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スローライフ・オブ・ザ・デッド  作者: ぺんぎん


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コミカライズ公開記念エピソード その5

 

「というわけで人が増えそうなの。あと犬や猫も」


「食料はともかく日用品が足りないと?」


「子供達ばかりなんだけど、生後間もない赤ちゃんもいてね……まだ少しはあるんだけど、哺乳瓶とかおむつとかそういうのを見繕って来てくれるかしら? できれば子供用の服も」


「了解。ちょうど商業施設が近いので探してみるよ」


 ジュンさんが「頼むわね」と言ってスマホを切った。なので改めて車を発進させる。


 エルちゃんと一緒に郊外にいるゾンビたちの鎮圧に来てたんだけど、ジュンさんからの連絡で赤ちゃんや子供や赤ちゃん用の日用品を集めることになった。どこかの店で詰め込むだけ詰め込んでから帰ろう。この辺りも略奪されているが、荒らされていない綺麗な店も多そうだし。


 でも、どういうことなのかね。色々とはしょられてよく分からない部分もあったけど、ミカエルが猫を拾って、ジュンさんがその餌を探しに犬カフェに行ったら、子供と赤ちゃんと犬と猫を発見したとか。


 事情はともかく放っておけるわけでもないし、一時的にマンションで保護することは別にいいんだけど、そういう状況の子達がいるなんて復興しているとはいってもまだまだだね。


「ジュンさんからですか?」


「ああ、うん。なんか子供や赤ちゃん、それに動物を保護したみたい。小さい子供向けの服とか下着とかがあったら持ってきて欲しいって言われた」


「子供向けですか。それに赤ちゃん……これは良い練習になりそうですね!」


「何の練習かは言わないでいいからね」


 エルちゃんに結婚しようと言ったことはまったく後悔はないが、その後のアピール圧が強すぎて困るよ。こちとら彼女とかいたことないんだから、もうちょっとゆっくり歩ませてくんないかな。ここへ来たことも仕事でデートじゃないし。


 それはともかく、人って本当にたくましい。いや、生命がたくましいのかな。


 子供達だけが数人と赤ちゃんが一人、そして複数の犬や猫。数ヶ月前までは大人もいたようだけど、最後の大人が帰ってこなくなり、言いつけを守ってずっとその場にいたのだとか。その後に子供達を守っていたのは犬や猫。食べ物なんかも動物たちがどこからか拾って来ていたみたいだ。


 周囲のゾンビたちがいなかったのも犬が吠えて追っ払っていたみたいで、アマノガワがビルにそこへ乗り込んだ時はかなりの反撃を受けたとか。その間にジュンさんが子供達を説得して動物たちをなだめたらしい。


 犬や猫は自分たちよりも弱い子供達を必死に守ってきたんだろう。お金のために命を奪う俺のような殺し屋とは全く違うわけだ。自分を卑下しているわけじゃないけど、生物として上等なのは人間じゃないね。


「センジュさん、なにか考え事ですか?」


「いや、ジュンさんたちが保護した子供達がたくましいと思ってね。それにそれを守っていた犬や猫も」


「人は一人じゃ生きられませんが、多くの人と一緒なら生きられるし強くなれますから。守っていた犬や猫も、助けるべき子供達がいたから強かったんでしょうね」


「そうだね……もう一人で誰もいないところへ行くなんて言わないよ」


「行ってもいいですよ。私も連れてってくれるならですけど」


 エルちゃんはブレないね。そして俺はブレまくっているのかも。


 昔は人に関わるのが嫌だったけど今はそんなことはない。多くの人と話をしていると自然と笑顔になる。昔だって作り笑いはできていた。ネットの掲示板を見て笑っていたこともあった。でも、本当に楽しかったのかと言われるとそんなことはない。


 少し前の俺はもうずっと壊れていたんだろう。殺し屋だってゲーム感覚だったのかもしれない。現実味がない状況でずっと生きていただけなのかも。


 そんな状況で出会ったエルちゃんはコンビニの店員と客という関係でしかなかったけど、ポイントカードの攻防で俺は救われた気もする。俺はあの時から少しづつでも治っていたんだろうか。


 エルちゃんの顔を見る。それに気づいたエルちゃんが首を傾げて微笑んだ。


 ……うん、間違いない。笑顔をみるだけで心が治っているような気がする。


「どうしました? ここから逃避行ですか? やぶさかでもありませんよ?」


「いやいや、皆が俺たちの帰りを待っているわけだしそんなことはしないよ。ただ、エルちゃんの笑顔が素敵だと思って――ごめん、呼吸困難になるほどとは思わなかった」


 顔を真っ赤にしてアワアワしている。相変わらず打たれ弱いね。攻撃力は高いのに防御力はまったくない。ここは話題を変えておかないとな。おっと丁度いいタイミングでお店が見えた。


