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無間の開拓者たち  作者: 紫水晶号
本編
10/22

かつて地獄だった場所

ようやく話が進みます

ふと、目を覚ます。

周囲を見回すと、古びた石造りの建物らしきものに植物の蔦が幾重にも絡まっている。

奥の方はうっそうと生い茂った森が広がっているのが見えた。

続いて自分の身体を確認する。

嫌という程見てきた、見慣れた普段着だ。くたびれた靴にやや色褪せた服、ポケットを探れば、何かとお世話になったキーホルダーが入っている。

空は青く澄んでいて、吸い込む空気はよく肺に馴染む。


「……ああ、ここか」


状況の確認のため周辺の建物の残骸としか言いようのないモノを調べて納得する。

風化が激しかったので最初は分からなかったが、不格好な土器の残骸や壁に刻まれた様々な行為の痕跡は、間違えなく私が住んでいた建物にあったものだ。

と、不意に背後で音が鳴る。

草むらを掻きわけるときの、あのガサガサとした音だった。


「ああ、ここにいらっしゃったのですね」


嬉しそうな、聞きなれた声が耳に流れ込んでくる。

なるほど、彼女もまた問題無く転生できたようだ。


「久しぶり……という感覚でもないか、おはようイワナガヒメ」


体感時間で千年以上を共に過ごし、愛し合った相手の名前を呼んでみる。

分離前の女神だった頃の彼女の目をごまかすため、私から少し離れた場所へと彼女を転生させるというINARI176作成のシステムは今でも正常に機能しているらしい。


「はい、おはようございますニニギ様、お会いしとうございました」


声と共に小走りに駆けてきたイワナガヒメを受け止め、抱きしめる。

彼女にはずいぶんと世話になったし、今生もできればそのままの関係を維持したいと考えている。


「ああ、無事で何よりだ」


そしてイワナガヒメを抱きしめながら空を仰ぐ。

すると、雲一つない青空に、小さな白い何かが見えた。

私の胸に顔を埋め、擦り付けるようにしているイワナガヒメを他所に、その何かへと意識を集中させる。


『……感度良好、おはようなのじゃ!』


この世界に落とされてからずいぶんと世話になっている神様の声に、思わず腕に力が入った。


『……大変お待たせいたしました、前回からどれ程経過しましたか?』


覚えている限り、さいごに通神を行った時、INARI176からはこの世界に到着するまで3849年と言われていたはずだ、だから、それ以上の年月が経過していると思うのだが……


