3-4.私と彼女、これって少し珍しい組み合わせかもしれません
秋は収穫、実りの季節でございます。いやあ、食べ物が充実していて実にお紅茶パーティーがはかどりますね。
た、体重? ふ、ふふ。しょっちゅう走り回っている私のエネルギー、なめないで頂きたい。歯磨きはしっかりしないといけませんけどね!
ええ、だからそうですよ。なんか憂鬱だった事があった気もしないでもないですが、甘いものと美味しいお紅茶があれば、嫌なことなんてすぐに吹き飛びます。それが女と言う生き物に与えられた素敵な特性。私はもしゃもしゃと甘くやわらかな口の中のハーモニーを噛みしめながら、うっとりとその余韻に浸ろうとします。ああ、甘くわずかに苦いまろやかな栗を包むは、ぱさりとしたけして優しくはない感触。けれどお紅茶と一緒に味わうことで、つれない態度だったスコーンはふわんと広がり、舌の上ではかなくも消えて行こうとする。噛みしめるこのサクサク感がどれほど私に安らぎを――。
「はあー」
って、おい。私がせっかく慣れないグルメリポートに一生懸命勤しんでいたのに、そんな大きなため息つかれたら台無しじゃないですか!
色とりどりのお菓子たちの中から、次はねこさんマークのクッキーを選ぼうとしていた私でしたが、一緒にお菓子をつついていた方の口から漏れ出た音にずるっと姿勢が崩れました。
「ちょっとゼナさん」
「あーごめん。別につまらないわけじゃないのよ? ただ、今日は私達だけかって思ったらなんかこう、ねー……」
そう、本当は今日も四人でお茶会の予定だったんですけど、お姉さまもフィレッタも急用が入ってしまったらしく来られないとか。ですから今は、四人の中ではちょっと珍しいこの組み合わせ――近衛騎士である私と、文官であるゼナさんの二人だけで山ほどのお菓子をつついているわけなのです。
茜色の斜めにカットしたボブがトレードマークである文官さんは、物憂げにテーブルに頬杖をして足を組み、ふらふらとさせています。ちょっと、レディがお行儀悪いですよ。まあ彼女、庶民出ですけど。
私が少々じとっとした目で見つめていると、彼女は唇を尖らせます。
「そりゃあね、また忙しい季節がやってくるんだし、侍女長さんは引っ張りだこでしょうよ。ところでさ。それじゃ本来なら警護担当であるところのはずの君は、どうしてここで暇そうにしてるのかな」
「うっ」
思わず左胸に手を当てて呻くと、ゼナさんの細い目がさらにすうっと、一本の線のようになります。
「ははーん。大方、手伝います! ってアピールしたのに、なんだかんだ理由つけられて追い払われたね?」
「ううっ――そっ、そういうゼナさんはどうなんですか? こんなところで優雅にくつろいでいられるほどお暇なのですか?」
即座に反撃に出たつもりの私でしたが、相手はしれっとした態度で痛くも痒くもない様子でした。
「私は自分の分のノルマ、ちゃんと片づけてここに来たんだもの。最初から仕事がもらえない子とは違うのだよ」
あっ、ぐうの音も出ない。
私がそれでもあうあうと口だけ動かして何か言おうと考えている間に、ゼナさんは頬杖の手を顎に持ってきて、口元を覆う考えるポーズになりました。
「でもさー、それって本当はよくないんだよ。スフェリは他ならうまくやるのに、君の事になると妙に頑固で過保護だからねえ。君自身、思ったことはないかい? もっと自分は大丈夫なのに、姉さんがやらせてくれないってさ。我々先達のすることは転んだあとのフォローであって、転ぶ前からなんでもかんでも取り上げてしまうようなやり方ってどうかと思わないか? 私は好きじゃないな、そういうのって」
お姉さまの話題に目を輝かせ、次にマイナス意見にむっとしてすぐさま彼女を擁護しようとした私でしたが、結局真面目な顔をしたゼナさんに相手に何も言えませんでした。
お姉さまがあらゆることに秀でていらっしゃることはよく知っていますし、素晴らしい事だとは思うのですが、それゆえに私に先回りして突っ走って行ってしまうところには、それこそ幼い頃から疑問と心配を抱いていたところだったのですし。
すっかりしょんぼりした顔にこちらがなったからでしょうか、ゼナさんは気を取り直したように咳払いします。
「まあ、家族の形はそれぞれってのも一理あるんだろうし、君たちがそれで構わないのなら私もこれ以上とやかくは言わない。けどもし、もう少し君が自立したいってことなら、いつでも私に相談してくれるといい。うまく私の方から彼女に話しておくからさ、仔馬ちゃん」
「……だからなぜそう、素直にありがとうと言えない語尾を付け加えるのですか!?」
「ふふん、そこでありがとうが咄嗟に言えないから、君はまだちゃんのレベルなんだ」
ぐぬぬ、くっそう! 今日のお紅茶パーティーにお姉さまがいないからか、それとも私が本調子じゃないからか、なんかいつものようにポンポン言い返せない!
これがリオスだったら言い負かされるのが悔s――いやそのそんなことあってはならないことであり、つまりは黙ったら負けだと思うので必死に応戦しまくるところなのですが。ゼナさん相手だといまいちそこまで気分が盛り上がらないと言うか、年上の女性ですし多少は素直に言う事聞く気になると言うか。これで栗毛ちゃんだの言ってこなければ、もっと素直に言う事聞く気にもなるんですけどね。なんかいつも、大人に子どもがあしらわれているみたいな構図になって悔しい!
