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建国祭と闘技場-3


「あ、レオノーレ様。お久しぶりでございます」


「ああ、カレンか久しいな。ここに来たということはカミルの試合の文句を言いに来たな?」


「はい。あの心臓に悪い試合をやった兄を殴ってやろうと思いまして……」



 カミルの控室から出てきた人物は男装の麗人レオノーレだった。レオノーレは女侯爵でありながら、実力者が多いジプサム騎士団の騎士団長の任を任されている程の実力者である。叙勲前の騎士見習いのカミルの妹という微妙に遠い縁ながらも、カレンのことを知っているのは養父の代からのカロッサ宝飾店の常連であるからだ。ある種の権力者であった養父が亡くなった当時、若くして店を継いだカレンは貴族たちの依頼で無理を言われることも多く、見かねたレオノーレは無理を言われた際には名前を出しても良いと許可を出すなど、何かと支援をしてくれる後援者の一人でもあった。

 そんな縁があるレオノーレは、たまたま職人たちに面白半分で剣術を教え込まれていたカミルを引き摺って養父の元を訪れ、『カロッサ殿。カミルを少々お借りしても良いだろうか?』と言いだし、『ええ、少々やんちゃではありますが、それでもよろしければどうぞ』と養父がニコリと笑いながらカミルを預け、呆然としていたカミルはそのままレオノーレに引き摺られながら騎士団に入団することになったのだ。

 あれは魔法が使えないことが劣等感だったカミルに、新たな道を開こうとしてくれた養父の親心だったのだろうが、カレンは当時のことを思い出すと、その光景はまるでネズミ取りで猫の仔を借りていくようだったと鮮明に記憶していた。



「それなら、先ほど説教をしてきたところだ。今はヨーナスが説教をしているところだ。東の国で反省を促す『セイザ』とか言う恰好をさせられているな。あれは酷いぞ、足が痺れてしばらく使い物にならなくなる!」


「そ、そうですか……」


「それとカレン、頼みたい仕事がある。近いうちにそちらに行くが大丈夫か?」


「はい。今は急ぎの仕事は入っておりませんので、何時でも」


「近いうちにカミルは間違いなく叙勲するだろう。ジプサム騎士団の団風に染まりすぎて試合の流れが捨て身過ぎるのを一応説教したが、カミルは騎士として生きるならばあのような戦いではいけないと良く理解していた。御前試合で結果も出した上に、自己の守りに関しては正規の騎士すら凌ぐ程だからな、陛下も感心しておられた故、もしかしたら近衛に行く可能性も出てきた」


「え、近衛って、平民でもなることができるんですか?!」


「なれるぞ? まぁ、王族の警護に回るのだから基本的には礼儀作法がしっかりとした貴族が多いがな、実力者に限っては例外となる場合もある。現に近衛騎士団の団長からカミルを貰えないかと打診があった」



 王族に使える近衛騎士団に来ないかとの打診があったとレオノーレから教えられ、カレンはそんな大役が自分の兄に務まるのだろうかと不安になった。

 魔物の被害が多い地方の守護を任されているジプサム騎士団は攻撃主体の色が強い。我先にと魔物を倒しに行くような脳筋が多く、そんな騎士団の色に染まった結果、カミルはのほほんとしているくせに肉体強化をしたら率先して最前線に飛び出ていくようになってしまったのである。捨て身に見える戦い方も、ジプサム騎士団の先達ならば同じ道を通ったといっても過言ではない。

 そんな団風に染まったカミルが、守りに特化にしている近衛騎士団は性格には合わないのではないかとも思った。



「そう不安そうな顔をするな、近衛に行くかどうかはカミルが選択することになるだろうが、近衛になるならば魔術は必須だからな。カミルは優れた強化系の魔術師ではあるがどうしても肉弾戦になりやすくなるし、なにより飛んできた魔法を防ぐ術がない」


