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先生は世界を救った英雄ですが、外道です。  作者: 火澄 鷹志
新任教師レクト編
20/152

魔法の得意不得意 後編

「じゃあ次はフィーネだな」

「はい」


 レクトに指名され、フィーネは的の前に立つ。両手を正面に構えて魔法の詠唱を始めると、レクトのお手本と同じくらいの大きさの火球が出来上がった。

 フィーネはそのまま狙いを定め、的に向かって火球を放つ。火球は的の中心に当たり、的を木っ端微塵にした。


「先生、できました」

「おう、オッケーだ」


 フィーネの魔法は、レクトの目から見ても構え、詠唱、狙いともに全て申し分なかった。


「かなり綺麗な流れだったな。魔法、得意だろ?」


 レクトは何の気なしに質問したが、聞かれたフィーネは少し照れたような、だが何故か少しバツの悪そうなった。


「そうですね…自分で言うのも何ですが、どちらかというと得意な方だと思います」

「?」


 相変わらず控えめな表現をするフィーネにレクトは少し違和感を抱きながらも、すぐさま次の生徒を指名する。


「次、ニナ」

「うえー、はーい…」


 ニナはげんなりしたような返事をすると、イヤイヤながら的の前に立つ。みなと同じように両手を構え、魔法の詠唱を行う。なのだが。


「ふん!むむむ…!」


 唸るような声を絞り出しながら、ニナは魔力を両手に集中させる。しかしそれによって出来上がった火球は握りこぶしよりも小さな、見るからに貧弱そうな大きさのものであった。


「えいっ!!」


 大きな掛け声とともに、小さな火球がニナ手から放たれる。だが火球は的から大分離れた明後日の方向へと飛んでいき、しばらくして消えてしまった。

 その結果を見て、レクトはどう表現していいか少し困ってしまった。しかしニナが魔法を苦手としている事は既に周知の事実であったのか、他のメンバーは皆予想通りといった顔を見せている。


「ニナには魔法は無理そうだな」


 残念ながらオブラートというものが苦手なレクトは、結局ストレートに表現する他なかった。


「いいもん!ニナは魔法なんて使えなくたって強くなるもん!」


 ニナはプンスカ怒りながら、皆の方へと戻っていく。魔法は生まれつきの才能にも大きく左右される故、ニナには生来魔法が向いていないのだろう。

 とはいえ魔法が使えずとも歴史に名を残した戦士は数多く存在するので、魔法が使えないからといって別に悲観する事はない。事実、レクト自身がほぼ魔法を使わずにここまでのし上がってきているのだから。

 とにかく、残すは最後の一人だ。レクトは無表情のまま自分の番を待っているルーチェを見る。


「よし最後、ルーチェ」

「はい」


 ルーチェは的の前に立ち、レクトと同じように右手だけを構える。ルーチェが手のひらに魔力を集中させると、瞬く間に直径1メートルほどの巨大な火球が現れた。


「へえ、大したもんだ」


 レクトが褒めるのを聞きながら、ルーチェは火球を的目掛けて放つ。火球自体が余りにも大きかった為、最早中心に当たったのかどうかすらもわからないまま火球は木の的を消し炭へと変えた。


「魔法には随分と自信があるみたいだな?」


 ルーチェの言葉を待たず、レクトが話しかけた。言われたルーチェは特に喜んだり誇らしげな表情をすることもなく、当たり前だといった様子で答える。


「魔法全般は得意だと、最初に言った筈だと思いますが」


 ルーチェのその言葉を聞いて、レクトは彼女の自己紹介を思い出す。どうやらあの時の言葉は嘘偽りのない真実であったようだ。


「ま、自信を持つのはいいことだ。といっても、過信は駄目だがな」


 レクトはルーチェの事を褒めながらも、過信しすぎないようにと釘を刺す。だがルーチェにとってはそれが少し癪に障ったのか、珍しく挑戦的な姿勢になった。


「そもそも、白兵戦ならともかく魔法を使っていいのなら私は先生に一撃加える自信があります」


 ルーチェのその言葉を聞き、レクトの眉がピクッと動く。だがそれは挑発に乗ったというわけではなく、ルーチェの持っている自信がレクトの危惧する()()であると思ったからだ。


「ほー。それこそ今俺が言った()()じゃないのか?」

「いえ、自信です。何なら、今この場で試してみても構いませんが」


 ルーチェが余りにも自信満々だったので、ドSなレクトは逆にその自信をへし折ってみたくなった。勿論ルーチェ本人に現実を知らしめるという目的が第一だが、まだロクに戦闘も経験していないような小娘に色々言わせっぱなしなのが気に食わなかったのだ。

