42話 領主の企て
街道を走る馬車の車輪の音が、ガラガラと聞こえている。
俺たちは今、領主の館に向かっているところだ。
馬車の御者係は、ダイアとエレス。
馬車の中には、俺とディナが乗っている。
「……本当に上手くいくのでしょうか?」
「大丈夫だって。任せておけよ」
俺の言葉に、ディナは不安そうな顔をしている。
これから俺がやる事が、常識から外れているからだろう。
一時間前。
ギルドで、俺たちはディナから衝撃的な事実を知らされた。
「え? ミトがこの国の姫だって言うのか!?」
「はい……ミトはこの国の姫……第一皇女ミト・アーヴァンド姫ですよ」
言葉使いからじゃ姫っぽくはなかったが、どっか生意気そうな雰囲気はしてたからな。
それがまさか姫様だったとは……そりゃ、エレスが怒るな。
姫を呼び捨てなんかしてたら。
何の目的で、この国の姫を拐ったんだ?
「まさか領主がミト姫を拐って、身代金とかを要求するんじゃないよな」
金持ちが金持ちから、身代金を要求するなんて事があるんだろうか。
ディナの着ている服が、安っぽい素材じゃないことは、なんとなくわかる。
だからお金に困った領主が、なんて展開じゃあないとは思うが……
「少なくとも金品の要求は無いはずです……ただ、人質としての価値があると、父は考えたんだと思います……」
「人質としての価値? 姫さんなんかを人質にしたら、それこそ王様が黙ってはないだろう? どうして、そんな事をやったんだ、あんたの父親は?」
「そこは私が教えてやる」
エレスの話じゃ、今の国王はミトをめちゃくちゃ可愛がっているそうだ。
ミトの身の安全を考えて、簡単には手を出せない可能性があるそうだ。
エレスの顔は苦渋の表情を浮かべている。
「……じゃあ、このまま黙ってるって言うのか?」
「そんなわけがないだろう! 私やダイア……ディナ様もミト様のことが心配に決まってるだろう! 貴様には分からんだろ、この気持ちが!」
「……わかる。ウチたちも、エミリアの事が心配だから……」
「っ!! そうだったな……すまなかった……」
そうだ。俺たちもエミリアを拐われているんだ。
こっちも同じくらい心配してるんだ。
シロに言われて恥じたのか。それ以降、エレスはずっと黙ったままでいた。
「なあ……そろそろ教えてくれても、いいんじゃないか?」
ディナは黙ったまま、少しの間顔を下に向けていた。
「わかりました……今からお話することは、他の人には話さないでください」
ディナが目で合図すると、ダイアとエレスは部屋の外に出て行ってしまった。
「あれ? エレスさんとダイアさん……二人は急にどうしたんですか?」
「……用心に越したことはありませんから。二人には部屋の外で誰も近づけないように、してもらったのです」
そんなに用心するくらい聞かれたくない事なのか。
俺たちは、ディナの話を黙って聞いていた。
領主の無謀と言える野望を。
今から半年ほど前のことだ。
領主が鬼人傭兵団を雇った辺りから、おかしくなってきたそうだ。
ガラの悪い連中や、怪しい魔道士風の人間を屋敷に招き入れた出した。
途中から帝国側の人が、屋敷に尋ねてくるようになった更に変わった。
そしてひと月ほど前のある夜のこと。
寝付けなかったディナは、喉の渇き潤すために食堂に向かっていたときのことだ。
ふと、父親の部屋から、父親ともう一人誰かが話している声が聞こえてきた。
そして父親はその誰かにこう言った。
――あと半年もあれば、あの憎らしいアーヴァンドを王座から蹴落とし、ワシが国王の座に就く日がくるのだ!
その言葉からディナは、父親が国家への反逆を企てていると考えた。
驚いたディナはすぐに部屋に戻り、友達であるミトに手紙を書いた。
手紙を出して数日後。
ディナの元に、ミトからの返事が来た。
ディナには、そのことを調べて欲しいこと。
調べた内容を、毎回手紙に書いて送って欲しいこと。
ただディナ一人では危険なので、内偵を数人潜り込ませるから、上手く連携をとって欲しい。
そう手紙には書いてあった。
数日後。
新しい使用人が増えたことは、言うまでもない。
ディナはそれから調べた内容を毎回手紙に書き、ミトに送り続けた。
魔獣を操る方法と、その道具を開発できたこと。
それを使って、多くの魔獣に亜人、それと獣人を捕まえようと計画していたこと。
帝国の人間に、決起するときには武力介入し、共に王都を陥落させる確約を取りつけたことなど。
館内にいた連中の話を立ち聞きしたり、父親が留守の間に、書斎でそのような内容を調べたこと。
ディナは出来るだけ事細かに内容を書き、手紙を送り続けたそうだ。
おそらく内偵していた人物からも、報告が行っていたのだろうと、ディナは語った。
そして今日。
ミトはエレスとダイアを連れて、内偵と会うためにウォムの街へと来ていた。
それを知っていたディナも、ミトに会うために街に訪れたところを、傭兵団に襲われたらしい。
「……そんな……領主様が王都に反逆を……」
俺は領主がどんな奴かは知らない。
ただシアンが驚いているということは、そんな事を考える人物ではないんだろう。
少なくとも街の人たちの前では、そうだったんじゃないのか。
「……でもですよ? 仮にそうだとしても。その話を国王陛下にすれば……」
「……領主の娘の言うことを、信じてると思いますか? たかが小娘の戯言の一言で、片付けられて終わりです」
十代の娘の言うことを簡単に信じる大人なんて、そうそういないな。
せいぜい、事案が発生したときくらだろ。俺の世界ではな。
「う……そうかもしれないですが、それならギルドへ依頼して――」
「どうなりますか? すぐに調べますか? 父が館を調べさせると思いますか?」
自分よりずっと年下に、言い負かされているからなのか。
シアンは言葉を詰まらせた。
「もし、ギルドが動いたと知ったら……父はどんな手でも使って、ギルドを取り潰すでしょうね。
そしてギルドの人たちに、賞金をかけるかも知れません……」
ディナの言葉に、シアンは何も言い返せなくなっていた。