「となると、製作するのは魔法の防御に関する魔道具ですか?」


「いいや、私が頼みたいのはカミルの魔力が解放できるような魔道具だ。無論カレンの言う魔道具があれば防御に関してカミルは魔力がある限り不死身に近いだろう。だが、殻に籠っているだけでは反撃は出来ん。カミルに攻撃の手段を増やしてやりたいのだ」


「……レオノーレ様。その話ですが、カミルに聞いてみてから御受けするのでも良いでしょうか?」



 レオノーレの言うとおり、魔法が使えれば若しくは魔道具が使えればカミルは勝てただろうとカレンは思った。ただし、魔力はあっても今まで魔法が使えない状態だったカミルが、それを望むかどうかはカレンには判断が付かなかった。



「何かあるのか? カミルの身内として考えることがあるなら、なんでも言ってくれていい」


「いえ、私は兄が自分の体質をどれほど憎々しく思ったか、魔術をどれだけ使いたいと思って努力をしたかも痛い程知っています。どうしても魔力を表に出せない体質なのだと悟ってからは、それでも前向きに普通の魔術が使えないならどうすればいいかと考え抜いた結果が今のカミルです。失礼を承知で言わせていただきます。レオノーレ様のご厚意は大変ありがたいですが、カミルの努力を道具一つで解決するのはなんというか、兄の努力を無にするように思えて……」


「……そうだな」


「それに、カミルの体質は生まれた時からのものだから、私も養父も良く知っています。養父は腕の良い職人でしたから、レオノーレ様のようにカミルの体質をどうにかする魔道具を作ろうと考えたはずなのです。でも、それをしなかったということは、カミルには何か体質以外の問題があったんじゃないかと思うのです。ただ、その問題となると養父みたいに魔導に精通しているわけではないので、私にはあまり検討が付かないのですが……」



 産まれてからずっとその状態で生きてきたカミルを一番身近で見て来たカレンは、カミルの魔法が使えないことの劣等感を持っていたことも知っていたし、普通に魔術が仕えた八つ当たりもされたこともあった。魔術が使えないなら別の手段を探すべきだと前向きに進んできたカミルにとって、レオノーレの話はマイナスにしかならないとカレンは思った。

 それに、単純に道具で欠点を補うのであれば、既に養父が魔道具を作っているであろうし、それをしなかった理由が何かあると心の隅に引っかかるものがあったのだ。



「……カレンの言いたいことは良く解った。そうだな、私の独断で決めることではなかった。カミルの叙勲はほぼ確定ではあるが、今後の進退はカミルの意見を聞いて決めることにしよう、近衛の方には私の方で適当に言っておこう。私も手塩に育てた部下をむざむざと奪われたくはないからな! カレン、後でゆっくり話を聞かせておくれ」


「かしこまりました。何時でもお待ちしております、レオノーレ様」



 そういうとレオノーレは控室から出てきたヨーナスを連れて去って行った。

 雑然としていた控室はカレンの予想通り人はまばらになっており、その中の隅の方でカミルの足を延ばす様に悶絶している姿が目に入った。



「ヨーナス様に説教されたんだって?」


「あれ、本当に酷いよ! なんていったっけ、『セイザ』ってやつ?! 足が痺れて動けないんだもん、ちょ!?? カレン、足を突くな!!」


「まったく、説教されるくらいならあんな心臓に悪い試合しないでよ。私のいじわるがこのくらいで済んでるのって、レオノーレ様のおかげなんだから感謝しておきなさいよ?」


「わ、分かったから!!」



 痺れている足を突くことでカレンは憂さを晴らすことにした。された方はたまったものではないが、カミルも身内を心配するカレンの気持ちを分かっているため、それ以上の文句は言わなかった。

 カミルが落ち着いたところで、先ほどレオノーレから聞かされたことを聞いてみることにした。



「――っていう訳らしいけど、兄さんは今後どうするの? レオノーレ様の話の通りなら近衛に引き抜きされるわけ?」


「いや、されないよ? アニエスと頻繁に会えるのは心惹かれるけど、そんなことで近衛に行っても浮ついて仕事にならないし、仕事が出来なければこれだから平民はって貴族出身者に馬鹿にされるだけだしな」


