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『キリトリセカイ』Vol.01(001~100)  作者: 百字八重のブログ


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99/100

099 / 私の心臓


「私、心臓にペースメーカーつけてるの」

私は静かに、けれどはっきりとした口調で拓海にそう告げた。


「だから、激しい運動とかは無理。悪いけどセックスもできないし、なんならキスだって避けたい。それでもいいなら、いいよ」

拓海からのプロポーズは正直めちゃくちゃ嬉しかったが、しかし私にはずっとつきあってきた、この病んだ心臓がある。

「私を受け入れてくれるなら、この心臓ごと受け入れてくれないとダメだから」

言葉を重ねる私を、拓海はさきほどからじっと見つめている。

「言うのがこんなに遅くなって、ごめん。でもどうしても言えなかったの。私だって拓海君のことは好きだよ。それは本当」


やがて、拓海は椅子から立ち上がり、

「まいったなぁ」

と宙に向かって言葉を吐いた。

「俺だって男だぜ?優香とのセックス、したいに決まってるだろう。それが出来ないなんて、そりゃないよ」

私は、拓海がそんなセリフを吐くのではないかと思っていた。

しかし拓海の口から出たのは、「俺、そんなに信用されてなかったのか」という言葉だった。

私はすぐにその言葉の真意を把握し、「そんなことないよ!」と弁解した。

「でも、今まで言わなかったってことは、そういうことだろう?」

やや強い口調で、拓海が責める。

私の心拍数が、一段階、あがる。

「言わなかったんじゃない、言えなかったの!」

私は声を張り上げた。

「だから、なんでプロポーズまで黙ってたの。俺、それまでに知ってたら、優香をパラグライダーやジェットコースターなんかに誘わなかったのに。言ってくれよな、ほんと。死んでたらどうするんだよ」

そう言って、拓海は私を見た。

そういう、意味だったのか。

この人を逃しては、いけない――。

強く、強く、そう思った。


「拓海君、聞いて」

私は両手を机の上で組んで、呼吸を落ち着けた。

私の心拍数が、さらに一段階、あがる。

「私と、結婚してください。再婚でいいならだけど」

その言葉を聞いて、拓海はびっくりしたような顔をして、そして、静かに、やわらかな笑顔となった。

「もちろん。俺でいいなら」


こうして、私たちは夫婦になった。

子どもはいないけれど、それでも、拓海とは誰よりもかたい絆で結ばれていると、私は勝手に思っている。

この心臓が止まるその時まで、拓海と一緒にこの世界を生きていけますように、そう静かに願っている。


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