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先生は世界を救った英雄ですが、外道です。  作者: 火澄 鷹志
炎の修学旅行編
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猫に変えられた英雄 ②

「ひっひっひ。気分はどうだ、四英雄レクト?その小さな身体では自慢の剣術も披露ひろうできまい?」


 カゲロウはあざけるように笑いながら、猫レクトのことを見ている。しかし猫レクトはそんな挑発ちょうはつに乗ることもなく、ただ黙って自身を取り囲んでいる忍者たちのことをながめているだけだ。


「ふん、驚きのあまり声も出ないか」


 猫レクトのリアクションが薄かったので、カゲロウは小さく鼻を鳴らした。とはいえ普通であればこのような状況、パニックになるか戸惑って何もできないかのどちらかになるのは容易に想像がつく。普通であれば、だが。


「なんか先生、イヤに冷静じゃない?」


 まっすぐな姿勢を保っている猫レクトを見て、エレナが言った。

 確かに、驚いているにしては様子がおかしい。というのも、周囲では同じようにネコに変えられた男性たちが慌てふためきながら騒いでいる中、猫レクトは慌てるどころか何故か落ち着いた様子であったからだ。

 だがその直後、猫レクトは更にその場にいる全員の想像の斜め上をいく行動に出た。


「…先生、どう見ても準備体操っていうか、ストレッチみたいなのしてない?」


 猫レクトの行動を見て、フィーネが言及する。なぜなら、何を思ったのか猫レクトは急にストレッチのように手足を伸ばし始めたのだ。これではまるで、逃げるどころか正に「今から戦います」とでも言わんばかりの様子である。

 その突飛とっぴな行動にS組メンバーはおろか敵である忍者たちまで呆気あっけにとられていたが、そんな忍者たちをカゲロウが叱咤しったする。


「ええい!何をぼさっとしている!いくら四英雄レクトといえど、今は単なるネコに過ぎん!さっさと始末してしまえ!」

「「はっ!」」


 カゲロウに命令され、まず3人の忍者が動いた。その内の1人が短刀を構え、素早い動きで猫レクトに向かって振り下ろした…のだが。


「ニャッ!」


 猫レクトはバック宙のような鮮やかな動きで、忍者の攻撃を軽々とける。その動きは決してマグレなどではなく、完全にタイミングや距離感を掴んだ完璧とも呼べるものであった。


「何!避けただと!?」


 忍者が驚く中、間髪かんぱつ入れずに猫レクトは攻撃に転じる。猫レクトは2メートル近く跳躍ちょうやくすると、忍者の顔面に容赦ようしゃ無くドロップキックを叩き込んだ。


「ニャァーッ!!」

「ごふぁっ!?」


 とてもネコの攻撃とは思えない轟音ごうおんが響き、忍者は数十メートルは吹っ飛ばされた。物凄ものすごい勢いで飛んでいった忍者は、そのまま塀に激突する。

 一方、りの反動で後方へと飛んだ猫レクトは、宙返りをしながらすかさず今度はすぐ後ろにいた忍者のあごを蹴り飛ばした。


「ニャニャー!!」

「グハァッ!?」


 見事なムーンサルトキックをお見舞いされた忍者は、その勢いでこれまた数メートル吹っ飛んだ。

 猫レクトが華麗かれいに着地したと同時に蹴りを喰らった忍者は地面に倒れ込むと、そのままガクッと気を失った。その光景を見て、その場にいた敵味方全員が唖然あぜんとする。


