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第1話 来るべき時

 J.G.(ジャンゴニック・ジェネレーション)2090、世界は大SNS時代を迎えた。あらゆる情報が行き交うこの時代、極東の島国・日本ではとある社会問題を抱えていた。それは少子高齢化である。

 SNSの発達は何も良い面だけではない。ハイスペック美男美女のキラキラ投稿を日常的に見ている若者の、異性に対する理想の高度化。それによる結婚組数の減少、子育てや結婚に対するネガティブイメージの拡散などなど、様々な要因によって少子高齢化は進行している。

 日本の地方で起きている過疎化も同様だ。SNSで発信されている、都会でのキラキラ生活に憧れて上京したり、ネット求人で見つけたより条件の良い職場で働くために上京したり、SNSによって植え付けられた田舎のネガティブイメージが上京の要因になったりと、SNSによってここまでの影響が出ている。

  特に秋田県では少子高齢化と過疎化のダブルパンチによって、県自体が存亡の危機に瀕していた。そんな危機的状況を打破するため秋田県は考えた、「SNSを使って秋田県の魅力を発信することが問題解決の糸口になるのでは」と。

 しかしそんなことは正直誰でも思い付く。何なら他の県で既にやっている。効果が出ているかと問われると首をかしげるレベルなのだが。そこで秋田県はさらに考えた、「自治体のお役所仕事でのSNS発信は下手くそで意味が無い。もっと発信力のあるインフルエンサーにやってもらおう」と。

 というわけで、秋田県は「特別PR大使」なる役職を創設。そこに5人のインフルエンサーが任命された。


 任命式当日、県庁控え室にて。パイプ椅子に座り、菓子をつまみながら1人佇んでいる男性=つまり俺がいた。俺の名前は小野(おの)次郎(じろう)、任命式なので服だけはフォーマルなスーツでカッチリしているが、髪は寝起きそのままでボサボサだ。寝癖を直す時間が無かったんだ。今直せって?ダルいからいいや。因みに俺の正体は…と、誰か入ってきたな。

「おはようございます!」

 甲高い声を上げて入ってきたのは、フォーマルな姿の女性(結構美人)、そして俺の苦手なタイプ・ギャル、さらには今流行り?の地雷系メイク?だっけ?そんなタイプの違う3人の女性だった。

「あれー?まだ誰も来てないの?」

 ギャルよ、お前の目は節穴か。目の前にいるだろ、オ・レ・が!

 っていうかまず挨拶しろよ、挨拶して入ってきたの、あの美人のお姉さんだけだったぞ。

「係の方ですか?控え室はこちらでよろしいですよね?」

「え、俺?俺は今日の任命式で任命される側の人間です」

 美人のお姉さんは俺のことを県職員か何かと勘違いしていたみたいだ。

「え、ああ大変申し訳ありません」

「いや別に良いんすよ」

「あの、私、インステッドグラムというSNSで『Yuki』という名前が活動している者です」

 Yukiねえ、どこかで聞いたことがあるような無いようななんて考えていたら名刺代わりに、とスマホの画面を見せてきた。そこに燦然と輝いていたのは、俺でも到底届かない「200万フォロワー」という数字。

「に、200万!」

 思わず声を出してしまった。

「ちょくちょくバズって気付いたらこんな数字に…」

 気付いたらなんてレベルじゃねえぞ。どういうことや。

「あーしの方がもっと凄いんだから」

 何だ挨拶しないギャルか、どれどれ君のフォロワーがどれくらいいるのか見てやろう。挨拶しないやつがこの世の中上手くやっていけるはずが無い。どうせしょうもない数字…

 ではなかった。名刺代わりに見せられたスマホの画面に驚愕してしまった。何で、何でこんな奴にフォロワーが350万人もいるんだよ!

「あーしはティックリトッカーの『ラブゴージャス』、『ラブコ』って呼んでちょ」

「よ、よろしく」

 この時の俺は顔がひきつっていたと思う。

「いなてっちはどうなん?」

 いなてっち?ああ、入室してからずっと無言の地雷系メイクの子か。勝手にウェイウェイ系だと思っていたが、どうやら彼女は「陰」の人らしい。

「そらは…これくらい」

 名刺代わりに見せられたスマホの画面にまたもや驚愕、もうね涼○ハルヒより驚愕しちゃってるよ。あ、これあんまり面白くないですねー。忘れて下さい。

「270万人…!」

 俺の呟きにいなてっちこと、稲手(いなて)(そら)は静かに頷いた。

「稲手天さんだから、いなてっちか。なるほどね、よろしく!」

「…よろしく」

 俺は180%のテンションで振るまい、それに対しいなてっちから20%のテンションでの発言が返ってきた。

「お話、盛り上がってますね」

 控え室に金髪のイケメンが入ってきた。身長も俺より15センチくらいデカいんじゃないかってくらいだ。

「おはようございます、小生はカモンチャンネルというチャンネルをオメチューブで運営しています。カモンです、よろしくお願いします」

 一人称「小生」って。初めて聞いた。本当にいるんだな。そして名刺代わりに見せられたスマホの画面にまたもや、三度驚愕!フォロワー250の衝撃!勿論単位は「万人」だ。

「稲手さん、お久しぶりです」

「…久しぶり」

「お二人はお知り合いですか?」

 美人のお姉さんことYukiさんはカモンといなてっちに問う。

「ええ、実はそうなんです。同じオメチューバー仲間ですし、今度コラボ動画を出すのでもし良ければチャンネル登録と通知オンで待っていただければと」

 しれっと宣伝したなコイツ。

「ところでさ、アンタはどうなの?」

 ラブコは俺に向かって、何だか喧嘩腰っぽい感じで言った。

「まさかあの『雄勝(おがち)こまち』っていうのは…」

「そうですよ、俺が雄勝こまちです」

 そう、俺は現実では小野次郎だが、バーチャルではブイチューバー『雄勝こまち』なのである!