『うむ、3()7()9()8()()じゃな、例の入り江を維持してあるので、そこに明後日には着水予定なのじゃ』


……なるほど、だいぶ無茶をさせてしまったらしい。

思えば、彼女と通神を行うたびに到着予定は短くなっていたはずだ。

いったいどれ程、無茶をさせてきてしまったのかと胸が痛んだ。


『ありがとうございます、ずいぶん頑張っていただいたみたいですね』


私に出来ることは、彼女を出来るだけねぎらう事くらいだ。

他でもない私の為にこんなにも無茶をしてくれた最愛の神様には、どれ程感謝してもしきれない。


『構わないのじゃ、それより……あの連中は無事なのじゃ?』


INARI176に問われ、腕の中で甘えてくるイワナガヒメを見る。

そして周囲に視線を走らせると、ひと際大きく草が揺れ、何かが倒れ込むのが見えた。


『ええ、無事ですね、計画通りに進行していると思います』


なので、その通りに伝えるとすぐに返事が返ってくる。


『ふむ、やっぱりしぶといのじゃ……お前さんの復讐の為の駒とは言え、呆れてしまうのじゃ』


全くだと同意する。

実のところ、前回の最後まで二人は私に依存しきっていて、その方向性が愛か畏怖かというだけだった。

愛に焼かれ続けたイワナガヒメも、畏怖しながら逃げる事も出来ずにいた名も無き彼女も、両方ともがそうだ。

そういう意味で、イワナガヒメに彼女の世話をさせたのは実に効果的だった。


『ええ、特に彼女はある意味、理想通りに育っていますよ』


名前を持たず味方も居ない彼女は、しかし私とイワナガヒメ、そしてINARI176に生かされ続けた。

衣食住の大半を私たちに依存しきっていた彼女が、私たちの死後どれだけ生きられたのかは分からない。

ただ、死ぬ直前に彼女の恐怖に歪みながらも離れられない葛藤に歪んだ顔を見たのは覚えている。

その後遠からず死んだはずだが、彼女はどんな地獄を見たのだろうと考えるだけで気分が高揚する。


「……? ニニギ様、もしかして通神中でしたか?」


胸の中から声が響く、ようやく気付いたらしいイワナガヒメの頭を撫でてやる。肯定の合図だ。

すると、イワナガヒメはすっと身体を離し、私の視線を追って空へと向き直る。


『イワナガヒメは、今ちょうどそちらに視線を向けています』


なので、気にせず通神を継続する。

イワナガヒメにとって、INARI176の降臨は色々な意味を持つ事になる。

私の最愛の女神を前にイワナガヒメは何を思うのだろうか?

……まぁ、付き合いはそれなりに長いので、予想は出来る。私たちにとって悪い結果にはなるまい。


「神様は明後日、始まりの入り江に降りてくるそうだよ」


そうイワナガヒメに声を掛けながら、INARI176との通神へ意識を向ける。


『うむ、照合出来たのじゃ……うむうむ、予定通り()()()()のじゃ』


どうやらイワナガヒメを精査していたらしい、彼女の身体を作ったのはINARI176だが、その方法はこの世界の植物性プランクトンに形成させたネットワークを介する遠隔操作だ、ちゃんと出来ているか確認したかったのだろう。

【ちんまい】のは、ただでさえ自分より先に私に愛される事になるイワナガヒメが、自分より女性的な体を得る事を嫌ったINARI176なりの乙女心という奴らしい。

……おかげで苦労もしたが、他でもないINARI176の可愛らしい我儘なので、問題視はしていない。


「それでは、お迎えに上がらないといけませんね……ちゃんと謝らなくては……」


その()()()()イワナガヒメが囁くような声でそう言った。

何に付いて謝るのかは、まぁ聞くのは野暮だろう。彼女なりのけじめという奴なのだから。


『お迎えに行きたいのですが、入り江まで近づいて大丈夫でしょうか?』


私自身も早くINARI176に会い、彼女を新たな名で呼びたいので当然迎えには行く。

だが、大気圏突入を敢行するINARI176にどこまで近寄って良い物か確認しなくては、INARI176に迷惑になってしまうだろう。


『うむ、問題無いのじゃ! 着水場所近辺の不確定な力を利用して無傷で着水する予定なのじゃ』


この無傷、というのは恐らく周辺の環境の方だろう。

どうもINARI176は宇宙船としての感覚でモノを語る時があるので注意しなければならない。


『ええ、お体に障りないよう降りてきてください、コノハナスセリヒメ(可愛い奥さん)