「あのお店って子供用の商品が多いところだよね?」


「え、あ、ああ、そうですね」


「略奪されているかもしれないけど見て行こうか」


「はい……私とセンジュさんの子のためにも必要ですからね!」


「それ、絶対に皆の前では言わないでね。というか、よくその状態で反撃したね?」


 やられっぱなしが嫌なのか、それとも何も考えずに言っているのか。どっちでもいいけど、そういうことを言うのは二人だけの時にして欲しい。皆の前で言ったら俺が今まで築いてきた信用がなくなる気がする。


 さて、色々かき集めて早く帰ろう。




「センジュさん! このワンコを見てくださいよ! 名前はレミントンにしました!」


「お姉ちゃん! その子はマグナムでしょ!」


「サクラもモミジも違うってば。この子はショコラでしょ」


「ラファエルも違うよ。その子はヒマワリ」


「愚民どもめ。その子は満場一致で阿修羅。動画配信で覇権をとる」


 予想通りというか、なんというか、俺の部屋で精神年齢低めの子達が名前つけで争っている。他にもいっぱいいるから皆でそれぞれつけてあげればいいのに――ああ、ミカエルの妹たちも名前を何にするか決めてるのか。


 なぜだろう。大人しくしている動物たちの方が大人に見える。


「センジュもエルもおかえり。子供達の日用品はあった?」


「ああ、マコトちゃん、ただいま。一応持って帰れるだけ持ってきた。それにこれもあったよ」


「なに……? ああ、花火? なら、ちょうどよかった」


「ちょうどよかった?」


「今日は保護した子達のために焼肉パーティだってさ。屋上で用意してるよ。男性陣はビールしか用意してないけど」


 なるほど。まだ肉は貴重だけど、こんな時くらいは必要かな。ビールも……まあいいか。まだまだ昔のようにとはいかないけど、今は少しづつでも復興は始まっている。楽しめるときは楽しまないとな。


 こっちはまだ時間がかかりそうだから先に屋上へ行っててと俺とエルちゃんは部屋を追い出された。


 屋上へ出ると、お祭り風の出店が出ていた。焼肉もあるけどほかの食べ物もあるようだ。


「おやっさん」


「よお、帰って来たか」


「焼きそば屋が似合い過ぎててびっくりだよ」


「今後はこいつで仕事するのも悪くねぇなぁ」


 おやっさんはそう言いながら缶ビールを飲むと改めて焼きそばを焼き始めた。鉄板とヘラが良い音を奏でているので美味しそうに見えるね。


「あ、センジュ君、必要なものはあった?」


「足りないものがあるかもしれないけど、もってこれるだけ持ってきたよ。必要ならまた今度取りに行くから」


「助かるわ。ああ、それと傷に効く薬とかあるかしら?」


「いや、薬局は寄らなかったんだけど、怪我でもしたの?」


「私じゃなくてアマノガワ君がね……」


 男だけど美人なアマノガワがやってきた。今はアイドル風ではなく、黒いジーンズに白いシャツってだけなんだけど、どうやら腕にひっかき傷があるようだ。


「仕方ないとはいえ、無抵抗で犬や猫の攻撃を受けていまして。一応、病院でバイテンさんにも診てもらいましたけど、死にはせん、と消毒だけされまして」


「じいさん、男には厳しいよな……」


 じいさんはゾンビになってもじいさんだ。それはそれで嬉しいが、大人の男にも優しくして欲しいよ。それはともかく傷薬か。さすがに今はないけど、明日にでもどこか探してみよう。


「ところで赤ちゃんや子供たちは? 大丈夫なんだよね?」


「あっちでアマゾネスの子達が見てるわ。それにミカエルも――赤ちゃんを渡されてから微動だにしてないけど」


 ジュンさんが見ている方に視線を向けると、アマゾネスの子達が子供達や犬や猫と遊んでいる。子供たちは戸惑っている感じではあるが、楽しそうではあるね。犬や猫もわしゃわしゃされているけどキリッとした顔で子供達の方を見ている気がする。


