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転生ヒロインの使命は、悪役お姉さまを守ることです!  作者: 鳴田るな
承:四天王制圧編~vsモナモリス
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3-3.ガーディアンズ、決裂です

 確かにですね。色々とんでもなことがあったからすっかり忘れてましたけど、よーく思い出してみればキルル先輩のイベントの直前、私たちは喧嘩別れっぽい感じになっていたわけでして。というか、さらに思い出すのなら、実はその前も気まずくてお互いに避け合っていたわけでして。


 キルル先輩を前に連携プレーをしていた時は、緊急時だったので私もディガンもすっかり頭から抜けてましたけど、日常に戻ってみればすべて元通り。だからこれは平和になった証の一つ。そういうことなのかもしれません。

 イベントから生還できたことで浮かれていたせいもあるのか、元に戻る=関係が修復されるだと思い込んでいた私が少々考えなしの楽観者に過ぎたのかもしれません。だから百歩譲って、彼が再び私を避け出したのは仕方ないこととしましょう。


 でも。

 私、話し合おうとしたんですよ。言いっぱなしになってた捨て台詞のことを謝っておきたかったし、イベントで私の呼びかけに応えてくれたこと、助けてくれたことにお礼は言いたいし、お姉さまの事とか朕王(リオス)のこととかキルル先輩の事とか、相談したい事――それこそ山ほどあったのに。



 気軽に声をかけようとしてどこにも見つけられず、随分と心配したのがイベント終わって数週程度の事。

 割と徹底して避けられているらしいことにようやく気が付いたのが、イベントがのほとぼりもすっかり冷めきった、春も過ぎて初夏が始まろうかと言う頃。

 前以上のガードの固さと言うか断固として向こうが姿を見せない姿勢に心が折れそうになりながらも、自力で捕まえようとして失敗し続けた夏。

 ようやく私たちがまともに顔を合わせることができたのは、なんと夏もそろそろ終わるかと言う時期、今から一月ほど前の事だったのです。


 ちなみにどこで見聞きなされたのかはわかりませんが、最終的に事情を知って業を煮やしたらしいお姉さまが我々の交渉の場をセッティングしてくださいました。

 残暑の夜、私が自室にて黄昏ていますと、黒オーラ発する大魔お――ごほんごほん! 違いますそんなつもりじゃなくてやり直させてください。て、天使の輪っかを輝かせた大天使様が降臨なさいましてね。あまりの威圧か――神々しさに思わず反射的に跪いたら、そんなことしてる暇があったらあっちをなんとかしてきなさいと送り出されまして。いやんお姉さまったら、お近くでにっこり微笑んでくださるなんて、なんてサービスたっぷりなの。ただ非常に申し上げにくいことですが一点だけ気になったことがありまして、もしも次回があるのでしたら目元もちゃんと笑っていただけるとさらに嬉しいのです。


 なんかこう、前世であったじゃないですか、目が合うと石になっちゃう感じの伝説。いえ、お姉さまをそのような化け物と同列にするつもりは毛頭ないのですが、あまりにお強い目力の比喩としてですね。それに確かあちら様とて、元は絶世の美女だったのに女神さまに喧嘩売ったからあんなことになっちゃったって話だったはずですし――。

 ってちょっとちょっと。最近の私、お姉さまに対する信仰心が低くなってませんか!? 何と言う事。いけないわ、アデラリード。もっと彼女にふさわしいたとえをしないと!


 そうですよ、お姉さまはやはり、怪物にされた挙句首チョンパされた雑魚ごときではなく、ライバルを化け物に変えた挙句、英雄に命じて首取ってこさせ、自分の盾に飾っちゃう系鬼畜女神様の方がイメージに近いかしら。さすがお姉さまなのです。……あれ、修正したと思ったらさらに悪化してない? ご、ごめんなさいお姉さま! オブラートに包んで表現しましたが、いくらあなたをお慕いし敬愛し奉る妹でも黒オーラモードのお姉さまは怖いです! お姉さまのゆるぎなき魅力が褪せぬことは自明の理ではございますが、私が生物である以上本能的に感じてしまう恐怖が存在することも致し方ないことでございまして、だから手加減してほしいのです!