「雄勝こまちねえ…、って女じゃん!」

 ラブコはスマホをポチポチして、俺のことを調べたみたいだ。

「…フォロワー少ない…」

 小さい声でいなてっちにマウントを取られてしまった俺である。それでも10万人だぞ、10万!十分凄い方だろ、自分で言っちゃったけど。

「雄勝さんは女性のブイチューバーとして活動されているんですよね。だとしたら顔出しされていないのでは?小生たちは全員顔出しをしているのですが、雄勝さんはされていない。しかし任命されたのは女性ブイチューバーの雄勝さんで、委嘱状を受け取るのは雄勝さんの現実での姿、しかも男性。今日は地元メディアが取材で入っていますし、どうするつもりで?」

「それは問題ありません。表向きには『雄勝こまちの代理』ということにしていますので」

「なるほど。今日は代理というテイで委嘱状を受け取ると。では『雄勝さん』と呼ぶのはあまりよろしく無いですね。あなたの本名、教えていただけますか?」

「…小野次郎です」

「案外普通の名前ねー」

 なんだとラブコてめえ。

「素敵な名前ですね」

 Yukiさんは出来た人だなあ。美人だし。

「…次郎…フフ…」

 いなてっち、何故笑った?そんなに面白い名前か?

「いやーあんたが女性ブイチューバーなんて全然信じられないんだけど。これを知ったファンは『騙された』ってさぞ怒るだろうね」

 確かにラブコの指摘は正しい。だけど俺は「釣られてて草」とか思いたくてやっている訳ではない。

「確かにそうかもしれない。でもこれにはとある深い事情が…」

 と言いかけたところで、そろそろ任命式らしく、俺たち5人は呼び出された。


 1人1人に秋田県知事から委嘱状を手渡され、何かいろいろ適当にコメントを述べて記念撮影をして、あっという間に終わった。意外とあっさりしているんだな。

「皆さんの頑張り、本当に期待していますよ。是非秋田県のイメージアップをよろしくお願いします」

 知事は任命式後の雑談で俺たちにこんなことを言った。「本来はあなたたちの仕事でしょう」と突っ込みたくなったが、まあ手を尽くして尽くしきったから俺たちに回ってきたのだと思うと、あまり厳しいことは言えないのかもな。


 そしてその時は突然訪れた。

「大変だあー!」

 白衣を着た、化学者っぽい男性が大声を出して走ってやってきたのだ。何だこの場違いな人は。息を切らしてゼエゼエ言いながらも、呼吸を整えて話し始めた。

「ヴァズレンティノが、奪われた!」

「何!?どういうことだ。あそこのセキュリティはしっかりしているはず…」

「それが、内部の者の犯行で…」

「一体誰なんだ?」

「誰がとかは断定出来ないけど、おそらく八橋(やばせ)くんだね」

 さっきからこの化学者と知事は何を話しているんだ?俺の学が無くて理解出来ていないだけ?

「とにかく時間が無い!そこの任命された5人!すぐにワタシと共に来てくれ!」

「何だかよく分からないけど行くしか無いよな…!」

 俺は覚悟を決めて、化学者の後を追う。そして俺に続いて他4人もついてくる。


 俺たち6人はエレベーターに乗り込み、化学者が地下1階のボタンを3回押す。

「あの、これからどちらに?」

 Yukiさんは不安な表情で化学者に問う。

「県庁地下深くにある秘密基地さ」

「…秘密基地…ワクワク…!」

「いなてっちはそういうの好きなのか?」

「…好き」

 文脈的に考えて俺に言った訳では無いがドキッとした。


 エレベーターの扉が開くと、さらに扉がもう1つ。扉の中央に化学者がスマホの画面をかざすと、扉が開いた。

 その奥には何と巨大なロボットが4機、そのうちの1機が発進準備をしていた。

「説明は後!5人のうちの誰か、このロボット『ヴァズリアント・ヴァズラエル』に乗ってほしい!」

 発進準備をしていたロボットは『ヴァズ何とか・ヴァズ何とか』っていうらしい。まあ突然そんなことを言われてとんでも無いものを見せられて、誰が乗っかるかっての。

「そんな見たことも聞いたことも無いものに乗れる訳ないっしょ」

 俺もラブコの発言に同意する。

「それは分かっている、でもヴァズリアントシリーズに乗れるのは君たち5人だけなんだ!頼む…」

 化学者は深々と頭を下げた。

「小野さん、あなたはどうします?」

 カモン曰く「お前が乗れ」って遠回しに言っているのか?

「そっちこそどうなんですか」

 カモンに話を振る。彼は「やれやれ」とのリアクション。そんな中、1人の女性が声を上げる。

「私、やります!」

 Yukiさん、それ本気ですか?

キャラクター紹介!

(1)雄勝おがちこまち/小野次郎おのじろう


 一人称「俺」、本作の主人公。男だが、女性のアバター『雄勝こまち』としてブイチューバーとして活動している。フォロワーは10万人。他のインフルエンサーには非常に疎く、同じく特別PR大使となった他4人のことを全く知らなかった。

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