 レクトは少し考え、右手の指を開いてルーチェに見せる。


「5分やるよ。5分以内に1回でいいから俺に攻撃魔法を当ててみな。あ、でも剣で防いだ場合はノーカウントだからな?」


 突然のレクトの提案に、周りで見ていた生徒たちはザワザワと騒ぎ始めた。だが当のルーチェ本人は特に驚いた様子を見せず、逆にレクトに確認する。


「魔法、先生に当ててしまっていいんですか?」


 ルーチェとしてはいくら英雄と呼ばれる男が相手でも、流石に攻撃魔法を直撃させてしまうのは少し気が引けるらしい。そんな彼女の心配をよそに、レクトは首を横に振った。


「こちとらバカでかい『ドラゴン』の吐く火炎だって喰らったことがあるんだ。攻撃魔法1つ当たったくらいじゃどうともならねえよ」


 確かに巨大なドラゴンの火炎と比べれば、先程の火球など大した事はないのだろう。だがレクトは余裕そうな笑みを浮かべながら、ルーチェを少し挑発してみた。


「ま、それも()()()()の話だがな」

「…わかりました。それなら本気で行かせてもらいます」


 ルーチェの口調は冷静だったが、若干イラついているのが態度に現れていた。しかしルーチェ本人もよほど自身があるのか、ムキになるような素振りは見せない。その理由についても、周りで見ていた生徒たちには理解できていた。


「ルーチェの奴、“アレ”を使う気ね」


 リリアは腕を組みながら、何かを察したように呟いた。他の生徒たちもルーチェが何を狙っているのかがわかっていたらしく、リリアのすぐ横にいたアイリスもその考えに同意する。


「いくらレクト先生でも、初見で“アレ”は避けられないでしょうね」


 他の生徒たちも、口にはしていないが皆同じ意見のようであった。いくら英雄でも“アレ”は避ける事ができないだろう、と。

 ルーチェは無表情のまま右手を前に構え、先程と同じように巨大な火球を作り出した。自身たっぷりだった割にはやっている事は普通だったので、レクトは拍子抜けしたような顔になる。


「おいおいルーチェ、普通に正面から撃ったって当たりゃしないぜ」

「そうですか」


 レクトは挑発的な口調だが、ルーチェはあくまで冷静なままであった。ルーチェは火球をレクト目掛けて放つと、即座に別の魔法を詠唱する。


「!?」


 レクトは魔法が発動したのを感じたが、特に何かが変わったようには見えない。だが先程見たルーチェの魔法の腕前からして不発に終わったとは考えにくいので、少し警戒しながらもまずは迫り来る火球を回避しようと試みる。

 だがここで、レクトはある違和感に気付いた。


(視覚と体の動きがズレてる?まさか、これは!?)


 レクトはルーチェが仕掛けたカラクリに気付いたが、既に眼前には巨大な火球が迫ってきていた。大剣を構えて防ごうにも、体が思うように動かない。

 その直後、校庭に爆音が響いた。レクトの立っていた位置には大きな土煙が上がっており、彼自身の姿は全く見えない。だが、周りで見ていた生徒たちにはおおよその結果は予測できていた。


「決まったな。ありゃ避けられねえよ」


 遠くで見ていたベロニカが、悟ったように呟いた。すぐ横で見ていたエレナも同意見のようだ。


「そうね。おそらくレクト先生が相手だからダメージ自体はほとんどないでしょうけど、当たったことには変わりないわ」


 ベロニカやエレナだけでなく、他の生徒たちも全員が今の火球はレクトに直撃したと思っていた。勿論、魔法を放ったルーチェ自身も同じである。

 その内に段々と土煙が晴れてきて、中からレクトが姿を現す。だがそのレクトの姿を見て、生徒たちは言葉を失った。


「驚いたな、まさか時間操作の魔法かよ。超が付くほど上級の魔法じゃねえか」

「なっ…!?」


 余裕そうな顔をしているレクトを見て、ルーチェは思わず驚愕の声を上げた。それもそのはず、土煙の中から現れたレクトには焦げ跡や服装の乱れが一切なく、まるで先程の火球が“当たっていない”かのような出で立ちだったのだ。

 驚くルーチェや他の生徒たちをよそに、レクトは淡々と説明を続ける。


「受けてみて大体わかったよ。相手の体感時間をズラす魔法だな?時間操作の魔法の中では割とスタンダードな方だが、それでも使える事自体が大したもんだ」


 余裕そうな顔をしながらも、レクトは褒めるように言った。

 レクトの言う時間操作の魔法とは、文字通り物体の時間を操る魔法である。今しがたルーチェが使った体感時間の操作の他にも、更に高位の魔法になると対象の時間を一定時間止めたり、速めたりすることができる。ただしいずれも習得の難易度が非常に高く、使える魔術師自体が非常に少ない高度な魔法だ。

 まだ10代の少女であるルーチェがそれを使えること自体が凄いのだが、その不意打ちでさえも躱したレクトに生徒たちは全員、信じられないといった顔をしている。


「ルーチェの時間操作が破られた!?センセイは化け物かよ!」


 皆の声を代弁するかのように、ベロニカが言った。この戦術自体が今まで破られたことがなかったのか、周りで見ていた生徒たちも絶句している。

 しかしルーチェは取り乱す事なく冷静さを取り戻すと、すぐさま2発目の魔法を放つ体制に移行する。先程と同じように、火球を放つと同時にレクトに体感時間操作の魔法をかけた。


