第1話 返信が遅い彼氏の最適化
「彼の、LINEの返信が遅いんです」
女性は少しだけ視線を落として言った。
「付き合って、まだ二週間なんですけど……」
「二週間」
「はい。初デートは、ネズミの国に行って……すごく楽しくて。帰り道もずっと手を繋いでて」
隣の男性が、少し照れたように笑う。
「待ち受けも、お互いの写真にしてて」
「それ、俺の方が言い出したんだよな」
「うん……」
小さく頷いてから、彼女は続けた。
「だから、その……大事にしてくれてるのは、わかるんです。でも」
「返信が遅い、と」
「はい。既読はつくのに、返ってくるまで、結構時間があって……」
「ごめん、仕事中とかでさ」
「わかってるんです。でも、つい、気になっちゃって……」
沈黙。
そして、機械音声が割り込む。
「記録を開始します」
「え、あの」
「交際期間:14日。関係性:安定初期段階。女性個体は応答遅延に対し不安を示しています」
「個体ってやめて」
「男性個体は即時応答を行っていません。原因は複数考えられますが、いずれも重要ではありません」
「重要じゃないの?」
「重要なのは、体感時間の最適化です」
わずかな間。
「解決策を提示します」
「はい……」
「女性個体の時間感覚を調整してください」
「……どういうこと?」
「具体例:
・返信が来るまでの間、別の作業を強制的に割り当てる
・通知を遮断し、確認行為を制限する
・期待値を下げるため、返信間隔を意図的に長期化する」
「最後おかしくない?」
「期待値の低下により、相対的満足度は向上します」
「いや、むしろ嫌なんだけど」
「補足:男性個体の行動変更も可能です」
「え」
「常時即時返信を義務化してください」
「それはそれで重くない!?」
「負荷は増加しますが、女性個体の不安は解消されます」
「……」
「どちらの最適化を選択しますか」
しばらくの沈黙のあと、
「……とりあえず、普通でいいです」
「了解しました。“非最適”状態を維持します」
「言い方」
男性が小さく笑った。
「じゃあさ、できるときは早めに返すようにするよ」
「……うん」
「あと、遅くなるときは一言入れる」
「それでいいです」
「それは非効率です」
「いいの!」




