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先生は世界を救った英雄ですが、外道です。  作者: 火澄 鷹志
炎の修学旅行編
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次なる目的地

 ニナの寝坊によって窮地に立たされたものの、何とか無事に朝食を終えたS組メンバー。その後はレクトの指示で、旅館の入口で出発の準備をしていた。


「おーし。それじゃあ、そろそろ出発するぞ。全員、トイレ行ったかぁー?」

「子供か!」


 気の抜けたようなレクトの呼びかけに、すかさずリリアが突っ込む。一応教師として間違ったことは言ってはいないのだが、態度が態度な上に彼女たちももう十代後半である。

 しかし、ドSなレクトは今日も平常運転だった。


「そうは言うけどリリア、ちゃんとトイレには行っとけよ。キマイラの時みたいに失禁とかされたら困るからな」

「してないわよ!勝手に捏造しないで!」


 ありもしない事実を捏造され、リリアは顔を真っ赤にしながら憤慨している。だがこんなレクトの言動は日常茶飯事なので、他のメンバーは呆れはしても誰も何も言わない。

 まだ1日しか一緒に過ごしていないサクラでさえも、レクトの人格については何となく把握できてきたようだ。


「というか、先生はえらく元気ですね」


 昨晩の出来事をまだ根に持っているのか、エレナが少し嫌味っぽく言った。しかしレクトはそんなエレナの顔を見て、少し悪い笑みを浮かべながら語る。


「そうだな。確かに飲み過ぎややり過ぎは体に良くないが、適度な量であれば十分な発散を…」

「あー、いいです!もういいです!」


 レクトの言葉をさえぎるように、エレナが大きな声を出した。皮肉のつもりで言ったのが、かえって仇になってしまったようだ。しかしレクトの暴走は止まらず、今度はアイリスの方を見る。


「それに、溜め込み過ぎるのも体に毒だろ。なあ、ドクター?」

「え、えっと、あの、その…!」


 急に話を振られたアイリスは、どう返事をしていいかわからずしどろもどろになった。レクトの言うこと自体も、完全に間違ってはいないのもしれないが。


「真面目に答えなくていいのよ、アイリス」


 そんなアイリスに助け船を出すように、ルーチェが冷静に言う。それを聞いてアイリスは急に恥ずかしくなったのか、今度は下を向いて押し黙ってしまった。


「先生、今日はまず何処に行く予定なんですか?」


 このままでは一向に話が進まないと思ったフィーネは、話を変えるためにも今日の予定についてレクトに尋ねた。


「とりあえず、最初は歴史ある観光名所かな」

「歴史ある観光名所?」


 ここは真面目に答えるレクトであったが、返答が若干わかりにくい表現であったからかベロニカは頭に疑問符を浮かべている。無論、いまいちピンときていないのは他のメンバーも同様のようだ。


「ま、とりあえず昨日みたいに黙ってついてこい」


 そう言ってレクトは旅館の出入り口へと向かう。行き先を詳しく説明しないのは、やはり襲撃を警戒してのことなのだろう。

 しかし旅館を出ようとしたところで、レクトは急に何かを思い出したように振り返った。


「あ、黙ってとは言ったけど、歩きながらのお喋りとかは俺は基本咎めないから安心しろ」

「あー、はいはい」

「お気遣いどうも」


 毎度毎度のことだが、厳しいのか緩いのかよくわからないレクトの言動に生徒たちは毒気を抜かれたようになった。




 


 本日最初の目的地は、レクトたちが宿泊している旅館から割と近いところにあった。歩き始めてから15分ほどで、レクトは古びた大きな門の前で足を止める。


「よーし、着いたぞ。今日最初に見学するのは、この『テラ』だ」


 門の奥には、見慣れない木が植えられた庭園といくつかの建物が見える。しかしこの場所の名前を聞いて、ニナがありがちな質問を投げかけた。


「テラ?四英雄の?」

「このやり取り、またやらないと駄目なの?」


 昨日の神社とジンジャーのくだりが頭に残っているのか、ニナの質問に対してリリアが冷めた様子で言及する。そんな2人をさておいて、何かに気付いた様子のサクラはレクトの顔を見上げた。


「あの、レクト様?もしかしてこの寺に来た理由は…」


 どうやらサクラには、レクトがこの場所へ皆を連れてきた理由に関して何か心当たりがあるらしい。レクトの方も何となく察したのか、サクラの言葉を遮るように軽く手を振った。


「あー、いいよ言わなくて。多分、お前の想像通りだ」


 2人にしかわからない内容の会話を交わすと、レクトは生徒たちからの質問が来る前に早々に門をくぐる。それに続き、生徒たちも次々に寺の敷地内に足を踏み入れて行く。

 だがそんな中、門をくぐったところでふとルーチェが足を止めた。


「…?」

「どうしたの?ルーチェ」


 急に立ち止まったルーチェを見て、エレナが声をかける。ルーチェは少し周りを見渡すが、特に変わったところは見受けられない。


「いいえ、何でもないわ」


 首を横に振ると、ルーチェは再び歩き始めた。そんなルーチェの様子を少し不思議に思いつつも、エレナはやや足早になり先導するレクトたちについて行く。

 やはりここも有名な観光地なのであろう、門をくぐってすぐの場所には明らかに海外から来たと見られる人々がいた。見たところ家族連れや旅人など、人種や職種も様々である。


「あたし、テラとジンジャの違いがわからないんだけど」


 敷地内にある建物を見て、リリアが呟いた。地元の人間ならその違いもわかるのかもしれないが、海外から来た彼女たちにとってはよくわからないものある意味では仕方のないことだろう。