なので、宇宙船としてではない名前で呼びかける事で、注意を促す。

これで少しでも、神様としての感覚に切り替わってくれると良いのだが。


『のじゃっ!? い、いきなりそっちで呼ばないで欲しいのじゃ、照れるのじゃ……ちゃんと気を付けるから大丈夫なのじゃよ、旦那様は心配し過ぎなのじゃ』


きちんと意図が伝わったようで何よりだ。

何はともあれ、明後日に向けて準備を進めなければならない。

そうなると何が使えるだろうかと考え、すぐに諦める。

前回から既に3000年以上経過しているのだから、使える道具はほぼ残っていないだろう。

植物のネットワークを使えば話は別だが、それでINARI176が降りてくる際に使う分を削っては問題だ。

しかしそうなると、本格的に出来る事が思いつかない。


『とりあえず、入り江を渡る小舟でも用意しておきますよ』


まぁ、出来てもこれくらいだろうという案を出す。

小舟…いや、イカダになるだろうか、周囲を見る限り材料には事欠かない。

最悪、入り江に着水ししたINARI176の近くまで壊れなければそれで良いだろう。

彼女に到着して、それからが本当の始まりなのだから。


『嬉しいんじゃが、旦那様は無茶はしないで欲しいのじゃ、数日あればわしの力で橋なり何なり……』


『いや、私が早く君に会いたいんだよ』


やや食い気味に、INARI176の言葉が終わるより早く返事を返す。

だって、これは私がやりたい事だからINARI176が気に病む事柄ではないのだと、強く主張する。


『……っ! ずるいのじゃ、そんな事言われたら嫌とは言えないのじゃ……待ってるから』


勿論、私にだって気恥ずかしさくらいはある。

だが、通信越しにしか会えなかった最愛の相手を前に、どうしてじっと待ってなんていられるだろうか?

当然、自分から会いに行くに決まっている。


『ええ、ではまた次の通神で……いや、もしかすると次回は会話かもしれませんね』


ついついいつもの癖で通神でと言いかけ、しかしと思い直して言い直す。

そうだ、やっと会えるのだから出来れば直に話したい。

そう心に決めて、イカダ作りに必要そうな道具が残っていないか周囲を見回す。

……岩を切り出していた道具が残っていれば良いのだが、朽ちてしまっただろうか?

最悪、倒木や流木を使うしかないかと覚悟を決めておく。


「……さて、通神は終わったよ」


そう、イワナガヒメに声を掛ける。

イワナガヒメは彼方に見えるINARI176へ向けて一礼するとこちらに振り替えり、口を開いた。


「はい、それではアレを捕獲してから入り江に向かいます、他に用意する物はありますか?」


アレ、というのは言うまでもなく、未だに名前の無い彼女である。

私は当然として、イワナガヒメもアレ呼ばわりする程度には嫌っているのだが、それはそれとして放置するわけにはいかない。

しかし、私が近寄るとそれだけで色々とおかしな言動を始めてしまうため、彼女の世話はイワナガヒメの仕事になっている。


「いや、大丈夫だ……そうだ、道中で乾いた倒木や流木があれば覚えておいてくれると助かるよ」


特に用意は必要ないと言いかけ、思いついたことがあったためそうお願いする。

道具はこれから探すし何なら素手での加工も試みるつもりだが、それはそれとして使える材木があるに越したことは無いだろうと考えたからだ。


「はい、お任せください。

……ほらそこ、逃げない!」


イワナガヒメは返事をしてすぐに声を張り上げ、彼女を追いかけ始める。

それを見ながら、私は嘗て暮らした建物の残骸へと向き直り、探索を始めるのだった。



残念ながら、遺跡と呼ぶしかない状態と化した建物に使えるものは殆どなかった。

運よく、岩を切り出す際に使っていたハンマー代わりの石器が見つかったくらいだ。

解っていた事だが、転生の度に溜めた鍵で作った楔は、見事に錆びてボロボロになってしまっていた。

だがまぁ、完全に素手で作業するよりはるかにマシだろう。

後は黒曜石の類があれば、簡単な手斧を作る事も可能だし、もう少し探してみる事にする。


「にしても、便利になったものだ」


樹木がある、それだけで出来る事の幅が大きく増え、我ながら少しだけ興奮している自覚がある。

なんだかんだと言って、物作りという行為自体は割と好きなのだ。

見た感じでは既に広葉樹林が広がっており、むせかえるような湿気と土の臭いが鼻をくすぐる。

昆虫の類は見えないが、これだけの森になっているなら居ないわけがないだろう。

となれば、貴重なタンパク質やカルシウムの補給源になるかもしれない。

何なら、この世界の植物を管理しているのは、本来は豊穣神であるINARI176が作り、管理しているネットワーク、つまり豊穣心の眷属だ。ならば食べられる木の実だって実っている可能性が高い。

そういう意味でも、森は資源の塊と言って良い場所だった。


そうして暫く探索していると、一本の木がぼんやりと()()()気がした。


「うん?」


そういえば、植物性プランクトンを基礎にして広がったネットワークは、こうした樹木や草花に継承されているのだろうか?

