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建国祭と闘技場-1

久しぶりの更新になります。

長くなりそうだったので、数話に分けて更新いたします。

 王都は年に一度の建国祭で熱気に包まれていた。観光客が多く訪れ、王都の職人通りはこの時期は特に書き入れ時と言っていい程、人通りが多かった。

 普段は客を選んでいる武器屋のスミスは、この日だけは観光目当てでやってきた馴染みの客がやってくるため、忙しいらしく炉から離れられないと愚痴っていた。

 周りの忙しくしている店の中で、カロッサ宝飾店は臨時休業と札を掲げていた。店主であるカレンは別に遊んでいる訳ではなかった。片手に軽食とアルコール度数の低い果実酒の瓶が入ったいつもの籐の籠をもっていたとしても。



「カレンちゃん。カミルの応援かい?」


「ええ、たった一人の肉親ですから、私が応援してあげないとかわいそうですし?」


「あっはっは、あたしと旦那は忙しくて闘技場にはいけないけど、カミルには応援をしているって伝えてくれないかい?」


「わかりましたー」



 闘技場に向かう途中、職人通りのおばさん方に『カミルを応援しているからね』と声をかけられた。

 特にカレンはカミルが出場すると言う話をしたわけではないのだが、口が軽い木工細工店のウッドから瞬く間に広まったため、職人通りの顔なじみの人たちほとんどが知っていた。

 食べながら観戦しなければやってられないとおばさんたちに愚痴りつつ、カミルの応援に行ってくると伝えると、おばさん方に私たちの分まで応援してきてねとカレンは背中を叩かれ、満面の笑みで闘技場に向かったのだった。



 カミルが出場するのは、新人戦で各地方の騎士団から特別に優れた者たちが集められる試合だった。精鋭騎士たちのトーナメントの前座ではあるが、この新人戦で優勝した者は出世が約束されると言うジンクスがあるらしい。事実、この国で名のある騎士たちの半数近くは、この大会で優勝・または上位入賞者で占められていた。

 どうしてカレンがそこまで詳しいかと言うと、御前試合の招待状を持ってきたカミルの同僚に聞かされたからだった。



 闘技場に入れない客も居り、闘技場の周りには多くの人が集まっていたが、招待状を持っているカレンは、入場案内をやっている雑用の騎士の案内で指定された席に座り、籠の中に入っていたバゲットサンドを丸かじりしながら試合が始まるのを待った。


 魔法を使った花火が打ち上げられ、長々と大臣やら来賓があいさつをしているが、花火が上がって数十分たったころには既にカレンの瞼は鉛を吊るしたように自然に下がってきていた。

 ファンファーレの音と共に国王が開幕の宣言をする。

 いきなり鳴り始めた華やかな音に驚いたカレンは、ぼんやりとしていた頭をようやく覚醒させた。

 既に闘技場の中は前座試合すら待ちきれないと言わんばかりに、周囲はざわついていてカレンの気分も次第に高揚していったのだった。



「精鋭たちの試合もいいが、今年の新人の試合も見ごたえがあるらしいぞ?」


「翼竜騎士団にバーレ子爵の嫡男が入ったらしいが、初戦で当たる奴は悲惨だな……」


「いや、幾ら翼竜騎士団が精鋭だと言っても、それは噂に過ぎないからな。実際はどんなものか分からんぞ?」


「実家の実力で言うなら、今年はジプサム騎士団の団長の子息が出るって噂があったが、あれはどうなった?」


「いや、俺もしらねぇ奴が出ている。名前からして平民だなこりゃ」


「全員が貴族出身なのかと思ったら、今年は平民出身も何人かいるそうじゃないか」


「俺としては、金をかけて育てた貴族よりは、俺らと同じ平民出身の奴を応援したいねぇ」



 どこからともなく、初戦の組み合わせの話題が聞こえてくる。

 御前試合に出場する者になるとその多くが貴族の子息だった。騎士団に入る前から教養として剣術や兵法などを学ぶため、スタートラインからして平民と貴族の差は大きいため、カミルのような平民出身で御前試合に出られる者はそう多くない。



「えーっと、カミルの対戦相手は誰だっけな」



 そういえばまだカミルが何試合目に出てくるのかも確認していなかったことを思いだした。カレンはいそいそと籠の中から招待状を取り出し、招待状の裏に書かれたトーナメント表を確認してみた。

 招待状の裏に書き込まれたカミルの相手は、名前を見る限り貴族だと思われるのだが、それほど有名な家ではないため、爵位はそれほど高くなさそうに思えた。

 闘技場内が急にざわつきだしたため、何事かと思いカレンは顔を上げた。

 司会か審判と思われるひょろっとした男と、試合をする騎士たちが現れ国王の前に跪いていた。周りがうるさくて何が起きているかよく分からなかったが、試合の前に国王からのお言葉でも貰っているのだろう。