「強え!あのネコ強え!」

「一応、ネコじゃなくて先生ね」


 猫レクトの強さに騒いでいるベロニカの横で、エレナが冷ややかに指摘する。しかし猫レクトの強さに驚愕きょうがくしているのはエレナも同様のようだ。

 当然だが、驚いているのはS組メンバーだけではない。


「な、何故だ!?何故そんな身体でそれだけの力が発揮できる!?」


 目の前で起こっている出来事が信じられないといった様子で、カゲロウは慌てふためく。

 そんな彼女の質問に答えるべく猫レクトは直立姿勢の状態のまま人差し指を突き立てようとするが、いかんせんネコの手であるため上手くいくはずもない。


「ニャー!ニャニャニャ!ニャーニャーニャー!」

(訳:残念だったな。俺はこれまでにも怒らせたカリダの奴に幾度いくどとなく魔法でネコやネズミの姿に変えられた経験がある。この姿のままフルパワーを発揮する為の動きは既に体得済みだ!)


 つまり単純な話、猫レクトの動きが異常に良いのは既にネコの身体の動きに慣れているというだけの話であった。しかもその理由が他でもない身内でのゴタゴタだという、至極しごくどうでもいい事実のオマケ付きである。

 …とはいえ、いくらレクトがそれを説明しようとしても全てネコの言葉に変換されてしまう為、周囲の人間すればただニャーニャー鳴いているようにしか聞こえないのだが。


「な、何を言っているのかさっぱりわからん!」


 カゲロウからは、当然の反応が返ってきた。二進にっち三進さっちもいかなくなったカゲロウは、助けを求めるがごとくS組メンバーに怒鳴り散らす。


「おい小娘ども!レクト・マギステネルは一体何と言っているのだ!?」


 カゲロウは怒りと困惑で訳がわからないといった様子である。しかし、訳がわからないのはS組メンバーも同じであった。


「わかるわけないでしょ!大体あんたが先生をネコに変えたんだから、あんたの方こそわかる筈なんじゃないの!?」


 おりに閉じ込められたままのリリアから、当たり前の反応が返ってくる。そもそも、ネコ(元は人間だが)の言っていることを理解しろという方が無茶な話ではあるのだが。


「とりあえず、ものすごいドヤ顔でえらそうなこと言ってるのは間違いないわね」


 ルーチェがボソッと呟く。相変わらず猫レクトが何を言っているのかはわからないが、雰囲気でそれっぽい事を言っているのは何となくであるが理解できた。

 その間にも猫レクトの暴走…もとい無双は止まらない。


「ニャァァァーッ!!」(訳:くたばれ雑魚ざこが!)

「ごふっ!」「ぎゃあ!」「ぐへっ!」


 S組メンバーとカゲロウがやり取りをしている間に、猫レクトは自身を取り囲む忍者を次々になぎ倒していく。

 当然のように忍者たちも反撃するが、猫レクトはその攻撃をいとも容易くかわすとすぐさまカウンターを喰らわす。


「げふっ!」「ぶへっ!?」


 大の大人が1匹のネコによって次々に倒されていくという、はたから見ればシュール極まりない光景が繰り広げられている。

 最初は心配そうに見守っていたS組メンバーも、気付けばいつも通りの表情に戻っていた。


「ネコさんって、こんなに強い動物だったの!?」

「絶対違うわよ!単純に先生だからでしょ!」


 自分たちの常識をくつがえされたかのようにニナが興奮気味に言うが、すぐさまリリアがそれを否定…というかツッコミを入れる。最早、檻の中は猫レクトの強さに対する討論会場へと化していた。


「多分だけど、元々の人間の身体能力がそのままネコの体に影響するってことなんじゃないかしら」

「そうね。この場合、世界最強の傭兵が世界最強のネコになったってだけの話じゃない?」


 先程までの心配は何処へやら、エレナとルーチェは冷静に猫レクトの事を分析している。しかし、唯一サクラだけは別の事が心配になっていた。


「あ、あの…!ですがこのままではレクト様は一生ネコの姿のままで過ごさなければならないのでは!?」


 戦闘能力自体は高いままであるとはいえ、ネコの身体が不便極まりないのは誰が想像してもすぐにわかることだ。しかしこの変化の魔法については粗方あらかた把握していたからか、ルーチェたちはその点については特に心配していないようだった。


