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11. サバイバルの日々

朝から鶏小屋の掃除と水やりを手伝った篤志は、すでにヘトヘトだった。

腰は痛いし、腕もだるい。

体育の授業以外で体を動かしたのは久しぶりで、インドア派の彼にとってはなかなかの重労働だ。


一方、雅彦は村の水車とソーラーパネルを点検していた。手には古びた配線図と工具一式。


「おい雅彦、またお前か。昨日も電柱登ってたな。電気屋か?」


声をかけてきたのは、村の長老的存在の一人、太一さん。

自称“百姓一筋七十年”。


「電気屋じゃなくて電機メーカーです。

でもまあ、似たようなもんですかね」


「ようやるなあ。

うちの発電機、去年から動いとらんのよ。

暇があったら見てくれんか?」


「たぶんバッテリーの寿命です。

交換すればいけるかと」


そんなやりとりをしながら、雅彦も少しずつ村の信頼を得ていた。


―――――


昼前、篤志は納屋の軒先に腰を下ろし、スマホの画面を食い入るように見ていた。

通信は不安定ながら、かろうじてネットは繋がる。

今日も例の配信チャンネルが更新されていた。


画面には、エリオスに到着した賢人と聡太が、にこやかにカメラに手を振っている。


《はいどうもー! こちらエリオス、到着三日目の現地レポートです!》


お気に入りの配信者だ。

この騒動が起こる前、塾の帰りに見ていた都市伝説動画が懐かしい。


「うわ、すげぇ……」思わず声が漏れた。


画面の背景には、整然と並ぶ高層マンション、公園、そして無人バスが滑るように走っていた。

まるで未来の街だ。

だが、なぜか人の気配が薄い。


「完全に映画のセットみたいね」背後から陽子の声。


「でもさ、なんか……人いないよね?

この二人以外、全然映らない」


「第一陣しかまだ到着してないから、じゃないかな」


言いながら、篤志の中に言いようのない違和感が残った。

画面の中の明るさとは裏腹に、音が少なく、風景も無機質に感じた。


続いて、彼はもう一つの配信に切り替えた。

そこではエリオス第二陣の出発風景がライブ中継されていた。


シャトル前には、スーツケースを手にした若者たちと家族連れの列。

カメラは淡々とその様子を映していた。


「お父さん、第二陣って何人ぐらいなの?」


「政府発表では、日本からは2万人。

今後は1日おきに数万人ずつ出発する予定だって」


「じゃあ、拓実が行くのは明後日か……」


「東京も治安が悪化してるしな。

移住希望者が急増してるってさ。

首都圏の避難所建設も追いつかないらしい」


―――――


昼の休憩時間。

共用の食堂に集まると、テレビはNHKだけが報道を続けていた。

他局は昔のドラマやバラエティの再放送ばかりだ。


《――富士山五合目の仮政府庁舎には、今月中に各省庁の主要部門が移転予定》


《一方、都内では一部の繁華街で略奪行為が発生。

警視庁が投入した治安部隊が対応を行っています》


陽子はおにぎりを食べながら、ため息をついた。


「やっぱり、東京はもうダメね」


「避難所は足りるのかな……?」篤志が聞いた。


「建設作業に参加した人を優先して、仮設住宅が割り当てられるらしいぞ。

人手も資材も不足してるし、早いもん勝ちかもな」


―――――


午後は、畑の開墾作業。草はヤギが食べてくれるが、土はガチガチに固まっていて、スコップが刺さらない。

副リーダーに立候補した春馬は、早々に根を上げるなか、篤志は手にマメができながらも最後までやり切った。


日が暮れる頃、ようやく作業を終え、風呂に入り、冷たい牛乳を一気に飲む。

今日も、家族三人で雑魚寝する部屋へ戻った。


そこは、かつて雅彦が高校まで使っていた部屋。古い参考書や図鑑、マンガが当時のまま並んでいる。


「明日のために筋トレでもしとくか」篤志は腕立て伏せに挑戦するが、体はすでに限界。


「……ヤバいな、オレ」


うつ伏せになったまま、気がつけば眠ってしまっていた。

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