『会場内の皆様。大変長らくお待たせいたしました! ウィスマリア魔法国建国祭のメインイベントであります御前試合を開催いたします!!』


『私、以後司会を務めさせていただきます、王国騎士団広報部長のマックスでございます! 本日は、よろしくお願いいたします!』



 騎士団に広報部なんてあったのかと妙に関心をしながら、拡声用の魔道具を使い説明を始めた。あの魔道具、風系の魔石を使った代物なのだろうなと構造を何となく推察しながら、試合のルールや闘技場内での決まりなど注意点などの説明を聞き流した。

 説明に関しては、周りは早く試合を始めろとブーイングが出ており、聞いている人は皆無なのではないかとカレンは思った。



 カミルの出番は6回戦のようで、カレンはそれまでの試合をじっと観察をしていた。

 あそこの人は、どこそこの騎士団で、誰々の従者をやっている者だとか、力重視の奴に剣を弾かれて終わったとか、司会者の解説と周りにいる観客のうんちく解説を聞きつつ、カミルの出番を待った。



『さあ! 本日の第6回戦です。ジプサム騎士団所属、カミル・カロッサ! 対するはサーペンタイン翼竜騎士団所属バーレ子爵嫡男、ノルト・フィ・バーレ!』



 ようやくカミルの出番になった。司会者は一応中立の立場なのだが、相手の方が有名な人物のようで、無名の上に平民ということでカミルは添え物程度に触れるだけの解説だった。周りから聞こえる声も平民だから頑張ってほしいが相手が悪いという声だけで、カレンは少しばかりムッとなった。

 兄であるカミルは良く知っているとスルーして相手の特徴を良く見てみると、確かに体格はカミルよりもガッチリとしていて見た目以上に強そうだった。二人とも騎士には叙勲されていないので騎士見習いの服を着ているものの、相手の武器に関しては名のある名工と思われる両手剣を持っていた。精鋭と名高い翼竜騎士団の所属というところも評価が良いのだろうとカレンは思った。

 対するカミルは騎士団から借りている数打ちの片手剣を使っている。身軽さを重視する目的なのか、籠手は身に着けているものの盾すら持っていない。傍から見たら確実に負けそうに見えるが、カミルは間違いなく強い。カミルはカレンと同じく地精霊の加護があるため魔力も多く、体力面や体を丈夫にする地精霊の加護持ちでもあるため、ほっそりとした見た目以上にカミルは頑丈だった。カミルのガチムチ上司のマイカさんのお墨付きもあるくらい頑丈なのだ。



 観戦前に見た国公認の賭けの掲示板では、カミルは当然のように大穴になっていた。対戦相手が強い人か若しくは有名な騎士団の出身なのだろうと判断したカレンだったが、カミルが負けることはないだろうと思い、迷うことなくカレンは金貨1枚の大金をカミルに賭けた。

 カレンが見る限り、相手のバーレ子爵の嫡男のノルトと言う人物は、明らかにカミルを格下であると見下しているのがバレバレだったために、速攻で倒してやれと言う気持ちが強くなっていた。



『それでは、始め!!』



 審判の開始の合図とともに、戦いの火ぶたは切って落とされた。相手は体格に見合わず、速攻を得意としているのか、大きな両手剣を持っていながらもかなりの速度でカミルに切りかかった。カミルは相手の動きを予想していたようで、片手剣でそれを受け止めた。

 本来なら数打ちの片手剣など、重量や質に勝る名工の両手剣に敵うはずがない。

 だが、カミルの片手剣はノルトの両手剣を受けていた。剣の重さと切りかかる速度も申し分なく、勢いに乗った一撃を片手で受け切ったことにノルトは驚愕の表情を見せた。おそらく観客たちも同様だったことだろう。



『おっと!? これはどういうことでしょう! カミル・カロッサがあの細い体でノルト・フィ・バーレの一撃を難なく受け止めた!! 力・重さ・速度共に申し分ない一撃でしたが、これは波乱の展開になりそうです!!』



 司会のマックスも驚いたように解説をしていたが、カレンは知っていた。数打ちの訓練剣に見えてはいるが、実は国で一番の鍛冶職人であるスミスの作品である。

 強面で気に入った者にしか自分の作品を渡さないスミスであるが、カミルはそのスミスの数少ないお気に入りの一人だった。そんなカミルが名誉ある御前試合に出るとわかったら、わざと派手目な装飾をしない数打ちに見せかけた作品を渡すくらいはするだろうなと思った。国一番の鍛冶職人の強面ドワーフは、ああ見えて意外といたずら好きなのである。


 先制の一撃を潰された相手は、反撃に打って出たカミルの猛攻を必死で防ぐようになっていた。ノルトの方は重い両手剣で防ぐために、装備の面で身軽なカミルの動きについて行けず防御も後手に回ってしまい足元がおぼつかない状態になってしまっている。

 翻弄された状態では隙が出来易く、ノルトが体勢を崩したところでカミルは持っていた剣を首筋に突きつた。この体勢からでは反撃できないと、ノルトが負けを認めたことでカミルの勝利が決まった。