 何の話をしていたんでしたっけ。ああそう、ディガン。あまりにも憂鬱すぎる話題のせいでお姉さまのことに逃避してしまったのですね。

 もうぶっちゃけあれ、全部忘れてなかったことにしたいくらいなんですけど。それぐらい酷かったんですから。



 ……お姉さまに促され、中庭で会った私達でしたが。


 ディガンは後から来ましたが、まるで一緒の空間に居たくないとでも言いたげな感じで、こっちが待ってる中庭に入ってこようとさえしないのです。それどころか、呼びかけただけでびくっと肩を震わせてなんだか逃げたそうにしてる気配。あえて無視して何度か促し、ようやく話せる距離まで近づいて来たと思ったら、今度は何が何でも人の顔を見たくないみたいでずっと下を向いたまま。答える声もしどろもどろで、酷い時は絶対聞いてないでしょって生返事。というか、あなた私と数年間の付き合いのある侍従さんですよね? って確認したくなってくるレベルの他人行儀口調及び態度。一歩近づけば必ず二歩下がって距離を開けてくる。


 とてもまともに会話してくれる気配がないことにさすがに怒りを覚えたのが3割。

 私の知らない間に彼に何かあったのか、だとしたら大丈夫なのかって心配を覚えたのが3割。

 どうしてそんな態度取るの? 私あなたにそんな何かしたっけ? って困惑したのが3割。

 あとの残りは、とにかくなんだか悲しくなって。



 だから、ちゃんとこっち向いて話をしましょうよ! って、とにかく目だけでも合わせてほしくて私は行動したのです。

 逃げられる前に間合いに踏み込めたのは自主鍛錬の成果だったのでしょうか。彼の正面に身体を滑り込ませ、ぐいっと首の辺りを引っ張ってやや強引にこっちを向いてもらい、目が合ったのを確認してから、私はにっこりとほほ笑んだのです――。



 ディガンの顔色がさっと変わったことだけは、目の端でとらえられました。

 あって思った時には、私は既に宙に投げ出されていて。背中に地面を感じて視界に夜空が広がってから、ああ投げられたのかと理解が追い付きました。

 それでも訓練が沁みついた身体は勝手に受け身をとってくれましたから、別に怪我とかはなく、中庭の草むらの上にどさっと落ちただけで済んだんですけど。



 ――長すぎる間があってから、慌ててディガンが謝りながら近づいて差し出してきた手を、私は思いっきり払いのけました。

 静かに自分で起き上がって、草きれを払う。それを助けようとした手から逃げて――今度こそ、怒りがすべての感情を上回っていました。


「へえ。いつの間にか私は、そこまであなたに嫌われていたんですね」


 喋っている自分でもわかりました。私の声はかつてないほど低く、凍えきっていました。自分でもあんなに冷たい声が出せるんだって驚いたくらいです。

 ディガンが何か言おうとした気もしますが、頭に血が上ってきたこっちにそんなこと気遣ってる余裕があったとでも?


「本当は私、今日はあなたに長い間言えてなかったことを言って、たくさん話したいことがあったんですけど――そうですか。そういうことでしたら、先日のお礼だけ手短に申し上げさせていただきますね。あの時は助けてくれてありがとう。ではこれで」

「ま、待ってください――」

「こちらにそれほどの怒りを受ける理由が特に思い至らないのは少々口惜しい気も致しますが、同じ空気も吸いたくないと言うような事でしたら申し訳ありません。速やかに退散致しますのでどうぞあなたもご勝手に」

「アデラリード様、違うんです――」


 そのまま立ち去ろうとした腕を掴まれると――ついに私の中でそれまでぐるぐるとまわっていたものが弾け飛びました。


 私がどれほど、あなたと話をしたくて。あなたに話すことを、ずっとずっと考えてきていて。

 ――それでようやく迎えられた今日が、この仕打ちで。


 それで、何が違うって言うの――!?


 腕を力任せに振り払い、なおも追いかけてこようとする彼の頬に、渾身の一撃が入った!


 乾いた音に、遅れてジンジンと痛みだす掌。呆然とした彼の顔。


「――はは。私達、これで両想いになれたんじゃないですか。私もあなたなんて大嫌いです。もう顔も見たくない――!」


 彼は立ち去る私を追ってきませんでした。

 また、いつかと同じような光景。あの時の事にも決着をつけたかったのに、もっとひどくなるなんて。




 ――いつの間にか自分の視界がすっかり濁り切っていたのに気が付いたのは、中庭からしばらく行ったところでしこたま壁に頭をぶつけてから。

 おでこに手をやって、それで初めて、私は自分が馬鹿みたいに泣いていたことに気が付いたのでした。




 ああ、本当に。何やってんだろ、一か月前の私。

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