だとすれば、下手に木を切るのは不味いかもしれない、どうにかして間引く木でも解れば良いのだけれど、そういう知識はあいにく持ち合わせていない。

……なので、ダメ元で樹木との通神を試みる。ネットワークに属しているなら、INARI176にする様に通神できるのではないかという考えが浮かんだからだ。


『あー、テステス、もしもし、聞こえていますか?』


うっかりINARI176に繋ぎそうになりながら、何とか対象を目の前の樹木に切り替えるよう、意識しながら思念を飛ばしてみる。

……だが、特に反応は無い。


「うーん、通神が出来れば色々と調べられるんだが……無理か?」


しかたが無いので、手にした石器で軽く樹皮を叩いてみる。


『もしもし、痛かったり切らない方が良いなら反応してくれると助かる』


暗に、反応しなければ切るぞと脅しめいた思念を飛ばしてみる。

実際は、伐採に使える道具も無いし入り江までまだ遠いので、無理にそんな事はしないのだが。


『……っ……』


しかし、今度こそ反応があった。

言葉にはなっていないが、おそらく拒否の反応だったように思う。


『了解、そうだな……今から1回だけお前の表面を叩く、こっちの質問に肯定をするときは1回、否定をするときは2回、叩かれた時の振動を真似てくれると助かる』


そんな風に思念を送りながら、樹皮に傷が付かない程度に、軽く表面を叩く。

する少し間を置いて反応が返ってきた、回数は1回、肯定的な反応だ。

恐らく、理解したという事だろう。


『私は他の2人と共に、この世界に君たちの祖を齎した神様へ会いに行く、明後日、つまり日光が2回途絶えて次に降り注ぐタイミングかな、そのタイミングで入り江に迎えに行くつもりだ、ここまでは理解できるか?』


樹木相手というのも不思議な感覚だが、私の問いへの答えは少しの間を置いて1回、理解できたという事なのだろう。

ならば、あとはこちらの要望を伝えて、条件にあった素材を教えてもらえれば万事解決だ。


『よし、それで私たちは神様の前まで行く為に、入り江に浮かんで行く必要がある。その為に君たちのうち、間違った、あるいは不要な場所に生えてしまった個体があるなら、それを間引く形で使わせてほしいんだが、可能だろうか?』


そう問いかけると、最初に1回、間を置いて一気に2回の音が返ってくる。

肯定と否定、つまり、話は分かったがこちらの提案は受け入れられないか、あるいは都合が悪いのだろうか。念のため確認してみる。


『それは、話は理解できたが協力できないという事か?』


するとまた、最初に1回、間を置いて続けて2回の音が返ってくる。先ほどと同じなら、話は理解できて、協力できないわけではない?


