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建国祭と闘技場-2

 釘刺しという名の叱咤激励を終えたカレンは、観客席に戻る途中で見かけ匂いに負けて購入したチーズとハムのホットサンドとリンゴ酒を消費しながら、試合を観戦する。

 カミルの試合は何故か連続して前評判が良い相手との対戦になっているようだが、そんな様子も見せずにサクサク相手を狩っていくために、周囲はカミルの対戦相手に賭けた観客の絶叫で凄いことになっている。



「凄いなこのカミル・カロッサって新人は……」


「ああ、対戦相手も名のある騎士団の所属なのに、魔術も使わずここまでくると凄いな・・…」


「平民だからって賭けてみたけど、正解だったぜ!」



 そんな評価が周囲の観客から聞こえだし、カレンは持参したゴブレットになみなみと注いだリンゴ酒を飲みながら、にんまりとほほ笑んだ。

 双子の兄が褒められて嬉しくないはずがないのだ。


 元々身体能力が高かったカミルに職人通りの面々が面白半分で剣術やら槍術やら弓術を教え込んだところ、水を得た魚のように技術を吸収していったところを現在の騎士団の団長に拾われた。カレント同じように養父のもとで修業をしたが、芸術的センスが皆無だったために実家で働くのも邪魔になると思い、騎士団長の誘いは渡りに船だったらしい。

 ただ、武術の実力はあっても魔法国の騎士団となるとある程度の魔術が使えることが必須事項である。カミルはカレンと同じ加護持ちであったが、魔術特化のカレンとは異なり魔力を表に出せない体質だったことが災いし、幾ら武術の腕が優れていたとしても、魔術を使えないカミルの騎士への昇格は、騎士団で入団当時は絶望的だったという。

 しかし、カレンと同じく魔導師として活動できる程の魔力を持っていたカミルは、副騎士団長の助言もあり、有り余る魔力を体内で活性化させる身体強化魔術を会得したことで才能を開花させた。元々身体能力が高かったカミルに体内で発動する強化系魔術はぴたりとハマった。

 通常は瞬発力を向上させる程度の使い方をする強化系魔術ではあるが、魔力の使い道がそれしかないカミルは、桁違いの時間で身体能力を強化することができた。それ故、身体強化の魔術師であると認定されたことで、無事に騎士になる資格を獲得できたのだそうだ。

過去の騎士団での交流会では、カミルを今まで軽視してきた他の騎士団に見せつけるために今回の大会に出場したのだと、カレンはカミルの同僚から聞いた。

 なお、地属性の魔力は防御に特化している。そのためカミルは必然的に防御特化の身体強化魔術師であり、無理やり活性化させた魔力を体表にあふれさせることで、防御力に関しては鎧を付けなくとも弾き返せるびっくり人間になっている。

 しかも、身体からあふれ出た魔力は身体強化魔術の効果を装備している防具にも影響を及ぼすようで、そのことを知っている職人たちの技術の粋を集めた防具で身をまとっているカミルは、物理的な防御力に関してはおそらく今回の前座のトーナメントではカミルにかなうものは居ないだろうとカレンは確信していた。



 事実、カレンの確信は当たっていた。

 準決勝に駒を進めたカミルだったが、剣術に関して実力が拮抗した相手だった。

 ここまで勝ち抜いてきた者たちはそれ相応の実力者ぞろいで、武術に疎いカレンが見てもカミルと同じくらいの実力を持っている者がそろっていた。



『ブルーノ・ザルテルン振り向きざまの切り替えし、素早い反応です!! 対するカミル・カロッサ、これはとっさのことで反応できないか!?』


『おーっと!! 一体どういうことでしょう! カミル・カロッサが籠手でブルーノ・ザルテルンの攻撃を受け止めた!?』


『籠手だけでは盾よりも強度が劣るのですが、先ほどのブルーノ・ザルテルンの剣を弾き返したとなると、これは強化魔術か!? 恐ろしい強度です!!! 会場の皆様、本大会は試合の公平を保つために、魔道具の持ち込みは禁止。厳正なる審査の元で本人の身体検査と共に装備の持ち込みを実施しております! ですが、魔術は使用可能なのです!!! カミル・カロッサ、素晴らしい強化魔術の使い手であります!』



 試合相手が振り向きざまにカミルに切り掛かれば、とっさにカミルは籠手で剣を弾き返すことになり、闘技場がおおいに沸いた。

 解説もこのような展開になるとは思わなかったようで、ざわつく観客たちにカミルの装備に不正がないことを話したうえで、カミルの強化魔術の腕を讃えた。

 実際は、カミルの強化魔術の腕もさることながら、職人たちの作品の相乗効果だったのは言わぬが華だなとカレンは思った。

 この試合は、先ほどの一撃を防がれたので試合の流れが大きく変わり、カミルの勝利で終わった。



 決勝戦に駒を進めたカミルの相手は、ガッチリとした防御型の戦士だった。騎士見習いとして出場しているのだが、体格のせいで叙勲していないのは可笑しいと思うほどの貫禄があった。



