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君が降り立ったその場所が、僕たちの記憶とつながる  作者: 夢咲 言葉
最終章 君が降り立ったその場所が、僕たちの記憶とつながる

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11 降りしきる光と、つながる未来

操縦室は、スティーブが消えたあと不思議な静寂に包まれていた。

残されたのは、賢人、聡太、ティムの3人。


目前には、宇宙の闇を裂くように迫る小惑星。

直径十二キロの塊は、質量の重圧そのものを放ち、船体の振動がわずかに操縦桿へと伝わってきた。


賢人の横に立つ聡太とティムが、無言で手を伸ばす。

三人の手が重なり、ひとつの力となって操縦桿を握りしめる。


「行こう……俺たちの未来のために」

誰ともなく呟いた声が、静かな操縦室に溶けていった。


核弾頭は、すでにスティーブが遺したプログラムで自動起爆するよう設定されている。

彼らの役目はただひとつ――衝突の瞬間まで、この軌道を外さないこと。


計器のカウントダウンは容赦なく進み、数字がゼロへと近づいていく。

「まだだ……まだだ……!」

賢人の喉が乾き、指先は汗ばみ、背中を伝う緊張の震えが操縦桿へと染み渡る。


やがて――。

小惑星の灰色の地表が、まるで手を伸ばせば触れられるほどに迫ってきた。

3人は目を見開き、瞬きさえ忘れて、その光景を焼き付けようとした。


そして次の瞬間。


――轟音もなく、ただ白い閃光がすべてを覆った。

世界は真っ白に染まり、彼らの視界も、思考も、時間さえも飲み込まれていった。


ーーーーー


放課後。

ランドセルを玄関に置いた篤志は、筆箱と参考書をリュックに詰め、急ぎ足で家を出た。

向かうのは隣駅にある塾。

通い慣れたその道も、今日ばかりは少し足取りが重い。


ランドセルを玄関に置いた篤志は、塾の用意をリュックに詰めた。

2教科分のテキストや資料集、水筒まで入っていて、肩にかけるとずしりと重い。

思わず小さく息を吐いた。


「歴史年号の小テストあるんでしょ。

電車の中で最終チェックするのよ」

台所から顔をのぞかせた母が声をかけてきた。


「分かってる」

靴ひもを結びながら、篤志はぶっきらぼうに返す。


母はしばらく黙って見ていたが、やがて小さく笑って「気をつけてね」とだけ言った。

その声を背中で聞きながら、篤志は急ぎ足で家を出た。


最寄り駅の改札を抜けると、すでに拓実が立っていた。

「……模試の結果、見た?」

挨拶もなく開口一番、彼がつぶやく。


「俺、偏差値5も落ちてた……やばいよ……母ちゃんガチギレだし」

拓実の肩は沈みきっていた。


「俺も1下がってた」篤志は苦笑まじりに答える。

「夏休み、あんなに頑張ったのに、なんで?」拓実は視線を落としたまま、力なくため息をついた。


二人は電車に乗り込む。

ドアにもたれた拓実は、流れる景色を見ることもなく、深いため息ばかり。

篤志はカバンから小さな年号暗記カードを取り出そうとしたが、そんな雰囲気ではないとすぐに仕舞った。


わずか一駅。電車を降り、改札を抜けて塾に向かって歩き出す。

ふと、周りのサラリーマンたちが足を止め、空を見上げていることに篤志は気づいた。


「なんだろ……」足を止めて見上げる。


そこには、夜の帳が降りる前の淡い空を背景に、無数の光がきらめきながら舞い降りていた。

細い流星のようにも、光の粉のようにも見える。


ここ数日ですっかり秋色になった空は、茜から橙、薄い藤色へとゆっくり層を重ねる夕焼けに染まっていた。

そのグラデーションの高みから、きらきらと無数の細かな光が降りてくる。

一本の尾を引く流星というより、極小の欠片が空気に触れては瞬き、また消える――そんな粒の群れだ。

ビルのガラスに映った夕陽が反射して、落ちてくる光と重なり合い、街じゅうが薄金色の粉をふりかけられたみたいに見える。

風がそっと向きを変えるたび、光の筋はわずかに揺れて進路を変え、木立の上をすべり、信号機の赤や青をかすめ、頭上でふわりと軌跡を描く。

音はない。

ただ、静けさと人々の息を呑む気配だけがあって、その無音のままの輝きが、夕映えの空をいっそう深くしていった。


「なんだ?あれ」篤志が拓実に声をかける。

下ばかり見ていた拓実も顔を上げ、その光景に目を見開いた。


二人は立ち止まったまま、しばし無言で空を見上げ続けた。

塾へ急ぐ気持ちも、模試の結果の重さも、その瞬間だけはすっかり消え去っていた。


ーーーーー


ビルの屋上に据え付けられた三脚のカメラが、二人を写し出す。

モニターを覗き込んだ賢人が、スマホを操作しながら小さく息を吐く。


「……よし、映ってるな。視聴者数も伸びてきてる」


聡太が隣で、落ち着かない様子で腕を組んだ。

「ま、そりゃそうだろ。『世紀の天体ショー』だもんな。

……でもさ、本当に“これだけ”で済んでるのが不思議だよな」


賢人が頷きつつ、視聴者に語りかけるように言葉をつなぐ。

「NASAが最初に発表したのはさ、小惑星が地球に直撃して、500メートル級の大津波が発生する……って話だった。

世界中が大パニックになったのは覚えてるよな」


「ニュースでもSNSでも、あの時はもう大混乱だった」

聡太は苦笑して肩をすくめる。

「だけど、しばらくして“軌道がずれた”って発表に変わって、次は“自己分裂した”って……。

おいおい、どっちなんだよって突っ込みたくなるくらい、二転三転した」


「結局のところ、今の公式見解は――」

賢人は一拍置いてから、腑に落ちない表情を浮かべた。

「別の隕石の衝突によって、大破したらしい……だそうだ。

だから今日、こうしてその破片が地球に降り注ぐ、ってわけ」


聡太は曖昧に笑って空を仰ぐ。

「……“らしい”ばっかりだな。

どうにも納得いかないけど。

まあ、こうして俺らが生きて空を見上げられてるのは事実だ」


「そうだな」

賢人は空を見上げ「けど、真実はどこにあるんだろうな……」


「――おっ来るぞ!」


次の瞬間、空いっぱいに光が奔った。

夕焼けの残滓に染まる空を突き破るように、無数の破片が尾を引きながら流れ落ちてくる。

一筋、二筋……やがて数え切れぬほどの輝きが、夜の帳を押し広げるように広がった。


「すげぇ……なんだこれ……」

聡太は息を呑み、思わずカメラを掴んだ。

レンズの向こうには、夕焼け空を塗りつぶすような光の雨。


一つひとつの破片は、燃え尽きる寸前に火球となって爆ぜ、尾を曳いて消えていく。

その光の軌跡は、青白く、金色に、赤く――色とりどりに空を縫い、やがて地平線の向こうに吸い込まれていった。


賢人は言葉を失いながらも、視聴者に向かって呟くように語った。

「……これが小惑星の“最後”か」


視聴者のコメント欄には「綺麗だ」「奇跡だ」「信じられない」の文字が次々に流れていた。


屋上に立ち尽くす二人の頬にも、燃え散る火の粉のような煌めきが反射していた。

それは恐怖ではなく、どこか祈りに似たまなざしを伴って――夜空を見上げる全ての人々と同じように。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

この話で【君が降り立ったその場所が、僕たちの記憶とつながる】は完結となります。

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