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学園生活始めの日(3)

 その後しばらく考えても解決策は見つからず、思うことをそのまま伝えることにした。


「あの、泣かないで?大丈夫だから。ほっほらこの学園は身分とか関係ないんだから不敬罪だっけ?とかなんかで訴えることはないしできないから。ね?」


 そういうと彼女はゆっくりと顔を上げありえないと言わんばかりの目でこちらを見てきた。


「そのようなことはあり得ませんわ。王子様はこの国の唯一の王子でおられるお方、そんなお方に無礼な口を…たとえ学園の中でも許されるはずがありません。」


 やはり彼女は手強い。学園の理事長である王の息子としてはこの学園にいる時だけでも身分を気にせずに楽しみたいのだが、、


「そうかな…。あっそうだ、僕がなんとかするから、今日はもう遅いし帰りな?お父さん達が心配するよ。」


 すると彼女は悲しげな顔で下を向いた。急にどうしたのかと問うと彼女は


「今日からわたくしは寮に入らなければなりませんので、おとうさまが心配することはありませんわ。」


 自分で聞いておきながらひどいことを聞いてしまってと思い、ことばがつまる。


「・・・そっか。ごめんね、嫌なこと聞いて。」


「別に気にしませんわ。おとうさまとおかあさまと会えないなんて、べつに、たいしたことじゃ」


「強がらなくてもいいんだよ?たいしたことないなんて、ならどうしてこんな悲しそうな顔をしているの?寂しいなら寂しいって言わないと辛いままだよ、まだ2回しか会ってないけど僕には辛いこととか全部ぶつけていいよ。」


 あまりにも悲しそうな表情をする彼女にいてもたってもいられず上から目線で自分勝手な発言をしてしまった。しかし彼女の心には響いたようで目に溜まっていた涙がこぼれ落ち、先ほどまでの大人のような凛とした姿とは違い歳相応の女の子のように泣きじゃくる彼女。大人びていてもまだまだ小学校入学直後、親と離れるのはこの上なく悲しいことなんだと改めて思う。


 僕は一度死んで転生したから子供の心はもう持ち合わせてはいない。でもだからこそ強がっている子の心を開いてあげることができるのかもしれない。将来がどうなるかはわからないが学園にいる間は彼女や他の子の他には言えないことを吐き出してもらうのもいいのかもしれない。


 そんなことを考えながら彼女の話に耳を傾ける。どうやら家の名を傷つけてはいけないと思い同年齢の従者の子と遊びたいのを我慢して勉強したり自分の気持ちを隠してやりたいこととは違うことをしていたらしい。それも全て大好きで自分のことを想ってくれているお父さん・お母さんのためだと彼女は言う


「これから何か誰にも言えないような辛いこととかがあって、我慢ができなくなりそうだったら僕に辛いこと、悲しいこととか全部僕におしえて。辛い時は2人で分け合った方が楽になるから。この学園はすべてが平等、もう1人で抱え込まなくてもいいんだよ。」


「あ、ありがとう、ございます。お言葉に甘えてそうさせていただきます。」


 まだ少し涙を流しながら彼女は言った。少し前まで言うことをどうしても聞こうとしなかった彼女が僕の言葉にうなずいた。それだけで、彼女が僕に心を開いてくれたことがなんとなくわかる。


 そして“心を開いてくれた”この事実がとても胸を躍らせる。この気持ちがなにを意味するのか、それはまだわからないフリをして僕は下を向いた。


 すると僕がここに入ってきた時と同じような音がした。音がした方を見ると、そこには僕の執事であるジルともう1人、女の人が立っているのが見えた。

 目が合うと2人はお辞儀をし、僕らの方へと近づいてきた。


「殿下、もう学園を出ませんと御夕食に間に合わなくなってしまいますのでお迎えに参りました。外に馬車を用意しておりますので支度が整いましたら馬車までお願いいたします。」


 ジルはそう言うとまたお辞儀をし外へと向かっていった。


「リリアンヌ様ももう寮へと向かいましょう。先ほどお嬢様の荷物が届きましたのでもう準備ができた頃かと。」


 ジルの隣にいた女性はどうやらリリアンヌの侍女らしくリリアンヌを呼びにきたらしい。気づけばかなり話し込んでいたらしく空が薄暗くなってきていた。


「それじゃあ、僕いくね。今日はありがとう。また話そうね。」


「はい、こちらこそありがとうございました。今日は楽しかったです。」


 2人に別れを告げて外で準備しているという馬車に向かって歩き出した。

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