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君が降り立ったその場所が、僕たちの記憶とつながる  作者: 夢咲 言葉
第3章 空からの告発

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01 沈黙の中で流れる涙

衛星中継は衝突の瞬間から数時間が経った今もなお、地球の広域映像を断続的に映し出していた。


賢人の部屋には、重い沈黙が流れている。

画面の中、暴風と津波が蹂躙した日本列島の痕跡が、かすかに映っていた。


賢人は、モニターの前に膝を抱えたまま動かない。

さっきまで怒涛のように流れた津波の映像が、今は徐々に薄暗い雲に覆われる地球の全景に切り替わっていた。

青かった海は濁り、緑だった陸地は灰色に染まっていく。


「……こんな、バカな……」


絞り出すような声で、翔太が呟いた。


拓実は、画面から目を離せずにいた。

手元では、スマートフォンに保存していた篤志との写真が表示されている。

夏の川で笑っていた顔。

汗をかいてスイカを食べていた顔。

東京の街角で、二人でじゃれ合っていたあの日の笑顔。

それが、今はあまりにも遠く、手の届かないものに思えた。


「生きてるよな……あいつ……」

拓実はかすれる声で呟く。


翔太が応えることはなかった。

ただ、伏せていた彼の目尻には、一筋の涙が滲んでいた。


賢人もまた、言葉を失っていた。

この日が来ることはわかっていた。

予測された時間通りに衝突は起こった。

それでも、いざその光景を見た瞬間、彼の思考は止まった。

脳が現実を処理しきれない。

何も考えられない。

ただ、心の奥底にある「何か」がぐつぐつと、ゆっくりと煮えたぎっていた。


「……なんで、俺たちだけこんな安全なとこにいるんだろうな」

翔太がぽつりと漏らす。


エリオスの気密性の高い快適な部屋、一定の気温と湿度が保たれた空気、食料も生活設備も過不足なく整っているこの環境。

その中にいることが、今は酷く残酷に感じられた。


「何も……できなかった」


賢人の手が、強く拳を握る。

怒りか、悔しさか、それとも罪悪感か、自分でももうわからなかった。


「あの日、篤志に言ったんだ。『動画、あげるから見てくれよ』って」

拓実の声が震える。

「見てるかな……いや、生きてるかな……俺、何も返せなかった……」


しばらくの間、三人の間に言葉はなかった。

ただそれぞれの心の中で、怒りと後悔と無力感が渦を巻いていた。

そして――


「……だったらさ」


拓実が、ぽつりと呟いた。

「地球で生き残った人たちを、ここに……エリオスに連れてこられないのかな」


賢人と翔太が、静かに顔を向ける。

拓実は、手のひらをぎゅっと握りしめた。


「お願いだよ、AI……頼む。今すぐじゃなくてもいい、でも……俺たちの家族や友達が、地球でどんな状況にあるか分かってるんだろ?

だったら……助けてくれよ」


天井近くのスピーカーから、あの無機質で、どこか優しげな女性の声が返ってきた。


「現在、エリオスの環境は安定しています。

しかし、さらなる人口増加は、システムが維持する“平和と秩序”を著しく損なうおそれがあります」


「でも、まだ土地はあるだろ!」

賢人が立ち上がり、AIの声に向かって声を荒げた。


「俺たちの住んでる区域の反対側、あの海の向こうにも陸地があるのを、もう分かってるんだよ。

誰も口にしないけど、ちゃんと“映像”に映ってた。

あそこを使えばいいじゃないか!」


「確認された陸地は、現在の生活圏外です。

安全性が確保されていないため、居住区域としての開放は予定されていません」


「じゃあ、何のためにあるんだよ!? この星には、まだ可能性があるはずだろ!」


AIは一瞬、返答に間を空けた。

そして、前と同じトーンで、ただこう繰り返した。


「現在の人口を維持することが、エリオスにおける最も安定的な社会構造を保つと判断されています」


「曖昧なことばっかり言いやがって……!」

賢人は歯を食いしばり、机を軽く叩いた。


翔太が静かに口を開く。


「つまりさ……俺たちでなんとかするしか、ないんだよな」


その言葉に、賢人と拓実がゆっくりと頷いた。


Room-Zに集う仲間たちの顔が、脳裏に浮かぶ。

誰もがそれぞれに、小さな違和感を抱えていた。

それでもなお、声を上げることは難しいこの世界で、何かを変えるには――自分たちが動くしかない。


「調査しよう。あの陸地の正体を。

俺たちの足で、目で、確かめるんだ」


賢人の声に、二人も力強く頷いた。


「やろう。Room-Zのメンバーに呼びかけて、有志を募ろう」

翔太がスマートパッドを手に取り、指を走らせた。


「僕も行く」

拓実が迷いなく言った。


「地球に残ってる人のために。篤志のために。

……それに、今のこの世界、やっぱりどこか変だよ」


こうして三人は、「行動」に向けて立ち上がった。

世界が真実を語らないのなら、自分たちの手で暴いてやる。

その先に、誰かの希望があるのなら。


静かだった部屋に、少しだけ熱が戻ってきた。

あの日、あの時、命を懸けて地球に残った人たちの想いを、決して無駄にしないために――。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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