 ただ、ミカエルだけはなぜかさっきから動かない。赤ん坊を抱いて硬直している。


 そのミカエルが壊れたロボットみたいに首を動かしてから俺の方を見てものすごい眼光を送ってきた。


 分かる。あれは「助けて」の視線だ。なんで受け取ったんだと言いたい。そもそもラファエルちゃん達を抱いたことが無いのだろうか。


 エルちゃんと一緒にミカエルに近づくと微かに口が動いた。


「た、助けて……! 動けない……! 壊しそう……!」


 涙目でそう訴えるミカエル。意外な弱点があったものだが、気持ちは分かる。俺も赤ちゃんなんて抱けない。


「なにやってんですか」


 いきなりエルちゃんがミカエルから赤ちゃんを奪うようにして両手で抱いた。大きなため息をつくミカエルと、笑顔で赤ん坊をあやすエルちゃん。赤ちゃんの方も嬉しそうなのかちょっと笑顔だ。


 ミカエルは呼吸を整えると赤ちゃんを覗き込みながら口を開いた。


「エルはこういう経験があるわけ?」


「私、孤児院育ちなので子供や赤ちゃんの面倒はよく見てましたから」


 そういえばそうだった。人身売買をしていた孤児院ではあるけど、エルちゃんはそこにいたんだっけ。しかも引き取られた先が俺の上司という最悪な人生ルートだった。自分から行ったみたいな感じではあるけど、それでも最悪だ。


 ……赤ちゃんを抱いているエルちゃんを見ると普通の子だよな。俺と違って人生が狂わなかったらどうだったんだろう。結局パンデミックは起こるけどそれまでは幸せな人生を歩めたんじゃないだろうか。それに今からだって――


「センジュさん」


「え? あ、何?」


「どうぞ」


 エルちゃんはそう言って赤ちゃんをこちらに渡そうとする。でも、俺は受け取れない。


「ごめん、エルちゃん、俺には無理だよ。それに俺は――」


 足を洗ったとはいえ殺し屋。誰かの命を奪っていた奴が新しい命を抱くなんて許されない。そもそもそんな資格がない。


「気にしているのはセンジュさんだけですよ」


「え?」


「落としたら大変ですからね」


 そう言ってエルちゃんは強引に赤ちゃんを俺の方へ渡す。俺も慌てて赤ちゃんを抱いた。


 不思議そうな顔で俺を見る赤ん坊。何かを言いたいのか「あー」とか「うー」とか言っている。そして右手を伸ばすような仕草をした。


 何をしたいのか分からないが、左腕で抱きしめながら、右手の人差し指を差し出すと小さな手が懸命に俺の指を握った。そして嬉しそうに笑った……ような気がする。


「それではセンジュさん、将来のために赤ん坊をあやす訓練をしましょう。そう! 未来の私とセンジュさんの――おっとこれは言ってはいけないんですよね!」


「エルちゃん? それほとんど言ったよね?」


「ちょっとセンジュ、それってまさか……もうそこまでの関係に……!」


「違うから。あとあまり騒ぐなって。赤ん坊が驚くだろ」


 なぜかドヤ顔のエルちゃんと悔しそうにしているミカエル。一体何が彼女たちをそうさせるのか。


 そう思った直後に食器が落ちる音が聞こえた。


「モミジ、聞いた!?」


「この耳でしかと聞いたよ、お姉ちゃん! 撃っていいかな!?」


 いつの間にかやってきていた猪鹿姉妹が聞いていたらしい。しかもラファエルちゃん達が「センジュとエルの赤ちゃん?」とか言い出した。


 もう何を言っても駄目だ。今日中に広まり、冤罪をかけられて色々と責められるんだろうな。


 でも、そんな胃が痛くなりそうな未来を心待ちにしている自分がいる。死んだように生きていた日々じゃない、希望に満ち溢れている未来のような気がする。


「あ、センジュさん、赤ちゃんが笑ってますよ。赤ちゃんも私達のことを応援してくれてるんですね!」


「絶対に違うと思うけど、まあ……それでもいいかな」


 いまだに俺の指を握ったまま「キャッキャ」と笑う赤ん坊を見て、なぜかそう思えた。


TOブックス様の公式漫画サイトでスローライフ・オブ・ザ・デッドの第七話が公開されました。


磔にされていた医者バイテンを助けて同居していたが、そこへハッカーのマコトがやってくる。そんな中、エルの保護を頼もうとおやっさんへ連絡すると――という第七話です。ぜひ、ご覧ください!


記念エピソードはここまでとなります。エピソード後にセンジュ達がどんな生活をしているのかを書いたのですが楽しんでもらえたら幸いです。

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