『協力はするが、邪魔だったり不要な個体が無い?』


なので、解釈を切り替え、問い直す。今度は間を開けて、1回と1回だった。

まぁ、素材として適切な木が無いなら無理をする必要もない。

植物とは言え、意思疎通が可能で無関係な相手を傷つけるのは流石に躊躇われる。

なので立ち去ろうとすると、2回の打音が頭に響いた。


『まだ行くな、かな?』


状況から、呼び止められたようなものだろうと当たりを付けて問いかけると、やはり打音は1回だった。

効率は悪いかもしれないが、もうすこし意思疎通を試みて見る事にする。


『協力する事は出来る?』


返事は1回


『ただし、木を切り倒すような方法は受け入れられないか、私たちに害になる?』


これも返事は1回だ


『つまり、別な形で協力してくれる?』


当然の様に1回


『それは、私たちが神様に会う事への協力か?』


これにも1回、となると……


『君たちを切り倒すより有用な素材を知っている?』


力強く返事は1回、なるほど、既に使える素材があるというのなら、確かにこの場で木を切り倒す必要は無いだろう。

そう考え、ふと気になった事を聞いてみる事にする。


『もしかして君たちは、私を知っているのか?』


すると、複数の音が一つに重なり合ったような、響くような打音が脳に木霊した。

あまりの衝撃に思わず倒れそうになり、目の前の木に手を付いてなんとか持ちこたえる。

そんな私の状態に驚いたのか、無作為な打音が連続して響き渡った。

このままには出来ないと考え、なんとか思念を送る。


『ああ、すまない、すこし驚いてしまったよ……そうか、私を知ってくれていたのか、嬉しいよ』


返事は、ずいぶん控えめな強さで1回だった。

どうも心配させてしまっているようだ。


『大丈夫だ、不慣れな対話方法を願い出たのはこちらだし、こういう事もあるさ』


今度は弱めに2回、なんだか謝られている気がしてくる。


『それが謝罪を意味するなら受け取るよ、それじゃ使えそうな素材のところに……ああ、いやその前に一つ質問しても良いだろうか?』


返事は1回、間を置いて1回で両方肯定、どうやら先ほどの否定音は謝罪だったらしい。

そして、もう一つの質問をしても問題無い、つまり時間的制約はあまり無いのかもしれない。


『助かるよ、実は私たちはここに来たばかりでね、食料、つまり栄養源になる物が無いんだ、君たちの実等で食べて良いものがあれば分けてもらいたい、もちろん、種は少し離れた場所へ撒くつもりだ』


今度は、四方八方から1回ずつ、先ほどと違ってタイミングをずらしての返事が返ってくる。

どうやら、結構な数の樹木が木の実を分けてくれると言っているらしい。

これは、種まきも頑張らなければならないだろう。


『解った、本当に助かるよ、近くから順番に……ああいや、持ちきれないと困るな、枯れ枝とかがあるなら教えてほしい、実を運ぶ容器を作りたいんだ』


そう問いかけると、まずは目の前の木から1回の打音と、続けて隣の木、その隣の木と音が聞こえる。

なるほど、聞いておいてなんだがこういう風に案内してくれるのか。

最初は私が方角を問い、次に歩幅を確認してもらってから歩数分の打音を貰って探すつもりだたが、こちらの方が解りやすい。



しばらく音に導かれるままに歩いて行くと、開けた水場にたどり着いた。

湖、というにはやや小さなそこは、見覚えのある石材が転がって居て、恐らくはくぼ地に水が溜まったのだろうと解る。

その証拠に、水中に陸生の植物がいくつか沈んでいる。

見回せば、あちらこちらに細い木や草が積み重なっていた。


「これは、嵐でもあったのか?」


思わず声に出た疑問に、背後から打音が答える。

返事は1回、肯定だ。

どうやら、通神抜きでも質問に答えてくれるつもりらしい、ありがたい話だ。


「教えてくれてありがとう、このあたりの枝で籠、えっと入れ物を作るから、少し待っててくれ」


返事が1回帰ってくるのを受けてから、木の枝や蔦の残骸をかき集める。


……少しして、不格好な籠が編みあがった。両手で抱えれば運べる大きさだ。

以前は自分の筋や髪で作っていたので、最初は手ごたえの違いに戸惑ったが、何とか形になって良かった。あとは目的地まで壊れなければとりあえずは問題ない。

さて、それでは食料を恵んでもらいに行くとしようか。

一応、思念を送る通神方式で樹木に語り掛ける。


『待たせてしまってすまない、それで、食料を分けてもらえるだろうか?』


すると返事はまず2回、間を置いて1回帰ってくる。

無理やり言葉に変換するなら『いえいえ待っていません、食料をお分けします』当たりだろう。

若干私の願望が入っているが、概ねそんな感じだと思いたい。


そうして、聞こえる打音を頼りに一本の木の前に立った。

そして、ふと気が付く。

どうやって実を分けてもらえば良いのだろうか?

