40話 連れ去られた二人
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ミノタウルスは、使いものにならないと判断したのか。
斧だった武器を地面に投げ捨てた。
捨てると同時に、ミノタウルスは両拳を前にし構える。
どうやら肉弾戦に切り替えて、戦闘を再開ってわけか。
大男総じて知恵が云々っていうのは、このデカブツには当てはまらないらしい。
ミノタウルスは、脚で地面を引っ掻く仕草をしている。
鼻息も荒い。威嚇か興奮しているのかのどっちかだろう。
ヴモオオオオオオっ!
ミノタウルスが突進してくる。
毎回毎回、馬鹿みたいに叫びやがって。
もっと静かに突進してこいって、教えてやりたいが……それはもう無理な話だ。
猛スピードで突進してくるミノタウルスを、俺は横一閃に切り裂いた。
何が起こったのか理解する間も与えずにだ。
絶叫する間もなく、ミノタウルスは上半身と下半身を切り離され、その場に崩れ落ちた。
崩れ落ちたミノタウルスの身体が、ブワァッと黒い霧に変わり霧散する。
ミノタウルスが消えた?
今まで倒した魔物は、そんなことはなかったんだが……まあ倒したわけだし、それはどうでもいいか。
周囲を見渡す。
市場は酷い有り様だ。
壊れて潰れた屋台が、あちこちに見えている。
屋台の持ち主たちは、散らばった屋台を片付けていたり、その前で泣き崩れたりしている。
俺は他にも目を向けてみた。
地面に転がっているはずの、傭兵たちの姿はどこにもなかった。
あの混乱に乗じて、撤退したんだろうか。
「ディナ様っ! ご無事ですかっ!?」
ボブショートの女性と長い三つ編みの女性が、ディナの元へと駆け寄ってきた。
「エレスさんとダイアさんっ! お二人も無事だったんですね!」
「はい、なんとか……鬼人傭兵団に囲まれて、ミト様とディナ様と離れ離れになったときは、どうしようかと……それで、ミト様は今どこに?」
ボブショートの女性が、誰かを探すようにキョロキョロとしている。
「エレスさん、大丈夫ですよ。ミトならここに――え?」
振り向いたディナは、言葉を失っている。
さっきまで隣にいたはずのミトの姿が、そこになかったからだ。
「ミトっ!? どこにいったの、ミトっ! 返事をして!」
「……まさか……ミト様っ! いたら返事をしてください!! ミトさまーっ!」
ディナと二人の女性は、必死にミトの名を呼んでいるが、ミトからの返事はない。
俺としては早く帰りたいんだが、このまま黙って帰るのも悪いな。
「しょうがないな。俺たちも探してやろうぜ。シロ、エミリア」
シロが俺の袖を、ちょいちょいと引っ張る。
何か言いたそうな顔している。
「なんだよ、シロ。どうした?」
「……師匠。エミリアもいない」
はい? エミリアもいないだと?
そんなことがあるわけがない。
さっきまでここにいたはず……って、ミノタウルスとの戦いに集中していて見てなかったな。
もしかしたら、迷子になった可能性もある。
あんのポンコツエルフが……見つけたら文句言ってやる。
「あの……お連れのエルフさんも、いなくなったのでしょうか?」
心配そうにディナが尋ねる。
「ああ、いや。多分こっちは勝手にどこかに――」
「……いえ。もしかしたら、ミトと一緒に連れ去られたのかもしれません……」
ディナがずいぶんと思いつめた顔をしている。
そういえば、ディナとミトは傭兵団に追われていたな。
それで連れ去られたと思っているのか。
でも、それとエミリアがどう関係してくるんだ?
たまたま背格好が似ていただけでなんて……あり得る……充分すぎるほどに。
俺やエミリア本人ですら、ミトとそっくりなのを驚いていた。
ましてやあの状況だ。
傭兵団はどっちがミトかなんて、確認する暇があるわけがない。
二人を一緒に連れ去ってしまえば、標的を取り間違えたなんて事にはならないからな。
しかしシロに気づかれないで、よく連れ去れたな。
でも、いったいどうやって? いや、それはどうでもいい事だ。
今は、エミリアを助け出すことを考えないと。
そのためには、この三人から事情を聞き出さないといけない。
「あんた達、教えてくれ。どうして二人が追われていたのかを……エミリアとミトは、今どこにいるのか、知っているんじゃないのか?」
「わかりました……ただお話するにも、もう少し落ち着いた場所がいいのですが……どこかそのような場所は、ないでしょうか?」
そう言ったディナの顔は、困っているように見えた。
まあ……こんな場所じゃ、たしかに落ち着いて話すことができないよな。
落ち着いた場所っていうなら、テメングラトの塔の最上階が、一番適してるんだが……
転移魔法が使えない現状じゃ、それも無理だな。
牛馬車亭はどうだろう。
いい雰囲気の店ではあるが……あそこも落ち着いた場所とは言い難い。
どうこかないか? 落ち着いて話せる場所。
「……ねえ、師匠。ギルドならどう?」
ギルドか……一階は依頼者や冒険者がいるから、落ち着いてとはいかない。
ただ、ああいう場所には、会議室とか来客用の部屋とかがありそうだな。
シロ、ナイス提案だ。
俺はシロを褒めるように、頭をくしゃくしゃと撫でた。
表情は変わっていなかったが、シロの尻尾は嬉しそうにブンブンと動いていた。
俺たちはシロの提案を採用し、ギルドへと向かった。