あっ。さっきのに補足しておきますけど、別に朕相手だと気分が盛り上がるとかそういうわけじゃありませんからね。ささくれ立つんですからね――って私はなんで急に言い訳を始めているんだ。
なんでだろう、最近、と言うかキルル先輩のイベントが終わってから特にだろうか。あいつの事を話題にすると、気持ち悪いツンデレみたいな事になってしまう。解せぬ。私は奴が気に食わなくて仕方ない、それで合ってるはずなんだ。けしてその、度々借りを作っているから微妙にその辺気にしているとかそんなわけは。
――あーもー、あの押し売り男め。覚えてろよ! いつか全部利子も含めて返済して、釣りはいらねえよって言ってやるんだから!
ゼナさんはそんなことを考えてうんうん唸っている私を放っておいて、楽しそうにお菓子とお紅茶を交互に味わっていましたが、そうだ、と再び話しかけてきます。
「アデル、それでフィレッタの方は? 彼女は今日どうして来られなかったの? 例の彼とデート?」
「ええ、まあ。露店で一緒にお買い物するらしいですよ。ゼナさんに会いたがってはいましたけど、キルル先輩もお忙しい方ですから」
「あー、いーのいーの。恋人は大事にしないとね」
ゼナさんはニヤニヤしながら手を振ります。
まあ、忙しくなった原因は明白で、上司が仕事増やしたからなんですけどね。
露骨にどっさり増えた量に、さすがに作為を感じ取ったワンコが直接問い合わせてみたところ、
「安心しろ、同棲始めたら嫌でも見飽きる。それに会えないぐらいの方が盛り上がるもんなんだっつーの、わかってねーヤローだな。……ああん? うるせーな、よしわかった、それじゃ本音を言ってやろう。朕を差し置いてリア充しやがる生意気な後輩は爆発すればいい。大人げない? お前、朕と何年の付き合いだよ、今更すぎんだろ」
ってお答えが返ってきたとか、訓練の休憩中に寄ってきたかと思ったら嘆いていましたし。まあ、ワンコがぼやいてたのは、そんなことない見飽きるはずがないうちの彼女マジ可愛い(話が長かったので省略及び意訳)って辺りですが。
後日、嬉しくありませんがフラメリオの所で朕とも遭遇したので、奴からもそのあたりの話は聞き出すことができました。
「つーか元はと言えば、最低三人は欲しいとかちゃっかりアホな家族計画ぬかしやがるからだろうが。あいつは飲みもしないし打ちもしないが、とにかく食うからな。五人前とか余裕だ。三人もあいつもどきが増えたらエンゲル係数どんだけ行くと思ってんだよ。今のうちから蓄えといて損はないって、むしろこれ親心だって。……母親に似る可能性だぁ? アデル、朕は予言する。賭けてもいい、一人目はキルル似の男だ。あいつの行動パターンと特性からして、絶対そうだ」
って肩すくませながら言ってたのですから、朕王が先輩の当番や予定を増やした真相は、呪い半分祝い半分ってところなんですかね。
地味に予言が本当に未来を言い当てているかもしれない辺りが、さすがに青春時代をともに過ごしてきた野郎の仲ってところなんでしょうか。原作のベストエンド通りだと、確かに一人目はキルル先輩そっくりな男の子なんだよなあ……。
にしてもリオスの話聞くと、最低三人て。私そんな鬼畜計画フィレッタからはもちろん、ワンコからも聞いてないよ。いや、原作のアデラリード相手ならともかく(私自身の事でもありますから断言しますが、この身体無駄に健康体なので)、相手は病弱で小さなフィレッタさんですよ。わかって言ってるのだとしたら鬼畜、わかってないんだとしたらただのバカですね。……後者かな、たぶん。幸せでなんも考えてないでしょあの駄犬。
しかしこれは悩ましいですよ。どっちが正しい友のあり方なのでしょうか。
ワンコに意識革命を求めるとともに、フィレッタに忠告を入れるべきなのか。それともワンコには優しく肩ポンし、フィレッタにそっと滋養強壮剤的な何かを差し入れて激励を送るべきなのか。
と言うかあの二人って、そもそも体格差からして家族云々の前に色々合わせるのが大変――よし、この辺でやめておこう。考えても私が多大な疲労を覚えるだけだ。
彼らの問題は彼らで解決すればよい。だから私はこれ以上深入りしない。
……お願いだから、私のところに持ちこんでくれるなよ! 持ち込まれたらもう逃げらんないから!
そんなこと考えているうちに、すっかりまた自分の世界に入りきっていたことに気が付いた私ですが、ゼナさんは特に気を悪くした様子もなく、変な顔で私のことを眺めていました。
「あっ、す、すみません」
「いや、百面相してたから見てて面白かったよ。なんとなく事情は察せられたしさ」
ぱくり、とゼナさんの口の中にまた一つ小さなお菓子が消えていきます。
「そうだよね。恋人できるとさ、友人関係って変わっちゃうものだよね――」
その瞬間、私はあっやばいと思いましたが、残念ながら危険を察知したところで逃げ場がないのです。
案の定、それまでと打って変わって剣呑なまなざしになりつつあるゼナさんが、お姉さまにどこか似たすごみのある笑顔を浮かべ、姿勢を正した私につらつらと喋り出したのです。