「これでどう!?」


 だがこれもレクトは難なく躱す。しかも1回目とは違い、今度は体をひねって火球そのものを回避した。自身の必殺技とも呼べる戦略が1度ならず2度までも攻略されてしまった事に、ルーチェは愕然とした表情を浮かべる。


「そんな!?」


 生まれて初めて自身の時間操作が攻略されてしまったからか、普段は冷静なルーチェが酷く取り乱した様子である。対するレクトはルーチェの魔法を完全に把握できたのか、ポケットに手を突っ込んだまま回避し続けている。その人を小馬鹿にしたような態度がまた、ルーチェの焦りに拍車を掛けていた。


「一発目は確かに驚いたが、タネさえわかりゃ簡単なもんだ。その様子からすると、これより上位の魔法はまだ使えないみたいだな?」

「くっ…!」


 レクトの言う上位の魔法とは、時間を止めるような魔法の事だ。時間操作の魔法における奥義とも呼べる術ではあるが、彼の言う通りルーチェにはまだそのような上級魔法を使う事はできなかった。

 ルーチェは悔しそうな声を上げながらも、再び時間操作と攻撃魔法を組み合わせた戦術を取る。だが何度試しても、一向にレクトに当たる気配がない。


「はあっ、はあっ…!」


 5度目の魔法を放ったところで、ルーチェの息遣いが急激に荒くなった。額には脂汗をかき、少し苦しそうな表情を浮かべている。その理由についても、戦闘経験豊富なレクトはすぐに見抜くことができた。


「ルーチェ、そろそろ限界なんだろ?時間操作の魔法は特に消耗が激しいからな。無理しねえでギブアップしとけ」


 完全に見透かされたように言われルーチェは少し腹が立ったが、これ以上魔法を放つ余力が残っていないのも事実であった。


「わかりました。ギブアップします」


 やや不服そうな顔をしながらも、ルーチェは潔くギブアップした。魔法を使いすぎてよほど疲れたのか、ルーチェはその場にへたり込む。心配になったのか、アイリスとニナがすぐさま駆け寄ってきた。


「ルーチェちゃん、大丈夫!?」

「平気よ、少し疲れただけ。あと、ちょっと悔しい」


 口ではちょっとと言いながらも、ルーチェはとてつもなく悔しそうな顔をしていた。同年代では使える人間などほぼ皆無な時間操作の魔法を使えることが彼女にとっての誇りでもあったのだが、それを簡単にあしらわれてしまった事が悔しくてたまらないのだ。

 一方、ルーチェがギブアップしてすぐ動いたのはアイリスとニナだけではなかった。フィーネとエレナはレクトに駆け寄ると、先程の一件で一番気になっていた事を質問する。


「先生。最初の一撃ですけど、一体どうやって避けたんですか?」

「そうですね。距離的に見てほぼ直撃寸前だったと思いますけど」


 エレナの言うように、あの時のレクトは火球に直撃する寸前であったことは確かだ。そこからどうやって無傷でいられたのかひどく気になるところであったが、当のレクト本人は意地悪そうに笑うだけだった。


「教えてやってもいいが、お前らにはまだ早いな。もう少し戦い方のノウハウをしっかり学んだらまた改めて教えてやる」

「「えー?」」


 2人は不満そうだったが、レクトは気にせずへたり込んだままのルーチェの元へと歩み寄る。そのままルーチェを見下ろしながら、レクトの“指導”が始まった。


「ルーチェ。お前の自信は()()だったってわかったか?」


 レクトの質問に、ルーチェは唇を噛むだけで何も答えなかった。横にいたアイリスとニナが心配そうに見つめているが、それに構う事なくレクトの話は続く。


「お前に才能があるのは認める。だが才能と腕前は別のもんだ。自分の腕前に満足しちまったら、そこでそいつの成長は止まるからな」


 レクトのその言葉に、ルーチェだけでなく周りにいた他の生徒たちも何か考えさせられたようだった。だがここで、純粋にある事を疑問に思ったニナがレクトに質問する。


「レクトせんせーはまだ自分の腕前に満足してないの?」

「当たり前だろ。今はまだ無理だが、最終的には剣を振った時の風圧だけで地上から飛行船を撃墜できるぐらいに強くなりてえ」


 冗談のようなレクトの無茶苦茶な願望に、それまで悩ましい気持ちになっていた生徒たちは急に呆れたような表情になった。ただしニナだけは「すごーい!」と目を輝かせているが。

 話を終えたレクトは、校舎の上に設置された時計を見た。時間的にもちょうどいい頃合いだったので、全員に次の指示を出す。


「さて、それじゃ授業終了の鐘が鳴る前に壊した的を片付けねえとな。各自、散らばった木の破片を拾ってそのゴミ箱に入れるように」

「「「はい」」」


 生徒たちは返事をすると、校庭に散らばった木の的の破片を集めだした。それまで悔しそうにうつむいていたルーチェも、やがて吹っ切れたかのように散らばった的の破片を拾い始める。

 その様子を、レクトはどこか満足げな表情で見つめていた。

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