考え込んでしまいそうな私に、打音が聞こえてくる。


おや、と思って見上げると、手を伸ばせば届く高さに、ごつごつとした皮の木の実が眼に入る。


『これを採って良い?』


木の実に指先を触れながら問いかけると、やや力強く1回の返事が返ってくる。


『ありがとう、失礼するよ』


感謝しながら実を採らせてもらう。

黒曜石の細片を割って作った簡単なナイフを手に取り、実を採る。手にずっしりとした重みを感じた。

その後も同じように案内され、木の実を回収し続けていると、すぐに籠がいっぱいになった。


『皆、ありがとう、これだけあれば当面は大丈夫だ、貰った実を無駄にしては申し訳ないので今回はこれで十分だよ、本当に助かったよ、ありがとう!』


感謝を告げ、籠を抱えて改めて問いかける事にする。


『それとすまない、このまま入り江を渡るための船の素材まで案内してもらっても良いだろうか?』


そう、私の目的はあくまでもINARI176に会いに行くためのイカダの材料だ。

思わぬ副産物のおかげで多くの問題が解決したが、だからこそ本来の目的を忘れるわけにはいかない。

すると、前の木から順番に打音が鳴る。案内してくれるらしい。

本当に頼りになる木々だ、後で何かお礼をしたいところだが、何が出来るだろうか、その手の事にも詳しそうなINARI176に後で相談してみる事にする。


木々の案内の通りに進んで居ると、大きな木が何本か倒れて居るのが眼に入った。

どうも流されてきた倒木らしく、乾いた泥があちこちにこびりついてる。

私の腕回りほどもある木が、ざっと数えて10本ほどだ。


「これなら、何とかなるかもしれない」


試しに一本に触れて見ると、結構しっかりとした感じで簡単に折れそうにはない。

最悪、これらを束ねるだけでも簡単なイカダにはなるだろう。


『ありがとう、これだけあれば何とかなるかな、助かったよ』


後ろを振り向き思念を送ると、返事は2回だった。

謙遜かな、と思っていると、また1本ずつ音がなる。

……まだあるというのだろうか?


そう思って音に従って歩くと、奇妙なものに出くわした。

恐らくは茎の長い植物だったもの、それが干からびた物体だろうか。

種を放出し終えたあとに残った枯草の様にも見える。

触ってみるとこれも乾いていて、しかも軽いわりに繊維質で丈夫だ。となると……


「あの木々を束ねるのに使え、ということか?」


返事なのだろう、1度、強めの打音が頭に響いた。

何から何まで至れり尽くせりで申し訳なくなってくる。


『本当に助かるよ、神様、INARI176にも君たちに助けてもらった事は伝えておくから』


再び感謝を伝えると、今度の返事は1回だった。

安心して作業に取り掛かる。

枯れた茎を縦に割き、繊維質なそれをいくつか合わせて三つ編みの要領で束ねていく。

3本で一束にし、一端を結んで石で抑え、あとは交互に繊維を編むだけだ。

この手の作業は前までに数えきれないほど経験していたので、かなりスムーズに出来た。

日はまだ高く、この調子なら木々をいくつか入り江まで運び出せるだろう。


「よしっ、じゃあ行くか」


自分に気合を入れる為に言い聞かせながら、出来上がった縄を木に結び付け、反対側を肩にかける。

紐のもう一端は籠に結び付け、籠の重みにも手伝ってもらう。

すると、また打音が聞こえてきた。

方角からして、どうも入り江まで案内してくれるつもりらしい。


「ほんと、至れり尽くせりだなぁ、ありがとう!」


声を張り上げながら、音の聞こえた方へ大荷物を引きずりながら歩きだす。

流石に、これくらいの作業は自分でやらねば、INARI176に釣り合うなんて夢のまた夢だ。

そう、気合を入れてみたのだが……想定外に、手ごたえが軽かった。

まぁ、比較対象が石材なのと、今は私も一人しかいないのでおかしくは無いのだが、中々に違和感がある。

体一つで行う作業は、こんなものだっただろうか。

等と、そんな風に考えながら歩いていると、30分ほど経過した頃だろうか、磯の香りが感じられ始めた。

ああ、もう着くのか、良い素材の場所を教えてもらったものだと笑ってしまう。

ここまで歓待されるほどの事が出来ていたとは思えないが、森の木々はずいぶん気が利くらしい。


『本当にありがとう、これからよろしく』


感謝を伝えながら、入り江へ向けて歩みを進めた。

もう一息!


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