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33話 魔法特訓開始

 エミリアの転移魔法で、シロと俺はテメングラトの塔、第一階層に飛んできた。


 ここもずいぶん久しぶりな感じだ。

 とは言っても、まだひと月ほどしか経ってないが、初めて来た時のことは忘れられない。


「じゃ、カケルくん。さっき教えたとおりにやってみてごらんよ」

「おうよ。えーとたしか手に集中する……ような感じだったな」


 ここに来る前。

 エミリアに魔法の使い方を教えてもらった。


 まずは手のひらに集中して、次に呪文を詠唱する。


 ――汝、我が元に集いし炎となれ!


 ん……手のひらに暖かい何かを感じる……これが魔法なのか。

 ()()は、じわじわと手の上で熱くなり始める。その瞬間。


 ボッ!


 コンロに着火したような音と同時に、拳大の大きさの炎が現れた。


「お、マジか! これが魔法……」


 なんかジーンと感動してしまった。

 魔法なんか無い世界で育ってきた人間が、まさか魔法を使える日が来るとは……感無量ってヤツだ。


「すごいね、カケルくん! ちょっとしか教えてないのに、こんなに早く魔法を使えるなんて……さすがボクの弟子だよ!」

「師匠……かっこいい……」


 エミリアも自分のことのように喜んでくれているし、シロは尊敬するような表情をしている。


 なんか照れ臭いし……背中がムズムズしてくる。


(ポーン! おめでとうございます。魔法を覚えたことにより、新スキル『下位魔法使い』を獲得しました)


 この音声ガイダンスも久しぶりだ。

 で、新スキルも獲得っと。これで魔法職が使えるようになったわけだ。


「覚えたぜ、エミリア。『下位魔法使い』ってヤツを」


「……そうかい。やっぱりキミのスキルには、無限の可能性があるようだね……ボクの興味が尽きないよ」


 エミリアは、本当に嬉しそうな顔をしている。


「それじゃあ……早速、キミのスキルを試してみようと思うんだけど……そうだね、アイツで試してみようよ」


 エミリアが指差した先にいたのは、岩場で跳ねているアイツ――弾む球体(リズムボール)


 かなり手こずった相手だったが、今となってはいい思い出だ。

 それにもうあの時の俺じゃなから、今度は苦労する事なく倒せるだろう。


 相変わらず、岩場の上で群れて跳ねている。

 魔法を使うから、少し離れた場所から攻撃してみるか。


 俺が弾む球体(リズムボール)の群れと距離を置いた瞬間(とき)だった。


 俺の脇を白い物体が、素早く走り抜けていった。


「え? シロっ!?」


 シロが単身、弾む球体(リズムボール)の群れに突っ込んだ。

 その中の一匹をキャッチすると、シロはぎゅっと抱きしめて、地面を転がり始める。


 俺もだけど、エミリアも呆気に取られている。

 シロの突然の行動が理解できないからだ。


 シロは喜ぶ犬のように、ゴロゴロと飽きることなく転がっている。


「えーっと……エミリア。あれって……?」

「……ボクもまったく分からないよ……急にどうしたんだろうね、シロくんは……」


 俺とエミリアは、黙ってしばらく眺めていた。


 ようやくシロは俺たちの視線に気づいたのか、何事もなかったかのように澄ました表情で立ち上がった。


「……こ、これは狩猟の基本。これ(リズムボール)が可愛かったとか、そう言うのじゃない。

 本当に可愛いとかじゃないから……犬人族(けんじんぞく)の狩猟本能……」


 ああ……そう言うことか。

 女の子なんだな、シロも……はっはっは!


「……どうして、師匠もエミリアもにっこりしてるの? 違うって言ってるよ?」


 エミリアも俺も微笑ましい目で、シロを見つめている。

 シロは照れた顔を隠すように下を向くと、どこかへ走り去ってしまった。


「あ〜あ……大丈夫か、あんな遠くに行っちゃって……」


「シロくんのことだから問題はないさ。それよりも、カケルくんの魔法特訓を再開しようじゃないか」


 シロの実力なら、この階層の魔物なら問題ないだろ。

 エミリアの言うとおり、俺は俺で魔法の練習といこうか。


 俺は気をとり直して、弾む球体(リズムボール)の群れとの距離を取った。


「下位魔法使い……利用!」


(ポーン! Errorエラーが発生しました。スキル『下位魔法使い』はご利用になれません……スキルを再処理します……)


 あ〜予想どおりそうなったか。

 まあこれくらいじゃ驚かないぞ、もう。


 むしろ、どう変化するのか。それが気になる。

 前は『下位戦士』から『剣聖』だったからな。

 さてさて、どうなりますやら。


(ポーン! 再処理が終了しました。スキル『神代魔法(しんだいまほう)』を使用します)


 はて……神代魔法?

 どういう効果があるんだ? 魔力が増えるとか知力が上がるとかじゃなく……うん?


(ポーン! 警告。ご利用者様のレベルが低いと、死に至る場合があります。ご注意ください)


 し……死ぬぅ!?

 ちょっと待て待て! なんだこの恐ろしいスキルは?

『下位魔法使い』を返してくれ!


「カケルくん? 顔色が悪いようだけど……何があったんだい?」


 そんなに顔色が悪いのか。

 そりゃそうだ。こんな恐ろしいスキル……正直不安でしかない。


 俺はエミリアに『神代魔法』の事を伝えた。

 もちろん死ぬリスクのことも含めてだ。


「……本当に? 本当に神代魔法って言ったのかい?」

「そうだけど……なんだ、その神代魔法ってのは?」


 神代魔法と言う単語を聞いてから、エミリアの様子が少しおかしい。

 妙にソワソワしてるし落ち着かない。


「なあ、エミリア?」

「ああ、ごめんよ。まさか……神代魔法を使える人間が、この世にいるなんてさ……研究者冥利に尽きないよ」


 いったいその神代魔法って、なんなんだ!?



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