 カミルに負けた相手が優勝候補であったために、賭けに負けた観客の騒ぎが大きくなり色々と面倒なことになりそうで、一回戦を突破したくらいで激励に行くのもどうなのかとカレンは思ったが激励ついでにカミルの控室に避難することにした。



 通路の人ごみをかき分けて、面倒なことになりそうでも観客席に居ればよかったと、早々に後悔しながらカレンはカミルの控室にやってきた。

 当たり前ではあるが、騎士見習いは男ばかりの為に控室は正直言ってものすごく汗臭かった。もはや後悔どころではなく速攻で引き返したいくらいだが、ここまで来た労力を考えれば身内として応援くらいはしなくてはと思い直し、嫌々ながら控室に入った。



「お、カレンだ。久しぶりー」


「ひさしぶり。……なんなのよ、その装備」



 騎士団に入ってから暫くぶりに会ったカミルは、間の抜けた声でカレンの名前を呼んだ。周りは女性の応援が来ない騎士見習いばかりのようで、カミルがカレンの名前を呼んだ時には、半数以上の男の視線がカレンに刺さった。

 居心地の悪さを感じながら、次の試合の準備をしているカミルを眺めていたカレンだったが、カミルの手に持っていた装備を見て顔を引きつらせることになった。



「あ、これ? 職人通りの皆が押し付けて来たから、使わない訳にはいかなくてなぁ。順番に使うことにしてるんだ」


「……あんた一人で職人通りの見本市が出来るんじゃないの?」


「あはは、そうだな。装備は華美過ぎなければいいし、魔道具は使用禁止だから、カレンが作ってくれたものは使ってないし、不正監視とかで装備の事前検査は通っているから使っても問題ないよ」



 カレンは声を潜めて聞いてみると、案の定職人通りの知り合いの作品であった。

 靴は騎士団に入団が決まった時に、革職人のパイソンが贈ってくれたものを長年愛用しているし、来ている騎士見習いの制服は支給品と見せかけて織物職人のテクスの奥さんが縫い上げたものだろう。支給品に見える肩当てや胸当て籠手は防具職人のアーミーの作品だろう。アーミーの相方には彫刻家であるクリエという女性がおり、防具の細部に文様の技術見本のような細かい掘り込みがされており、彼らの作品だということも分かった。

 職人通りの一流と言われる職人たちからの贈り物は、まさに技術の無駄遣いと言わんばかりの巧妙さで、一見ごく普通の装備に見えるような偽装……ではなく、細工されているが、同じ職人であるカレンの目から見たら超絶技巧のオンパレードのような状態であった。

 カミルの言うとおり、装備は華美ではなく見た目はごく普通の騎士見習いの装いではあるが、装備の一つ一つが腕利きの傭兵や騎士たちには垂涎の品だった。しかも、カミルが順番に使うと発言したことから、これの他にもまだ押し付けられた作品があるのは簡単に予想がついた。のほほんとしたカミルの話を聞いたカレンは、こめかみが痛くなるのを感じた。



「いいこと、兄さん。この装備が職人通りの物だってバラしたら、あんたの恥ずかしい過去をアニエスにばらしてやるからね?」



 職人通りの職人たちは商売繁盛になるのは良いが、注文が殺到しすぎて接客に時間が取られた結果、仕事の質が落ちるのは嫌だという者が多い。その中の例外である織物職人のテクスは制作意欲が旺盛で、常に新規顧客が欲しいとぼやいており、カミルに服を作って渡したのは彼を新規顧客獲得のための広告塔にしたかったからだろう。また、カミルに装備品を渡したスミスの鍛冶屋やアーミーの防具店などは、自分が気に入った人にしか作らないことで有名すぎて問題があまり起きない。それに対して、細々と一人で宝飾店を営むカレンは、本職である宝飾品が売れるのは嬉しいが、副業である魔道具の方が売れるのは嬉しくないのである。

 手先が不器用だったカミルは職人にはなれなかったが、職人通りの事情や職人たちの性質などは身を持って知っているのだが、事情を理解していても妹のカレンに対しては絶対的な信頼を抱いていて、そんなこと言っても何とかなるだろうと考えているようであった。

 そんなのほほんとした様子のカミルに苛立ったカレンは、低い声で釘を刺すことにしたのだ。



「え、ちょっ!? なんでカレンがアニエスのことを知ってんの!?」


「アンタが騎士団に入る前からの常連さんだもの。それに男と女だけど双子だから顔は似ているし、一目見たらわかったって言っていたわよ。かわいい妹の仕事が忙しくならないよう善処してね?」


「お、おう……」



 ほほほと笑っているカレンの目が笑っていないことを察したカミルは、カレンに逆らったら過去の色々な恥をばらされるのは確実だと息を飲み、装備の入手先については絶対に漏らすまいと肝に銘じたようだった。


 



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