タワマン無双
ラーメン食べたくなる衝動を抑えたい。
ツイッター➡︎飯倉九郎@E_cla_ss
「確かに静かなところって言いましたけど」
吉良七海は与えられた部屋の窓から下を見下ろしてぼやいていた。
そこは標高百メートルはある、高層建築物の最上部。
「高すぎでしょ」
「フォトンの活用で、最近高層建築が乱立しているの。ここはその一つね」
同じ部屋のソファに座るファラがつまらなさそうに説明してくれる。
「タワマンね。なんかもう異世界感ないなぁ」
「この国だけよ。ここまで高い建物といえば、遙か東にある骨董都市ソンブラにあるソンブラ城くらいしか今までは無かった。一流の建築士が集まって建てた城で、その高さは天をも貫くと言われているわ」
「そんぶら……どんぶりみたいですね」
言って七海は部屋へと向き直る。それは求めた通りキッチンを含めて二十畳はあろう広いリビングで、奥には六つほど部屋がある。
まさに理想の生活だ。異世界生活でタワマン無双だ。
七海は傍に掛けてあったバナナを手に取り、頬張り始めた。
「うまい。バナナがこの世界にあって良かったです」
「こうして同じような生命体が存在する以上、貴方のいた世界とこの世界にそう大きな違いはないはずよ。生き物というものは、環境で大きく姿かたちを変えるから。似ているのであれば、似た環境なのは然るべきよ」
「なんかそんなこと歴史の授業で言ってたような気がします。この世界でもそういう学問は発達してるんですね」
「何度も言うようだけど、この国は特別よ。最先端の科学や学問に力を入れていて、他の国よりも何十年も何百年も先を行ってる」
「まさに科学大国ですね」
「さっきはミァンを馬鹿にしたように言ったけど、ああいった文明レベルの国はそう珍しくないわ。まだまだ飢饉や飢餓で滅びる国も多い」
「助けてあげたらいいじゃないですか」
「助けてるわよ。でも世界は広いの。私たちでは手の届かないところの方が多い……。交通網も発達していないしね」
「というかどうしてここにいるんですか?」
「貴方いつも突然話を変えるわね」
「もうその話はいいかなって」
「飽きないでよ。興味持ちなさいよ」
「まぁ、追々」
バナナを齧り終えゴミ箱へと投げ捨てる。が、外した。
「ちょっとちゃんと片づけて」
何故かファラが立ち上がって捨て直す。
「なるほど。ゴミ捨て係ですね」
「違うわよ。貴方の監視役よ」
「監視役兼ゴミ捨て係」
「兼ねてないわよ!」
「ファラさんって偉い人ですよね」
「立場的にはね」
「次期国王?」
「と言われているけど、どうかしら」
「なにか含むところがありますね」
「お母様を見たでしょう。あの人に認めてもらうには一筋縄じゃいかない」
「え、でも娘でしょう。世襲でなんとかなるでしょ。なんだかんだ死ぬときに席譲ってくれますって」
「不謹慎な事言わないで。それにそういった世襲制が旧時代的であるという風潮があるのもまた世の流れよ。だからそれらを黙らせるために、国民に認められる人間にならなくちゃいけない」
そう言ってファラは暗い陰を落とす。
「親に認めてもらうのは……なかなか難しいですよね」
「何? 貴方もご両親とうまくいっていないの?」
「ファラさんはうまくいってないってことなんですね」
「うっ」
「でもそんな偉い人が監視役なんかするんですか?」
「これもまた重要な仕事よ。偉そうにふんぞり返っているだけの人間を誰も認めない。お母様自ら魔人討伐に赴かれるのだから、ソーラスの人間は誰しもがそうでなければ示しがつかない」
「つまりゴミ捨てをやると」
「話を戻さないで。それに、貴方がまた暴れ出さないとも限らないでしょう。まだお母様たちは貴方を魔人の手先だと信じてる。そんな時止められる人間じゃないと」
「いや、ファラさん全く止められてなかったですよね。完敗してましたよ」
「あれは突然で不意を食らっただけ!」
「不意でやられるようじゃ、ざまーないですね」
「じゃあ、やる?」
「無抵抗の人間をなぐり殺すのが趣味ならぜひ」
「……貴方と話していると馬鹿になりそうだわ」
毒気を抜かれ、ファラは殺気を解いた。
