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魔人さんは動かない  作者: 色川玉彩
第5章
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23/36

探索探索♫

サンドイッチが食べたくなってきた。

ツイッター➡︎飯倉九郎@E_cla_ss


「さて。どこへ行こう」


 リフトを使って地上に降り、自動ドアの玄関を出たところで七海は一人呟いた。

 改めて見渡すソーラスという国は、右も左もどちらに行っても面白そうだ。


「あっちは……商店街かな? んで反対が、住宅街? 奥に見えるのが……工場とか?」


 なんて一人で言ってみる。誰も答えはしない。


「腹減ったな」


 そう言って右手へと進むと、両脇に店が並んだ通りに出る。上には雨避けのアーチまであり、想像していたようなバザール感はない。


「野菜。果物。魚。肉……ほんと、地球と変わんないんだな。強いて言えば、ジャガイモみたいなのが多いかな」


 食材市場のような場所を抜けると、道端にテーブルが並ぶレストランやアイリッシュパブのような飲食店が集まっていた。


「おお」


 見渡す。文字は読めないが、なんとなく店の雰囲気と匂いで判断し、近くのケータリングカーまで近寄った。

 ケータリングカーと言ってもそれは自動車ではなく、馬車のような形態で行っている。

 馬車の先に繋がれているのが馬というよりカバのような生き物に近いのが、何とも言えない異世界感がある。

 これでこそ、異世界に来たと言うものだ。


「すみません」

「ハイ」


 ぎょっとする。振り向いた店員が人間とは違う種族だったからだ。

 肌が薄青で、鼻が長い。まるで象のような。


「えーっと……それ、ください」

「ハイ」


 もったりした返事でその生物は背中を向け、反対側の調理場で調理をし始める。

 少しすると出来上がったのかこちらを向き直り、


「ハイ」


 多きいラスクのような形をしたパンに、揚げた魚のようなものと、葉野菜、そして()かして崩したジャガイモとチーズが挟まれた物が出てきた。七海が知る物で一番近いのはサンドイッチだろう。


「おおっ」

「ソースハ?」


 と言われても、赤、白、緑、黄……並んだソースの違いがわからない。


「じゃあ、その緑ので」

「ハイ」


 ブチュア――と、緑色の得体のしれない液体が上からかけられる。

 紙で包んだそれをさっと差し出されるが、目の前のそれよりも、すぐ傍でうねうねと動く長い鼻に触ってみたくなる。

 それを我慢して七海がそれを受け取ろうと手を差し出すと、それはすっと横に逃げ、代わりに長い鼻が手の上に乗った。

 感触は思っていたよりも柔らかい。爬虫(はちゅう)類と人間の間くらいか。


「あの……」


 困惑で見ると、店主は「こっちですよ取りなさい」と言わんばかりにサンドイッチに目線をやる。

 そちらに手を伸ばす。

 だがやはり代わりに鼻が乗せられる。


「オカネ」

「あー」


 言われてそうだよな、と思い至る。

 しかしもちろん、お金など持ち合わせてはいない。


「ファラさんって知ってます? あっこの大きいお城に住んでる。あの人につけといてください。話は通してるんで」


 多分。と心の中で付け加える。

 店主は一瞬悩んだ後、「ブハハ」と笑って、サンドイッチを手に乗っけてくれた。


「ありがとうございます」


 ちゃんとした肉を食べるのはいつぶりだろうか。やはり魚だが。

 香ばしい匂いが鼻腔(びこう)をくすぐり、腹を鳴らす。

 かぶりつく。余計な言葉はいらない。美味い。その一言に尽きる。

 挟んでいた揚げ物は白身魚で、いわゆるフィッシュバーガーといったものだろう。臨海国らしい。緑のソースはバジルソースだったようだ。

それをむしゃぶりつくように食べつくす。あっという間になくなってしまった。


「満足」


 エネルギー充電完了。

 気を取り直して観光だ。

 噴水広場のようなところに出た。休日なのだろうか、家族連れの面々があちこちで楽しそうに談笑している。カップルも多いみたいだ。噴水の水は水路を辿って国の中央に向かって進み、いくつかが合流して下の海へと流れ出ている。


