20. 地球最終段階 ~残された者たち~(前編)
残された日々を数えるように、村では準備が進められていた。
「太陽光発電は当てにならない。水力で最低限の電力を賄わなければ。」
雅彦の言葉を受けて、村の男たちは水車の増設に取りかかった。
かつて使われていた古い水車小屋の基礎を掘り起こし、壊れかけた羽根を大工の石田が新しく組み直す。
「ここは水が豊富だ。川をうまく分岐させれば、もう一基いけるな」
設計図を前に、雅彦と石田が膝をつき合わせて話し合う様子は、まるで昔の職人のようだった。
同じ頃、篤志たち子ども組は、畑の一角でせっせと作業していた。
「これ、暗くても育つやつだよ」
篤志が手に持っていたのは、タネ袋。豆類、キノコ、ジャガイモなど、直射日光がなくても育つとされる作物が記されている。
「じゃがいもって、芽が出たやつ家にあったよ」
従兄弟の春馬が鼻をぴくぴくさせながら言った。
「それ、今すぐ持ってきて!」
悠馬は、近くの落ち葉をかき集めていた。畝にかぶせると、保温と保湿の効果があるというのを、以前見た配信で学んだのだ。
「こうして葉っぱの布団をかけると、昼間温まった熱が少しでも残るんだ」
「やっぱ悠馬兄ちゃん、頭いいな〜!」
「いやいや、篤志の知識だって役立ってるぞ。中学受験の理科、ここに全部生きてる感じじゃん」
思わず篤志は笑った。そしてその笑顔の奥で、いつしか“点数のため”に学んでいた知識が、“生きるため”の知識に変わっていることを実感した。
一方、家畜を飼うエリアでは、干し草や野草の収穫と貯蔵が進められていた。
衝突の前に、できるだけ蓄えておく必要がある。餌が切れれば、牛も鶏もヤギも生き延びられない。
「乾燥させるだけでも保存が効くって、前にテレビで見たことある!」
子どもたちの一人がそう言って、広げたブルーシートの上に草を並べ始める。
女性たちは、野菜を干して保存食にする作業に余念がなかった。
「切り干し大根、干し椎茸、それから人参もいけるわよ」
「塩漬けのタケノコもまだあったよ。缶詰もリストアップして回収しといた」
軒先には、日干しされた野菜がカラカラと揺れていた。陽射しのあるうちに、と毎日が時間との勝負だった。
医師の西野は、古い公民館の一角を仮設診療所として整備していた。
「今のうちに、感染症が広がらないようにしておきたい」
彼は、持ち込んだ簡易水洗設備や、手指消毒液の配置を見直していた。子どもたちには丁寧な手洗いの指導。高齢者には予防接種の記録と体調チェック。
「いざというとき、パニックになっては命を落とす」
そう語る目は真剣だった。
そして、大工の石田は水車の作業と並行して、村の裏山にある“防空壕”の修繕にも取り掛かっていた。
「戦時中に掘られたもんだ。使えるようにするには、時間がかかるぞ」
壁面は湿気でぬかるみ、通気口もほとんど塞がれていた。
「とにかく空気の流れを作らないと、中にいられない」
石田は、古い換気口の錆びた金属を削り、新しいパイプに取り替えていく。西野の助言で、排水経路も整えた。大雨が来ても中に水が入らぬよう、土嚢で通路の傾斜も作り直された。
作業の合間には、石田が村の子どもたちを呼び寄せ、工具の使い方を教える姿も見られた。
「ここは命を守る場所だ。手を抜くなよ。未来のためにやるんだ」
その言葉に、子どもたちの表情が引き締まる。
夜。炭火で炊いたごはんに、干し野菜の味噌汁。
最近では電力不足が深刻になり、ロウソクの灯りのもとで夕食を囲むことも多くなった。
「今日もよく頑張ってたね」
そう言って陽子が微笑み、篤志は肩で息をしながら牛乳を飲み干す。
その横で、雅彦は今日の進捗をメモにまとめていた。
外は満天の星空。
宇宙からやってくる巨大な破壊の使者が、この穏やかな村にも確実に近づいている。
それでも、人々は目の前のことに全力を尽くしていた。
“備える”ことが、今できる、最も希望に近い行動なのだ。
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