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プロローグ

 

 夜会場には、きらびやかな衣装を纏った貴族たちが溢れていた。

 笑い声は絶えぬ。だがその視線は絶えず誰かを値踏みしている。

 王族の夜会など、昔からそういう場所だった。


「……エリオス陛下、さっきからご令嬢をチラチラ見てるけど……いかねえの?」

「ばっ……言うなよ」

 エリオスと呼ばれた青年が、落ち着かぬ様子で濃紺の上着の襟を弄る。

 濡羽色の髪の隙間から覗く瞳は、紅玉のような赤。

 ――この国の王であった。

 

「可愛い子だな……ドレスも大胆だ」

 茶毛の側近が王の耳元でささやく。

「待て……今、どういう言葉をかけるか考えてるんだ」

「……ご、ご機嫌麗しゅう?……お美しいですね?」

「何分考えてんだよ」

 側近が懐中時計を叩き、ため息をついた。

「もうすぐダンスの時間じゃないか……?」

「ダンス……それだ!」

 足を踏み出した王の眼前にグラスが差し出された。

「陛下、お暇なら私と飲みましょう!」

 恰幅のいい貴族であった。酒の香りがする。

「ほら捕まった」

「待て、待て……俺はあの子に……」

「さあ、宴の時間は有限です、あなたと話したいものも多くいるのですから!」

 王が再度令嬢に目を移すと、すでに別の貴族に囲まれていた。

 諦めよう、王はため息をついた。

 

 そして貴族に引きずられる王がふと目に入れたのは、

 何やら人だかりができている一角。

 

 遠目からも目立つ青いドレス。

 その隣には、公爵の深紅の上着が見えた。


 白金色の髪の少女が、公爵の袖を掴んで俯いている。

 公爵は身振り手振りで、少女を宥めていた。


 その一帯だけ、周囲に妙な空気が漂っていた。


 王が貴族を制止した。

「待て、やはり貴卿とはあとでゆっくり話したい」

「俺は大事な用ができた」

「……口説きたい子をみつけてな」

「おお陛下、初心な陛下がついにその気に」

「ふふん、期を逃してはいかんだろう、こういうのは」

 後ろで貴族が拍手している。


 ――――俺は初心じゃない。ちょっと慎重なだけだ。



 王がその一帯に近づくと、人波が王のために割れる。


 白金色の後ろ頭が、すぐそこにある。

 公爵が王に気づき、目を細めた。

 

 王が、少女にこう告げた。

「……少しお時間よろしいですか?王女殿下」


 声を掛けられた王女が、跳ねるように顔を上げた。

「……ほら、良い男が焦れて話しかけてきた」

 公爵が、くすりと王女に笑いかけた。

 王女が公爵を見上げ、口をとがらせた。

「……良い男って……お兄様じゃない」

 王女が振り向いた。

 

「シエル、公爵の傍にばかりいるな。自重しろ」

「……お前にも、公爵にも話しかけたい者がいる」

「……言われなくても……」

 王女は口をとがらせたまま。

 王女の紫水晶の瞳が不満げに揺れている。

 

 王が王女の手を取った。

「まずはお姫様を悪い魔女から引き剥がすか」

 王が笑った。

「……魔女退治は、王子の役目だろう」

 公爵が苦笑した。

「言ってくださる」

 

 そして王を後押しするように、音楽が鳴った。

 

「……ダンスの合図だ」

「私と踊ってくださるかな?王女殿下」

「……いいわよ、下手じゃないなら」

「大丈夫だろう。……文句を言われたことはない」

「なんとかなる、お前相手に失敗はしない」

「期待して損した」


 むくれる王女の手を引き、王が中央のダンスホールへと向かう。

「じゃあな公爵、ファーストダンスはもらった」

「……楽しんで」


 王に手を引かれ、王女は一度だけ振り向いた。

 その視線に気づき、公爵は手を振った。

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