『ついにやってまいりました、決勝戦でございます。見習い騎士たちの試合ではございますが、どの騎士団を見ても実力者揃いのなかで波乱の幕開けとなりました。観客の皆様、賭け金の方は回収できましたでしょうか!? 私は出来ませんでした!』



 司会のマックスが声を張り上げ、観客を煽る。

 おそらくカミルが決勝に駒を進めるとは、殆どの観客が思っていなかったようで、ブーイングの嵐となる。



『冗談はさておき、決勝戦の組み合わせでございます! ユーディア騎士団所属、騎士の名家であるエルケンス家、クラウス・コンラーディン・エルケンス!!』


『平民出身ながらも実力派揃いのジプサム騎士団にて頭角を現した期待の新星! カミル・カロッサ!! 今回の賭けの番狂わせの張本人でもございます。名門騎士の家の出身者と平民出身者の対照的な対戦ではございますが、どちらも実力は折り紙つき! 何とも、試合の展開が楽しみな組み合わせになりました!』



 カレンは司会の決勝戦の組み合わせに対する解説を聞きながら、周囲の観客の様子を見ていると、カミルの応援をしている者が半分、流石に騎士の名家出身者には敵わないだろうと意見がちらほら聞こえてきた。

 カミルはそこまで弱くないよと思いながらも、カレンは試合が始まるのをじっと待った。



『それでは決勝戦、始め!!』



 審判の合図とともに動き出すと思いきや、両者はどちらもにらみ合いのまま、相手の動きを観察しているようだ。

 カレンが見る限り、クラウスの方は騎士には叙勲していないとはいえ、盾を持った重装備で防御力が高そうだと思った。対するカミルは相変わらず身体強化を使用しているため防具と言えるものは肩当て胸当てと籠手のみという軽装備。得物はカミルの得意武器の両手剣で、細身の体に似合わず以外にも肉厚な武器を使っている。

 何故様子見になるのかと言えば、カミルはわざと試合の度に武器を変えており、クラウスはカミルがどのような技を使ってくるのか全く読めず、様子を覗うような試合になるのは致し方ないとカレンは思った。



 にらみ合いは差ほど長くは続かなかった。カミルが先に攻撃を仕掛けた。

 軽装から予想できる通り、カミルの攻撃は早い。しかも、肉厚の両手剣は十分な威力を保ったままの状態でクラウスに切りかかった。虚を突かれたクラウスは、とっさに構えた盾で正面からカミルの剣を受け止めることに成功した。

 だが、本来は攻撃を受け流すための盾で正面から衝撃を受け止めてしまったことで、クラウスはしばらく攻勢にうつることが出来ず、剣で反撃することは叶わないと判断したようで魔術を使っての反撃に出た。

 騎士の名門出身なだけあり、クラウスは剣術の他にも魔術を使用した複合戦闘にも精通しているようで、クラウスが使用する火魔法は素早く動き回るカミルを的確にとらえており、数発の火球はカミルに直撃した。

 強化魔法の効果で自己治癒力の効果が目に見える程向上しているカミルは、クラウスが放つ火球をなるだけ回避ながらも攻撃を繰り返した。

 やがて、クラウスが魔力切れになるころには、防御と自己治癒力向上を同時に使用していたカミルの魔力も底をつきはじめた。最終的には体力が持つ限りの激しい剣戟。最終的には次のトーナメントの時間も迫っていたこともあり、前代未聞の決勝戦で引き分けとなった。



 防御力に関しては間違いなくカミルが勝っていたと、決勝戦を振り返ったカレン思った。

 防御に重点を置いた重戦士よりも身軽に動けるだけ、攻撃を回避できるカミルに分があった。剣術や槍術などの技術は一流の職人からの手ほどきや、騎士団の先輩からのしごきでかなりのレベルを誇ってはいたものの、いかんせん体が軽いために攻撃力が低かった。それを補うための重厚な両手剣を使用しているのだが、相手に距離を取られて魔術で応戦されると近距離戦闘しかできないカミルは不利になってしまうのだ。

 そのような相手は膠着状態に陥りやすく、この試合も振り返ってみれば相手は総合的に能力が高く近距離は剣を使用し、距離を取られれば魔術で攻撃をする術を持っていた。対するカミルは、有り余る魔力で肉体強化の魔術を使用し、身体強化で防御力を上げ相手の攻撃が直撃するならば自己治癒で回復を図り、まるで不死身のような戦闘をするのだ。

 身内であるカレンもだが、見ていた観客はカミルの危うさに始終ハラハラしっぱなしだった。なにせ、紙一重のところで攻撃を避ける。魔法が直撃しようものならば、負った傷が見る見るうちに治っていくのが観客席から見えるのだから、心臓に悪いことこの上ないものだったからだ。




 カミル達の試合も終わり、観客の本命である名のある騎士たちの試合に移行したが、カレンは無謀ともいえる試合をした兄に一言文句を言ってやろうと思い、再び控室に足を運ぶことにした。

 前座の試合が終わった控室は数刻前とは打って変わり控室に続く通路は閑散としていた。

これならば控室もそれほど人は居ないはずだから思い切り文句を言えると思ったカレンだったが、控室の前に来て意外な人物と鉢合わせることになった。



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