表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君が降り立ったその場所が、僕たちの記憶とつながる  作者: 夢咲 言葉
第1章 分かたれた選択

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/61

04. 選ばれし者の移住決断

都内某所、1Kのマンション。


「マジかよ、これって……本物か?」


スマホを見つめながら賢人は、声をあげた。


画面に表示されたのは「エリオス移住に関する意思確認」のメッセージ。「YES / NO」の2択で今後の人生が大きく変わる。


「お前、押すの?」


部屋の隅で三脚を立て、機材をいじっていた聡太が顔を上げた。


大学進学で上京してきた一人暮らしの賢人の部屋。

世田谷の親元に住む聡太は、居心地の悪い実家に居たくなくて、逃げるようにココに住み着いている。


「いや、押すでしょ。宇宙人襲来か巨大隕石落下って。

配信であれだけ言ってた俺たちが行かないで、だれが行くんだよ

まさか、二ついっぺんに来るとは思わなかったけど。」


「お前の“予言動画”はまぁ当たったけどさ、本当に行くのか…あの星に…」


「行く行かないじゃなくて、俺の場合行くしかないし。

地球終わるんだよ?

しかもさ、オレもう就活もしてないし、実家帰っても兄貴の家族がいて、俺の居場所なんかないし。

逃げ道っていうか……チャンスってやつ?」


そう言って、賢人は「YES」をタップした。


聡太はしばらく黙っていたが、やがて静かにスマホを取り出した。


「25歳になったら親父の会社に入れって言われてるけど……今なら、逃げられるかもな」


「おー、いいじゃん。お前が編集してくれた都市伝説シリーズ、“これ当たってるじゃん”って今めっちゃバズってるぜ」


「バズっても、今は収益止まってんだけどね」


軽口を交わしながらも、聡太の指は「YES」へと伸びていた。


―――――


翌日。

彼らの部屋に、小型ドローンが現れた。ドアを開けると、直径30センチほどの球体がふわりと浮いている。下部から青白いスキャン光が伸び、彼らの全身をゆっくりとなぞった。


肌の微細な反応、網膜の揺らぎ、過去のSNSの投稿傾向まで読み取るという噂は本当らしかった。


「健康状態、ストレス耐性、攻撃性、知識の傾向……全部丸見えらしいよ」


「え、なにそれ。ちょ、裸にされてるみたいで恥ずいんだけど……」


「落ち着け聡太、次は俺もやるから」


音もなく終わったスキャンの後、二人のスマホにメッセージが届く。


《スキャン結果:適性基準クリア。第一陣候補に登録されました。》


続いて、AI音声による注意事項が再生された。


「これより先、あなたたちにはエリオス移住者の“第一陣”としての行動を求めます。

持ち込める荷物は、小型スーツケース1個分まで。

食品、生き物、植物等の持込は禁止。

出航は48時間後。詳細は今夜、別途通知します。」


「めっちゃ簡単!マジで、行くんだ……」


賢人はベッドに倒れ込んだ。

これまで動画配信のために「終末」だの「人工知能の陰謀」だのと騒いでいたが、いざ本物が目の前にあると、奇妙に現実感が湧かない。


「なあ、親に連絡する?」


「一応、する。……でも、もう反対されても遅いけど」


「俺んちもそうだな。“自由にしていい”の残り時間、これで使い切ったって感じ」


―――――


夜。

パッキングを始める二人。


「お前、ほんと黒ばっかだな。“エリオスでは黒はダサいです!”って言われたらどうすんの?」


上下、すべて黒、靴下や下着まで黒の賢人のスーツケースを見て、聡太があきれた。


「だったら、オレが地球のセンスってもんをエリオスで流行らせるし。」


「あっそ……なあ、やっぱカメラは持ってくよな」


「当たり前だろ。配信義務あるんだぜ?しかも宇宙から。

どのチャンネルよりバズる未来しか見えない。

収益はないけど」


「三脚、ミニにしとくか?あのでっかいのは無理っぽいし」


「あと、バッテリー……あっちでも電源あるかな?」


「さあな。でも、AIが全部面倒見てくれるって話だったから、なんとかなるっしょ」


聡太はカメラをケースに詰めながら、ふと窓の外を見た。


遠く、街の光が滲んでいた。

地球の、この“いつもの夜”が終わろうとしている。


―――――


出航前日。

最後にスーツケースのふたを閉めたあと、二人はベランダに出た。


「ここも……水没すんのかな」


賢人がレンズ越しに、黙って風景を捉え続けていた。


「賢人。……怖くない?」


「正直、ちょっとな。けど、向こうで本当に“新しい世界”があるなら、さ……見たいじゃん」


「だな」


撮影の合間、賢人はぽつりと言った。


「お前、ほんとはあんまり乗り気じゃないだろ。移住」


「うん、まあね。でも……親に決められた未来を生きるより、自分で選んだ星で生きるほうがマシかなって」


聡太の答えに、賢人は「だよな」とだけ返した。


海から吹く風が、二人の間を通り抜けた。


「地球での最後の映像、これでいいか」


「うん。これで十分。あとは、あっちで何が撮れるかだな」


その夜、二人は自分のチャンネルに「旅立ちの前に」というタイトルで最後の地球動画を投稿した。静かな音楽と、街の風景と、短いメッセージ。


《この星に生まれて、たくさんの時間を過ごしました。》

《未来を選べる人間は、少ない。》

《だからこそ、選んだことを後悔しないように、僕らは行きます。》


コメント欄は瞬く間に埋まった。


「泣いた……」「私も行きたい」「気をつけて」「記録、続けてね」「忘れないで、地球のこと」


モニター越しに世界が手を振っているようだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