が死ぬと同時に死んでいった。

最後の一人が死んだとき、胸が締め付けられるような、とても恐ろしいような感覚を得た。


それから先は思い出したくもない、建物の隅にうずくまって、死んだはずの二人が食べ物や着替えを持ってきてくれるのをずっと待っていた。目の前の二人が骨になっても、ずっとそうしていた。

男は『神様』とお話する事が出来るみたいで、男がお願いすれば、食べ物も着替えも作ってもらえた。

少女は『神様』とお話は出来ないみたいだったけれど、着替えを手伝ってくれたりもした。

……事あるごとに男への愛を聞かされたり、愛し合った時の感覚を追体験させられたりもした。


およそ楽しい事なんて何もない生活だったけれど、じゃあ退屈だったかと言えばそうは思えない。

恐怖は常に感じていたし、強制的に流し込まれる愛の追体験は自分が自分でなくなりそうで怖かった。

だけど、逃げる事も抵抗することも出来なかった。

時々、追体験からは逃げ出すことはできたけれど、男の声が聞こえると自然とそっちに向かってしまったし、抵抗しようとしても、身体が石みたいに動かなくなった。

私に出来た事は、沢山転生させてしまった同じ男、そして付属物になってまで付いていく事を選んだ少女の集団を前に、ただひたすら『彼』が助けてくれることを祈るだけだった。

だけど、それは無意味な行為だ。

だって『彼』が着てくれるのは何億年も、何十億年も未来の話だったのだから。

来ないと分かっている『彼』と愛し合いたい、あの人たちの様に、だけど私のまま二人で融け合うように、熱く熱く愛し合いたい。

そうしなければ、私が私でなくなりそうで怖かった。


なのに、最後の二人が死んだとき、私は二人にしがみ付いて、死なないでって叫んでた。

死体だって解っているのに、もう動かないって知っているのに、それでも凄く怖かったのに、離れられなかった。

二人で抱き合うように死んでいたのに、二人の腕をむりやり解いて間に入った。

少女の死体が冷え切らないうちに自分から額を押し付け、愛の追体験を求めた。

きっと、私は狂っていたんだろうと思う。自分からそんな恐ろしい事をするなんて。


「なのに、なんで……」


二人の声が聞こえただけで、安心感を感じた。

途端に体が熱くなって、体中に満ちた熱が私に生きていることを自覚させた。

恨まれているのに、嫌われているのに、それでも見捨ててくれない二人の声が聞こえて、涙が零れた。

酷い事しかしてないのに、叱られたけど、それ以上の事はしてこなかった。

沢山貰ってばかりで、何も返せなかった。


男が教えてくれた沢山の物語で、施すだけ施して死んじゃった石像と燕のお話があった。

煌びやかに飾り立てられた石造はとても優しくて、燕の力を借りて困っている人々に施しを与える。

燕って生物がどんな物かは最後まで解らなかったけれど、暖かい場所を目指して空を飛ぶって事は教えてもらった。

そして、その二人の最後が……あの恐ろしい二人と重なって見えた。

困っていると、色々なものをくれる男、男に頼まれて、その色々なものを運んで……あと、男との愛を強引に追体験させてくる狂った少女、少し違うけど、お話の中の二人みたいだった。


私は、あのお話が大嫌いだ。

沢山助けてくれた石像と燕に、何も知らない連中が何をした?

二人の施しに救われた連中は、そのとき何をしていた?

……助けられるばかりで、二人が他の住人に酷い事をされているのに見向きもしなかった。

だから、私はそんな連中にならないように頑張った。頑張ろうとした。

だけど、どうする事も出来なかった。

私も結局、壊れていく石像と燕を、ただ見ている事しかできなかった。

これじゃ、施されrただけの連中と同じじゃないかと苦しんだ。

私は二人を畏れ、怖がり、だけど離れられなかった。

最後の最後で気づかされたことは、私の中で二人は、『彼』程では無いけど、出来れば元気にしていてほしい二人になっていたって事だった。


「……っ!」


少女がこちらを見た瞬間、私は駆けだしていた。

二人から離れるように、前の見えない緑の中へ、何も考えられないままに。

なのに、心が軽い、気分が高揚する、背後から追いかけてくる足音が怖くて怖くて仕方がないのに、なのに……どうして?


何で私、うれしいなんて、思ってるの?


私が愛しているのは『彼』だけ、そのはずなのに……

何で、何でこんなに、嬉しいんだろう?


「待ちなさーい!」


少女の声に、心臓が握りつぶされるような恐怖を感じる。

息が苦しい、緑の壁がどこまでも立ちふさがって身動きが取れない。

……だから、捕まってもしょうがない、よね?


「ひっ」


結局、足に緑が絡まって転んでしまった。

逃げようとする心とは裏腹に、私は少女に捕まってしまった。

間違って、捕まえて貰ったなんて考えないようにする。


「やっと捕まえました、余計な手間を取らせないでください! ほら、何処かすりむいていませんか? 血は出ていませんか?」


叱りつけてくる少女の声に、涙があふれる。

怖い、怖い、怖い、この怖さが懐かしい……

そこでやっと気づいた、きっと、私はとっくに壊れてしまっていたんだ。

だって、毎日のように濃密な二人の愛の追体験なんてさせられたんだ、きっとそのせいだ。


「ご、ごめんなさい……」


涙が止まらない、胸が苦しい、気が狂いそうだ。

口から零れた言葉は、最後まであの男に言えなかった、いつも怒っている少女に対してだけ言えた()()()()()、悪い子だったことを認めるだけの、許してもらうためじゃなくて、ただただ、()()()()()()()()()……

だけど、たった一言、それを口にするだけで胸が軽くなるのだ。


「はぁ……しょうがないですね、ほら、入り江へ向かいますから付いてきなさい」


それを聞いた少女は、いつもこんな風に呆れた様子で、だけど怖くない表情になってくれる。

それを見るだけで、私は満たされてきた。

愛し合う感覚を強制的に流し込まれるのは嫌だし、怒られるのだって怖い、その上この少女は、平気な顔をしてすぐに殴ってくるから猶更だ。

これなら怖いけど手を出さない男の方が……と思ったけれど、それだけは絶対に無いと思い直す。

あの男に触れられるだけで意識を手放しそうになる私に、あの男から触れてくることは殆ど無かった。

ただ、代わりにお話を聞かされるのだ。

それも、的確に私と重なる行いをした人物が酷い目に遭うお話を、だ。

あれに何度心をえぐられただろう、さんざんに心をえぐって、蹂躙して……でも、少しだけ楽しかった。

そんな風に思い出していると、ガサガサと音が聞こえて目を向ける。

少女は既にこちらに背を向けて歩きだしていた。


「あ、ま、待って……っ」


私は少女の背を見ながら足を進める。

今度こそ置いて行かれない様に、転んで見失わない様に、とにかく必死で付いて行く。

二度と石像と燕を見捨てない様に、必死に必死に走った。


……そして私は、神様がどんなに凄いのか、思い知るのだった。

み、短い……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