「そうですね…建物自体もよく似てますし」


 リリアに賛同するように、アイリスも少し考え込んでいる。そんな2人に対し、レクトが呑気な様子で答えた。


「安心しろ、俺もよくわからん」

「良くないでしょ!」


 例によっていい加減なレクトの教師らしからぬ発言に、リリアが容赦なくツッコミを入れる。しかしレクトにしてみれば、知らないものは知らないのだからしょうがない。そんなレクトにとって、取れる手段は1つだけであった。


「サクラ、説明よろしく」

「あ、はい」

「自分の仕事ぶん投げたよこの教師!」


 レクトの要請に対しサクラは快諾するが、当然のようにベロニカから更なるツッコミが入った。しかしサクラの方は特に気にした様子もなく、ごく自然に説明を始める。


「まず、寺と神社では祀っている神様が違います。寺は特に宗教的な文化も強いですね。それと、寺には墓地を有しているところが多いです」


 毎度毎度のことだが、サクラの説明は端的でわかりやすかった。すぐそばで聞いていたリリアは、納得したような表情になる。


「要するに海外でいう、教会みたいなところなのね」

「少し異なる部分もありますが、おおむねそう捉えていただいて問題ないと思います」


 サクラの説明を聞きながら、レクトたちは寺の敷地内を歩いていく。そうやって1つの建物の前にやってくると、何かに気付いた様子のフィーネが建物の奥を指差した。


「この像が、テラで祀っている神様?」


 フィーネの視線の先では、祠のような建物の中でおそらく銅か何かでできているのであろう大きな像が座禅を組んで鎮座している。


「ブツゾウっていうらしい。種類や大きさも様々なんだと」

「へえ〜」


 これについてはレクトも何となく知っていたのであろうか、その説明を聞いてフィーネは小さな声を上げた。同じ像であっても、自分たちの国にあるものとは見た目も趣向も違っているのでやはり新鮮に感じるのだろう。

 と、ここでニナから唐突な質問が上がる。


「ねー、せんせー。そういえばフォルティスには神様っていないの?」


 ヤマトでこれだけ多くの神が信仰されているのであれば、自分たちの祖国であるフォルティスにだって神がいるのは当然である。しかし、その質問にレクトが答える前にルーチェからある指摘が入った。


「教会がある時点でわかるでしょ、普通」

「んー、あっ、そうか」


 呆れた様子のルーチェに対し、ニナはいつもと同じようにとぼけた反応を見せている。とはいえ教会があったとしても、そこでどんな神が信仰されているかなど無関係な人間には知る由もないのだろうが。


「何人かいたと思うけど、王都で一番多く信仰されてるのは多分、運命を司る女神『フォルトゥナ』じゃねえかな」

「フォルトゥナ?」


 レクトが口にした名前を聞いたことがないからであろうか、ニナは首をかしげている。しかしニナ以外のメンバーは「そんな事も知らないのか」とでも言いたげな、がっかりしたような目をしているので、どうやらレクトが口にした女神フォルトゥナというのは割とメジャーな存在であるらしい。


「気になるなら、学園に戻ってから聖堂にでも行ってみればいいじゃねえか。確かあそこにもフォルトゥナの女神像が飾られてたぞ」


 レクトの言うように、確かに学園内にある聖堂には女神像がある。といっても、半数以上の生徒にとっては普段は特に用事のない場所なのだが。


「それって、エレナが毎日行ってる所だよな?」

「毎日は行ってないわ」


 ベロニカの間違いを、エレナが訂正する。ただ、彼女が訂正したかったのはそこだけではなかった。


「それと先生、飾ってあるんじゃありません。まつっているんです」

「どっちだっていいじゃねえか」


 かつては修道院にいた身であるエレナとしては大問題なのだが、例によってこういう部分はいい加減なレクトは軽く受け流す。とはいえ、レクトに信仰心などを求める方がそもそもの間違いだということは皆わかりきっているが。

 辺りの散策をほどほどにして、レクトは奥にある大きな建物を指差す。


「とりあえず奥の建物を見に行くぞ。お目当てのものもそこにあるんでな」

「お目当てのもの?」


 アイリスが疑問の声を上げるが、レクトは答えない。もっともレクトの秘密主義は今に始まったことではないので、もはや誰も文句すら言わないが。

 だがそんな中、レクトたちから少し離れた建物の陰から彼らの様子を見つめる1人の人物がいた。


「ひっひっひ。来たか四英雄レクト・マギステネル。お前の命もここまでだ」

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