099 / 私の心臓
「私、心臓にペースメーカーつけてるの」
私は静かに、けれどはっきりとした口調で拓海にそう告げた。
「だから、激しい運動とかは無理。悪いけどセックスもできないし、なんならキスだって避けたい。それでもいいなら、いいよ」
拓海からのプロポーズは正直めちゃくちゃ嬉しかったが、しかし私にはずっとつきあってきた、この病んだ心臓がある。
「私を受け入れてくれるなら、この心臓ごと受け入れてくれないとダメだから」
言葉を重ねる私を、拓海はさきほどからじっと見つめている。
「言うのがこんなに遅くなって、ごめん。でもどうしても言えなかったの。私だって拓海君のことは好きだよ。それは本当」
やがて、拓海は椅子から立ち上がり、
「まいったなぁ」
と宙に向かって言葉を吐いた。
「俺だって男だぜ?優香とのセックス、したいに決まってるだろう。それが出来ないなんて、そりゃないよ」
私は、拓海がそんなセリフを吐くのではないかと思っていた。
しかし拓海の口から出たのは、「俺、そんなに信用されてなかったのか」という言葉だった。
私はすぐにその言葉の真意を把握し、「そんなことないよ!」と弁解した。
「でも、今まで言わなかったってことは、そういうことだろう?」
やや強い口調で、拓海が責める。
私の心拍数が、一段階、あがる。
「言わなかったんじゃない、言えなかったの!」
私は声を張り上げた。
「だから、なんでプロポーズまで黙ってたの。俺、それまでに知ってたら、優香をパラグライダーやジェットコースターなんかに誘わなかったのに。言ってくれよな、ほんと。死んでたらどうするんだよ」
そう言って、拓海は私を見た。
そういう、意味だったのか。
この人を逃しては、いけない――。
強く、強く、そう思った。
「拓海君、聞いて」
私は両手を机の上で組んで、呼吸を落ち着けた。
私の心拍数が、さらに一段階、あがる。
「私と、結婚してください。再婚でいいならだけど」
その言葉を聞いて、拓海はびっくりしたような顔をして、そして、静かに、やわらかな笑顔となった。
「もちろん。俺でいいなら」
こうして、私たちは夫婦になった。
子どもはいないけれど、それでも、拓海とは誰よりもかたい絆で結ばれていると、私は勝手に思っている。
この心臓が止まるその時まで、拓海と一緒にこの世界を生きていけますように、そう静かに願っている。




