第38話 ドラゴネスの一族
俺はヌルシーたちの向かった方角へ全速力で走り、彼女たちを探した。
そして、そんな全力疾走を続けること、およそ5分後。
町を少し離れたところにある丘の上で、俺は凄いものを目にした。
ドラゴンだ。
丘の上にはドラゴンが5体もいる。
黒、白、赤、青、緑といった色が特徴のドラゴンだ。
しかも、そのうちの1体は、以前俺も目にしたことがある。
「……あれ、フラミーだよな?」
そこには、フラミーが龍化することにより変身する赤いドラゴンがいた。
ドラゴンのすぐ近くには、粉々に砕かれたゴーレムらしき破片と、怯えた様子でドラゴンを見上げる黒ずくめの集団がいる。
どうやら、ここにもすでにノワール教団の連中が来ていたようだ。
見たカンジ、完全に勝負は決しているようだな。
というか、この状況的に、あのドラゴンはフラミーたちってことでいいのか。
普段はか弱そうな少女の姿であるというのに、今は大人の集団を怯えさせているとは。
末恐ろしい子たち!
……一応、『サーチ』を使っておこう。
万が一にも、あのドラゴンたちがフラミーたちじゃなかったとしたら、また彼女たちを探すために走り回らなくちゃいけないしね。
さてさて……それじゃあ試しに、あの黒いドラゴンを『サーチ』してみよう。
ヌルシ―・ドラゴネス ♀
身体能力 236050
魔法能力 988
つよっ!?
え!?
ヌルシーって、ホントはこんなに強かったの!?
こんな数値、俺自身を抜いたら今まで見た中で一番高いじゃん!
……というか、やっぱりあのドラゴンはヌルシーだったか。
色的に、なんとなくそうなんだろうなとは思ってたけど。
予想的中だ。
強さに関しては予想外だったけどね。
「…………ん?」
よく見ると、ドラゴン状態のヌルシーは、背後に白いドラゴンを庇うようにして立っている。
白いドラゴンはケガしてるみたいだな。
カラーリング的に、あれはインフィーだと思うんだけど、まさかヌルシーが彼女を庇うだなんて。
ちょっと、いや、かなりビックリだ。
「みんな! 大丈夫か!」
ひとまず俺は、ヌルシーたちに駆け寄って声をかけた。
「「「っ!?」」」
すると、インフィー、レイニー、ウィンディーの3人は驚いたのか、ビクッと体を震わせた。
それと同時に龍化も解けたようで、彼女たちのギョッとした瞳が俺のほうに向けられる。
ああ。
驚かせちゃってごめんよ。
でも、今は緊急事態だから、しょうがないよね。
「インフィーはケガをしているのか。ちょっと見せてごらん」
インフィーは右肩を手で押さえている。
よく見ると、そこから血が出ているのがわかる。
「え、え、え、ちょ、ちょっとお待ちくださいませ――」
いいや!
待てないね!
女の子のケガを放っておくことなんて、俺にはできない!
というわけで、俺はインフィーに最上級回復魔法をかけてあげた(過剰回復である)。
それにより、インフィーのケガは一瞬のうちに癒えた。
「あ……ど、どうも……あ、ありがとうございます」
「どうしたしまして」
インフィーはオドオドとした様子であるものの、俺にお礼の言葉をかけてきた。
俺が喋るもんだから戸惑っているんだろうけど、ちゃんとこうしてお礼を言えるんだから良い子だよね。
「お兄ちゃんが駆けつけてきたのなら、もう龍化を解いても大丈夫ですね」
「そうですわね。突然襲ってきた方々も、今はもう戦意を喪失しているようですし」
と、そこでヌルシーとフラミーも龍化を解いて、俺の近くに歩いてきた。
「2人も無事だったみたいだな」
インフィーのケガ以外、彼女たちに目立った外傷はない。
この様子なら、俺が来なくてもなんとかなったな。
たとえヌルシーたちに龍化という切り札があっても、俺は駆けつけるけどね。
その結果は変わらない。
だって心配だし。
「というか……ヌルシーって本当はとってもお強いんですね?」
「当然です。私はやればできる子なのです」
ヌルシーはドヤ顔で『ふふん』と鼻を鳴らした。
ドヤ顔も超絶可愛いとは……。
しかも、こんなナリで実は超強いとか……恐ろしい子!
って、これ2回目か。
「なんでこんな子が私たちの中で一番強いのか……意味が分かりませんわ」
フラミーが呆れたように大きくため息をつく。
やっぱりヌルシーの強さは別格なのか。
まあ『サーチ』で見たカンジ、単純なスペックはこの世界でもトップクラスだったからね。
龍化したヌルシーには、もしかしたらイーナやクレアでさえも敵わないかもしれない。
改めてそう考えると、やっぽり凄いな。
「流石は黒龍王の娘……ということなのでしょう……」
インフィーが小さな声で呟く。
黒龍王が強いから、その娘も強いという理屈なのか。
確かに黒龍王は他の四龍王より強いみたいだけど、それが次の世代にまで遺伝するとは限らない気もする。
だけど結果はヌルシーの1人勝ちみたいだし、あながちその理屈も間違ってないのか……。
「……ヌルシーさん」
「なんですか、インちゃん」
俺がそんなことを考えていると、インフィーがヌルシーに声をかけた。
彼女の様子はしおらしく、恐る恐るといったカンジの声だった。
「えっと……その……あなたは私のことを嫌っていたのではなかったのですか?」
「嫌いですよ? 昔仲間外れにされたことは今でも恨んでます」
「でしたら、なぜ私を庇うようなことを……」
「それとこれとは別なのです。嫌っていても、インちゃんに死なれるのは私もイヤです」
「ヌルシーさん……」
どうやら、ヌルシーも心底インフィーを嫌ってたわけじゃないみたいだ。
そういうことなら、お兄ちゃんも嬉しいぞ!
「まあ、こうして庇うことでインちゃんに貸しを作るというのも、悪くはないですしね」
「ええっ!?」
ヌルシーがインフィーを見ながら黒い笑みを浮かべている。
ちょっぴり怖いですよ、ヌルシーさん。
でも、そんな小悪魔的な笑みも可愛いとか……恐ろしい子!
……って、これはもういいか。
まあ、そういう風に可愛いと思ってしまう俺は、もしかしたらいつの間にかヌルシーに調教されているのかもしれない。
ああ、なんて悪い義妹なんだっ。
「それはそうと、アルトさん。あの集団はこの後どうすればいいんですの?」
「おっと、そうだった」
ヌルシ―たちのことで頭がいっぱいになってしまって、ノワール教団のことを忘れてしまっていた。
といっても、もう戦意喪失してるみたいだから、問題ないっちゃ問題ないんだけどね。
「ひとまず拘束して町に連れて帰る。ヌルシーたちは危ないから下がってて」
こうして俺は、その場にいるノワール教団の一味を縄で縛りあげていった。
その後、ヌルシーたちと一緒にその集団を町まで連れて行ったのだった。
町に戻ると、俺が丘の上で見たような光景があちらこちらに見えた。
ドラゴンの群れが連携を取ってゴーレムを駆逐している。
ゴーレムもかなり強い部類のはずなんだけど、ドラゴネスの一族が住む町を敵にしたのはマズかったみたいだね。
建物とかは一部損壊したみたいだけど、人的被害は警鐘だけで済んだようだ。
イーナたちも、これには大分驚いている様子だった。
そんなこんなで、町を襲ったノワール教団は無事お縄につくこととなった。
一件落着!