「多分、大丈夫よ。この手の変身魔法は大抵、時間が経過するか、もしくは術師自身が気を失えば解けるから。術が解ける前に先生がやられてしまうのが一番の問題だったのだけど、この様子だとそれも心配いらないわね」


 猫レクトの飛び蹴りによって忍者が吹っ飛ばされる様子を眺めながら、ルーチェは自身の見解を冷静に述べる。


「とりあえず、今は先生に頑張がんばってもらうしかなさそうよ」

「頑張るも何も、敵はもうあと少ししか残ってないけどね」


 この場は猫レクトに任せるしかないというフィーネの意見に、エレナが小さな指摘をした。

 エレナの言うように、十数人はいた筈の忍者は気付けばあと2人となっていた。当然ながら、敵の長であるカゲロウは焦る一方である。


「お、お前たち!だらしないぞ!たかがネコ1匹相手に何を手間取っている!?」


 カゲロウは情けない部下たちの醜態しゅうたい叱責しっせきするが、部下の忍者たちにしてみても決してふざけているという訳ではない。この場合、単純に状況が予想の斜め上を行き過ぎていたというだけなのだ。


「そんな事言われても、あれはどう見てもネコの動きじゃありませんって!しかもパワーも半端はんぱじゃな…ごべばっ!?」

「フニャァーッ!!」(訳:余所見よそみしてんじゃねえ!)


 カゲロウに対して弱音を吐く忍者に向かって、猫レクトは容赦なく蹴りを叩き込む。蹴飛ばされた忍者は地面を転げ回りながら庭園の中にある大きな岩に激突し、そのまま気を失った。

 最早、形成逆転という言葉すら生温なまぬるい。これでは完全にネコの蹂躙じゅうりんである。気付けばあと1人になってしまった忍者は、カゲロウに向かって懇願こんがんするように言った。


「やむを得ません、カゲロウ様!アレを使いましょう!総隊長からは危機的状況になったらいつでも使っていいと事前にお達しがありました!」


 昨晩の魔導船での忍者たちの会話からいって、おそらく総隊長というのは例の最高幹部の1人であるシラヌイのことだというのは猫レクトにも理解できた。

 一方でそれを言われたカゲロウは、何故か悔しそうにぎしりをしている。


「うむむ…あんな若造に借りを作るのはしゃくに障るが、この際そんな事も言っていられないか…!」


 渋々といった様子で、カゲロウは部下の忍者の提案を了承した。何やら奥の手があるようだが、どうもカゲロウ本人としては体面的な問題であまり使いたくないらしい。

 しかし、今のカゲロウにとって他に手は残されていなかった。


「見るがいい、四英雄レクト!今度こそ貴様は終わりだ!」


 大声で叫びながら、カゲロウは手と指を動かして宙空に陣を描く。すると何かの術が発動したようなバチバチという音と共に、カゲロウのすぐ正面の空間がねじ曲がり始めた。


「まさか、空間転移魔法!?」


 その現象を見て、いち早く何の術かに気付いたフィーネが言った。ところが、彼女のすぐ後ろにいたニナは何のことかわからないといった様子で首を傾げている。


「くうかんてんい?」

「要するに瞬間移動…ワープの魔法よ!」

「おお、なるほどねー!」


 フィーネの解説を聞いて、ニナは納得したように頷く。2人がそんなやり取りをしている間にも空間のゆがみはどんどんと大きくなっていき、やがて数メートルほどの広さになった。

 だがようやく歪みの広がりがおさまったその直後、今度はズン!という大きな音が辺り一帯に響き渡る。


「な、何?あれ…!」

「お、大きいです…!」


 エレナとアイリスは思わず小さな声を漏らす。

 歪みの中から現れたのは、悠に3メートルはあろうかという大きさを誇る金属でできた巨大な人形であった。

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