「僕がミァンに戻らないか見張ってるんですよね」
「……」
「大丈夫ですよ。戻りたくても、戻れないですし。馬で半日とかでしょ。途中山賊とかもいて危険だって聞きましたし」
「嘆きの森ね。行き場を失った亜人族と、妖精が棲まう森。対価無しに通ろうとするものに容赦ないわ」
「妖精さんが可哀想ですね」
「なんでそうなるの?」
「山賊に妖精がいじめられるじゃないですか」
「何を言ってるの。妖精は人を騙して誘い込み、狂わせて遊ぶ魔種の一つよ。あらゆる者から忌み嫌われているわ」
「あれ、それって確か、バンシーでしたっけ」
「そうよ。知ってたの」
「あー会いました。あれが妖精だったのか……なんか僕が知ってるのと違う」
どうやら同じ言葉でも、それが意味するところは異世界と違いがあるようだ。
「バナナって、バナナですよね」
「どういう意味よ」
「変な意味はないですよね」
「……なっ、馬鹿!」
「待ってください。何を想像したのかわからないですが、それとは違いますよ」
「え、あ、そうなの? じゃあどういう意味なのよ」
「もしかしたら男性器って意味があるんじゃないかって」
「思った通りじゃないの!?」
「ち○こって思ってたんですか!? 王女であるファラさんが!? ち○こって!?」
「言わないで!! 二回も言わないで!!」
「まぁお付き合いをしたことが無くても、知ってるものなんですよねぇ。王族でも。あ、薄い本読んでるからか」
「不敬よ! 学校で習ったのよ! それ以上もそれ以下もない!!」
「学校って……嫌だなぁ……ますます異世界感がない……」
「ていうかミァンに戻りたいの? あなた、ソーラスに来たかったんじゃなかったかしら」
「ん? そう言われれば初めはそうでしたね。そうじゃん。目的達成してるじゃん」
はっとしてガッツポーズを決める七海。だがそこに言葉以上の覇気がない。
ファラはその様子に気がついているようで、半眼で睨みつつ、
「普通、元の世界に帰りたくなるものだと思うのだけど。友達にも会って安心したいはず」
「ん~。漠然と、戻らなければいけないと思ってましたけど。でもよく考えたら元の世界に戻らなくちゃいけない理由ってないんですよね……」
「家族は? さすがに心配してるわよ」
「どうでしょうか……あの人たちは、僕がいなくてもいいっていうか」
「?」
「とにかく、いつか戻れたら、それでいいんです。慌てて戻らなくても」
「じゃあ、友達は?」
「いません。あ、今引きましたね?」
「引かないわよ。私もいないもの」
「うわぁ……」
「なんで引くのよ!?」
「仲間ですね。僕も他人からはこう見られてるんでしょうね」
「別に引きはしないわよ。ただ、どうしてかは気になるわね」
「苛められているわけでも、迫害されているわけでもないんです。表面上は……当たり障りない存在というか。ただみんな平等に横並びに立ってるけど、実は後ろでは手を組みあっていて、僕は誰とも繋いでないみたいな?」
「わかるような。わからないような」
「被害妄想半分ですから。笑って聞き流してください」
「それが……それが、魔人と共感した理由?」
孤独に玉座に座る魔人と。
「それはないんじゃないですかね。僕は元々持っていない。魔人さんは持っていたものを失った寂しさに耐えている。根本的に違いますよ」
「じゃあどうして、あの魔人に好意を寄せるのかしら?」
「顔ですね。あとスタイルもめちゃ好みです」
「真剣に聞いた私が馬鹿だったわ」
ファラは呆れたように息を吐いて立ち上がる。
先程からヒラヒラと揺れる短いスカートに目にいって仕方がない。
この国の制服は、聊か扇情的過ぎるのではないだろうか。
「どうしました? 観光行きます?」
「残念ね。私は仕事があるから抜けるわ。観光ならお一人でどうぞ」
「監視は?」
「あの短剣もないし、ミァンへ向かう手段もないからひとまずは安心する。ただ常に別の監視がついていることは忘れないで。近くにはいないけど、どこからでも見てる」
「トイレも?」
「馬鹿」
ファラはイラッとした表情を見せて部屋を出て行った。




