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18.翌朝

 視界にボンヤリと柔らかい毛並みが映る。

 俺は一度目を閉じ。―――それからゆっくりと開いた。


 目の前にあるのはベージュのふわふわとした毛皮。


 ヨツバだ。


 ドキリと胸が高鳴った。

 息が掛かるほど近く。ベッドの、俺の枕の横にちんまりと鎮座している。四つの足は丸まった体の下に収納され、置物みたいにチョコンと乗っかっている。


 昨日の記憶を呼び覚ます。そう言えばヨツバが脱走して……ベッドの下に潜り込んで結局何をしても出て来なかった。諦めた俺は、念のため食事やトイレに困らないようにケージを開け放ち、ヨツバを放置して眠る事にした。週初めから寝不足じゃ持たないしな。

 そうして夢も見ずにコンコンと眠った。たぶん色々あって、疲れていたんだと思う。


 思わず好奇心が湧いて来て、ジロジロと目の前のうさぎを観察してしまう。

ヨツバは耳をダラリと降ろし、目を閉じ眠っているように見える。毛の一本一本まで見分けるくらい近くでくつろぐヨツバを見ていると―――胸の奥がギュッと苦しくなった。こんな風に懐いてくれるなら。うさぎを可愛がる飼い主たちの気持ちが分かるような気がする。

 あっ……ヒゲがある!しかも口元から伸びるそれは思ったより長くて多い。こんなに立派なヒゲをたくわえているなんて、イメージと違ったな。ちょっと離れた処からだとよく見えないから分からなかった。




 ほとんど無意識だった。

 俺は誘われるように手を伸ばし、ヨツバの体に触れた。




 ふわっ




「うわ、やわらけ……」




 その瞬間。ピュッとヨツバが脱兎のごとく逃げ出した。

 残像さえも残さないその速さに、呆れると言うよりやはり、と感じてしまったのは、それだけヨツバに慣れて来たと言う事なのかもしれない。


「あー逃げたか」


 意外と。残念な気分だった。


 偶々気まぐれでベッドに上りたくなったのか、それとも俺に全く見向きもしない素っ気ないこのうさぎでも、さすがに夜眠る時に一人でいるのは寂しいと感じてしまうものなのか。


「いい手触りだったな」


 先ほど僅かに触れた指先を、寝転がったまま見上げてフッと笑う。少しだけ気分が浮上した。昨日の苦労も吹き飛ぶ……とまでは言わないが、ささくれ立ってヤサグレていた気持ちが癒されるようなそんな気がした。


 よっし、今日も仕事だ。

 起きるか。


 ベッドの上に手を付いて体を起こす。

 その時、右手にヒヤリと違和感を感じた。


「ん?なんだ……?」


 そっとシーツから手を剥がすと、そこには。




「うっ……えええええ!」




 少し温もりの残る濡れた部分。

 これはまさしく……うさぎの……。


「ヨツバよ……勘弁してくれ……」


 子供もいない、結婚すらしていないと言うのに……朝っぱらから、おねしょの後始末をする羽目になるとは思わなかった。

 そしてこの経験から、奇しくもうさぎについてもう一つ新たな知識を得る事となったのだ。




 結論:出したてのうさぎの尿は、それほど臭くない。トイレ掃除は早めに行うのが肝要。

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