「水の都……かな」


 あちこちの水路をエスニックな船が行きかい、賑わっている。

 その様子はとても楽しそうで。とても幸せそうで。


「……」


 なんとなく居心地が悪くなり、七海はその場を後にした。


          ○


 中心から外周部に向かって進むと、どんどんと人気が少なくなっていく。脇に見えた細い路地に入る。


「お兄さん、どう?」


 近くの建物から顔を出した女性に止められる。

 それは白い肌に、ウサギの耳のようなものが生えた、おそらく亜人種だろう。先ほどのサンドイッチ店の店主もそうだった。

 本当にこの世界では、様々な種が混在して生活しているらしい。


「どうって?」

「んふ」

「んふ?」


 ひょいひょいと耳で手招きされ誘われる。

 そう呼ばれては気になる。七海は疑うことなくその誘いに導かれ建物の中へと入る。

 中はまだ夕方前だというのに照明がなく暗い。小さな蝋燭(ろうそく)などが間接照明のようにぽつぽつとあるだけだ。しかも色が緑色と薄気味悪い。


「ここ、座ってて」


 言われて座る。三畳ほどの小さな部屋に、赤い皮のソファだ。渡されたコップには水らしきものが入っている。

 入ってきた入り口はカーテンで閉じられている。


「なんのお店だろ?」


 コップを口に運ぶ。

 一口飲むと、それが水ではない別の飲み物だとわかった。


「うえ……これお酒?」


 飲んだことのないえも言えぬ苦味に顔をしかめる。

 すると七海の正面の壁がぱっと明るく光った。

 正面には人一人が立てるくらいのお立ち台があり、脇の隙間から一人の女性が出てくる。

 先程のうさみみの女性だ。

 だがその服装がおかしい。先程はローブを(まと)っていたから気づかなかったが、彼女はお腹を出し胸だけを隠した際どい格好をしていた。下は今にも見えそうな短いスカートだ。


「へ……?」


 突然現れた魅惑的な女性に唖然とする。

 その女性は身体をくねくねと動かしながら椅子に座る七海に近寄り、豊満なボディをぎりぎりまで寄せてくる。


「ちょちょちょい!」

「なに? お兄さん外国の人? はじめてかしら? 可愛いね」


 そう言いながらも、ウサギの亜人は七海の肘掛けに両膝を乗せて激しく踊る。


「ストップストップ!」


 慌てて彼女を突き放し、椅子から立ち上がる。


「なに? 今さら無しはなしよ。もう始まってるんだから」

「自分、未成年なので」

「十分大人よ大丈夫。それに今日からファリガーウィークよ? 国中が浮かれるお祭りなんだから、楽しまないと!」


 言って女は七海が口をつけた酒をぐいっと飲み干す。

 顔がほんのりと赤みを帯び、目がとろんとなる。


「ご、ごめんなさい。帰ります!」

「え? ちょっと! 代金は!?」

「ファラ・ソーラスにつけといてください!」


 そう言い残して店を駆け出る。

 どうやらいわゆる大人の通りに入ってしまっていたようだ。異世界だから気にする必要はないのかもしれないが、どうにも現代日本で生まれ育った七海には、罪悪感が働いてしまう。

 いかがわしい通りを抜けて落ち着くと、既に陽が落ち辺りは暗くなっていた。

 なれない土地で危ないと思い、中央の繁華街へと戻る。

 すると先程までとは打って変わって、辺り一面が緑色の照明で照らされ幻想的な様相となっていた。


「おお」


 音楽が鳴り響き始める。

 噴水の周りではハープや笛のような伝統的な楽器を持った楽団が音楽を弾き鳴らし、一層情緒的な雰囲気に包まれる。

 先程よりも人が増え、活気に溢れ返っている。

 行き交う人々の表情は至福に満たされ、自然と七海の顔にも笑顔がこぼれる。


「さっき言ってたお祭りか」


 あちこちで音楽に合わせて踊る人々がいて、七海の身体もついそれにつられ始める。

 先程のサンドイッチ屋さんの前を通ると、象の店主と目が合った。無口だった彼も身体をリズムに揺らしながら、その長い鼻を七海に振ってくれた。


「3、2、1!」


 カウントダウンが聞こえて中央部、穴の空いた滝壺部分に視線を向ける。

 中央の穴に向かって流れていた無数の水路に向かって、各所から何か液体を投げ入れた。すると、青かった水路の水が一気にほんのりと輝く緑色に染まった。それは走り抜けるように中央へと向かっていき、下の海へと流れ落ちる。


「おお~」


 一気に歓声が上がった。そして拍手も。

 それがスタートの合図だったのだろうか、鳴り響く幻想的な音楽が一斉に勢いを増した。


「祭り……お祭りか!」


 気分が高揚(こうよう)せずにはいられない。

 七海の足取りは自然と軽くなった。

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