「ふうん。まぁ、それはいいや兄さんの好きにできるならそうするのが一番だと思うよ。でもさ、レオノーレ様も心配しているみたいだよ? せっかくなら魔術が使えるような魔道具を作ってやってほしいって言われたし」


「うーん……。俺に聞いているってことは、カレンとしては団長の意見を保留にしたってことだよな?」



 カレンが改まって聞いてきた事情を的確に推測したカミルは、軽くため息を吐いた。



「そうよ。だって、レオノーレ様は魔術が使えればって言っていたけれど、カミルの強化魔法ってそっちに回す余裕あるの?」


「ないなぁ……。今更、戦い方を矯正しろとか言われても無理があるし、それになアニエスがちょっと気になること言っててな」


「アニエスが?」


「精霊って個々で性格が違ったりするだろ? 俺たちは双子で同じ属性の上位精霊の加護持ちだったから、同じ精霊の加護だと思ってたんだけど、もしかしたらそれぞれ別の精霊が加護をくれて、お前の精霊はおおらかな性格だから魔術使ったくらいで拗ねないけど、俺の方の精霊は他の精霊に浮気をするなって拗ねてるんじゃないかって言っててな。だから、俺が使うべきなのは魔術じゃなくて、精霊術なんじゃないかってさ」



 カミルの恋人であるアニエスは若くして宮廷魔術師として活躍している人物であった。理論として説明することに長けている彼女の話は、実際に精霊を見ているカレンたちには意見はかなりの説得力があったのだ。



「……むしろそれが正解なんじゃないの? 精霊術はエルフの技だから本当に盲点だったわ。それなら養父さんが魔道具を作らなかった説明もつくし、なんで教えてくれなかったのかは分からないけど」 


「だから近いうちにティティエに確認してみようと思ってたんだ」


「ああ、そういうこと」



 カミルが言っているティティエという人物は、養父たちに引き取られる前に居た孤児院で多忙な院長の代わりに孤児たちの世話役をしていた人のことであった。エルフ族の院長の方が精霊術には長けているが、ティティエもハーフエルフであるために院長に及ばないながらも精霊術を得意としており、幼いころからカミルやカレンの面倒を見てくれていたおかげで、体質のことも良く知っておりカミルが教えを乞うにはうってつけの人物であった。

 ティティエに話を聞く前に御前試合に出ることが決まって、それどころじゃなくなったけどなとカミルは苦笑いをして言った。



「団長が俺の体質の心配をしてくれているのも分かっているんだ。この話は団長たちには話をしておこうと思ってて、さっき副団長に説教された時に少しだけ話をしたんだ。副団長はエルフとかドワーフとかの精霊族なら精霊術が使えるって分かるがって言ってたけど――」


「私たちは精霊術を使えた人を知っているしね」


「あ、やっぱりそう思った?」


「絶対に養父さんでしょう? ドワーフじゃなかったら加工できないミスリルを楽々加工してるの間近で見てればそう思うわよ。今までなんで気が付かなかったのかって不思議なくらいだもの!」



 楽しそうに聞き返したカミルに対して、カレンは少し憤慨した様子で言い返した。



「だよなぁ……。精霊術って選択肢があったから、あえて俺に魔術を使えるような魔道具を作ろうとしなかったんだろうなって、今になって思うんだよ。あとは、自分で精霊術を使おうって道を選ばせるためかってところかな?」


「死んだ人に言うのもなんだけど、性格悪いのよあの親父!!!」


「あははは!」



 二人は亡き養父のことを偲びながらも、これからのことを話しあった。

 そしてカレンは、兄とは違い自分は精霊術が使えないだろうということをうっすらと理解していた。養父はカレンに自分の持てる技術の全てを叩き込み、精霊術を使う術はカミルに託したのだと、二人はこの時になってようやく悟ったのだった。




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