第二章、訪れるは孤独な地底世界 ⑥
【第六話、こいしの過去】
こいしは机を挟んで僕の目の前に座ってる。
…もう5分ほど経ったがこいしはうつむいたままだ。
「……私たちは………100年ぐらい前までは、人の里で暮らしていたの」
「…」
「………もちろん妖怪であることを隠してね。
さとり妖怪は、本来弱い妖怪だったから他の妖怪に襲われないためにも人に紛れて過ごすほうが安全だった」
「…最初からよそ者の私たちが受け入れられたわけじゃなかった。
でも……最初は里の子供たちと仲良くなったの。
そしたらその子供たちが
親に私たちのことを話してくれたみたいで、
その時から私たちは里の一員として受け入れられた」
「そこからの5年間は本当に楽しかった。
子供たちのどんどん成長していく姿は
みていて愛おしかったし、
里の人達も困ったときは力を貸してくれて……優しかった」
「でも……ある日の夕方……」
「……鬼がやってきたの」
「…」
「それは一瞬だった。
里が破壊されるのも、子供たちや里の人たちが
無残に殺されていくのも。
…お姉ちゃんが私の手を引いたことも」
「お姉ちゃんは鬼が攻めてきたときに
鬼の心が殺戮の気持ちしかないことに気づいたの。
だから、すぐ私を連れて逃げたんだと今は思う」
「でもその時の私は、
なんで里を見捨てたのってお姉ちゃんを非難した。
何度も、何度もね。 ……お姉ちゃんはただ黙ってた。
私はもうどうしたらいいかわからなかったの」
「次の朝にお姉ちゃんが里に戻ろうと私に言ってきたの。
もしかしたら生存者がいるかもしれないって、
もしいなかったら供養をしようって。
私も賛成して里に向かったの」
「……里に着いたとき話し声が聞こえたの。
それも聞き覚えのある子供たちの声がね」
「私はお姉ちゃんを置いて走り出した。
ただ謝りたかった。 悪いのは鬼だけど見捨てたのは私たちだから、ただ謝りたかった」
「……でもね、里の人達は私を見るなり言ってきたの。
【こいつとその姉が鬼を連れてきたんです】ってね」
「……ちょうどよかったんだと思う、
よそ者で鬼から生き延び、一日経った今、戻ってきた。
……それに私は鬼が現れた時普段は隠してた…サードアイっていうんだけど、
このサードアイを出しちゃっててそれを見られていたんだと思う。
里の人達の心は怒りや憎悪の他に【妖怪に対する恐怖】があったからね」
「それからはあまり覚えてない……でも里の人達が
投げた石が当たってサードアイの目が閉じたときから、
私は心を読めなくなった」
「気づいたときにはあの大穴の底にいて、
お姉ちゃんも一緒だった。
……さっき鬼怒も言った通り私はもうそんなに人間を恨んでないんだと思う。
でも、お姉ちゃんは違う、
その時のお姉ちゃんはとても怖かった。
……だから私はその時、またお姉ちゃんを突き放したの」
「…私はもうどうしたらいいかわからなくて泣いていたの。
そうしてその時から、能力が変わってずっと一人で、
誰にも気づかれずに地霊殿や旧都ができるのを見てきた。
……これが私の過去」
「…一つ聞いてもいいか?」
「うん。 いいよ」
「こいしは今まで一人だったんだよな?
なら何故、地霊殿にこいしの部屋があるんだ?」
「…多分だけどお姉ちゃんは私を待っててくれてるんだと思う。
私がずっと前にお姉ちゃんなら気づいてくれるかもって地霊殿に行ったときには、
すでに私の部屋があったからね」
「…こいし。 お姉さんに会いたいか?」
「え?…うん。 会いたいよ」
「…よし、こいし!」
「は、はい!」
「お姉さんがいる場所分かるか?」
「うん。 大体同じ場所にいるから多分、分かるよ」
「なら案内してくれ」
「…え? 今から行くの!?」
「ああ、そうだ。 今なら僕の存在も知ってると思うし。
それに、こういうのは早い方がいい」
「…でも、どうやって私をお姉ちゃんに気づかせるの?」
「任せろ。 僕に作戦がある。
こいしは僕をお姉さんのところに案内してくれればいい」
「…まぁ、いいよ。 着いてきて、案内するよ」
「ああ。……こいし」
「なに?」
「今から伝えたいことは決めておいてくれ。
余り長くはもたないからな」
「…分かった」




