その夜のハンナ
その夜――
(私ったら何をやってたのよ……! ユニコーンの騎士に抱えられてとか……しかも、しかも……!)
布団の中でハンナは悶えていた。冷静になって今日の事を思い出せば、顔から火が出そうになる。
以前の関係性なら、幼馴染の戯れと思えなくもない。非常時の行動と思えば、確かに必要性はあった。
だが、状況は変わった。
(理由はわからないけど、今のイリーネがテオフィル君なら、私はテオフィル君にずっと抱えられたことになるわけで……!)
今でもはっきりと思い出される感覚。それがテオフィルだと思うと、胸の動悸が収まらない。興奮して眠れそうにない。
証拠も何もないが、ハンナの頭の中には確かな確信があった。今のイリーネはテオフィルだと。そしてそう思うと、ここ数日の行動が恥ずかしくなってきた。
そして今日も。
部屋が二つしかない以上どうしようもないが、ハンナはイリーネと同じ部屋で寝ていた。すぐ近くで眠るイリーネの体。寝返りして手を伸ばすだけで触れることができる距離。
その状況を作ったのは、他ならぬハンナ自身だ。
『今日の部屋割りは、作戦の組と同じという事で』
『そ、その為にくじを作るのも馬鹿らしいですし、いいでしょう!』
……我ながら強引に決めたな、と思わなくもない。みんな疲れていたし、何とか同意してもらった……というか呆れられていたかもしれない。
それでも、譲れなかった。
(……だってイリーネがテオフィル君だとするなら、他の女の人と寝るだなんて……)
そんな乙女な理由だが、いざ一緒に寝るとなるとこれはこれで別の緊張があった。
すぐ近くで眠るイリーネ。無防備な顔は、気持ちよさそうに吐息を繰り返している。触れても起きないだろう深い睡眠。
気が付けば、ハンナはイリーネの体に体を寄せていた。それでも気づかないのを確認してから、抱きしめるように力を籠める。
(いい匂い……もう、何がどうなってるのよ……)
イリーネの匂いを嗅ぐと、冷静になっていくハンナ。心臓の動機は高くなっていくが、心は自然と穏やかになってきていた。
そして冷静になるにつれて、様々な疑問が沸き上がってくる。
何故、イリーネは代役が必要になったのか。何故、初恋の人が女性になっているのか。そして何故、こんな切ない気持ちになっているのか……。
だがそれより先に、湧き上がる感情があった。
(……冷静になってみれば、少し腹が立ってきました。要するにテオフィル君、私達の裸とか見たってことじゃないですか)
(ふーん。そうですよね。役得ですよね。しかもそれを黙ってるとか酷いですよね)
(そうですよ。私は怒ってもいいはずです。散々会えず久しぶりに会ったら姉の体になってた? 再会の喜びとかぶち壊しじゃないですか)
(もう、怒りました。証拠を見つけて土下座して謝らせてみせます! テオフィル君の方から謝るまで、許してあげないんだから!)
嫉妬に似た怒りである。これはテオの事情を知っていれば仕方ないと思うのだが、知らなければテオは『姉に変装して騎士団に入ってきた不埒な男性』となるのだ。本来なら身分詐称などの重罪だが、謝罪させる程度で済まそうとする辺りが惚れたの弱みである。
それを示すように、怒りのベクトルは少しずつ形を変えていく。
(ま、まあ……助けてくれたことには感謝します。テオフィル君が助けてくれなかったら大変なことになったのは確かです)
(見捨てられても仕方のない私を助けてくれたんですから、それは恩に思ってもいいでしょう。その、ええと、かっこよかったのも認めます)
(ええと、昔からそういう所は変わらないなぁ、とは思いますけど、だからと言ってこの再会はあまりな物だと思います。そもそも、どうなってるんですかこの体! 本当に女性そのものじゃないですか……!)
(しかも自分の姉の体とか……! ずっと怪しいとは思ってましたけど、本当に姉に依存してるというか……!)
(…………ばか)
二日目の夜は更けていく。




