第39話 デレ期?
ドラゴネス一族がノワール教団を返り討ちにした翌日の朝。
俺たちはスタート王国に帰るため、白龍王のところへ別れの挨拶をしにやってきた。
ちなみに、これは補足であるが、捕えたノワール教団の一味は近くの大きな街まで『ワープ』で輸送して牢屋に入れてもらった。
人数が結構多かったので、白龍王のところでは捌ききれないための処置である。
「ふむ……もう帰るのか。昨日は昨日で、あまり休めなかっただろうに」
「帰りは『ワープ』でさほど苦労せず帰れますので、お気になさらず」
もう何日か泊まっていってもいいと言いたげな白龍王に、イーナはやんわりとした受け答えで対応していた。
まあ、あまり白龍王のご厚意に甘えすぎるのもよくないよねってことかな。
それを言っちゃうと、王宮で世話になりっぱなしの俺なんかはどうなのよってカンジでもあるけどね。
いい加減、自分の住居くらいどこかに構えるべきか。
「ヌルシーさん……もう行ってしまうのですか……?」
俺が頭を悩ませていると、インフィーが眉を下げてヌルシーに訊ねた。
昨日の一件があったからか、ヌルシーに対するインフィーの態度が軟化したように見える。
これがデレ期というやつか。
やっぱり俺の想像通り、彼女はツンデレだったというわけだな!
「あなたさえよければ、もうしばらくここに滞在してもいいのですよ……?」
「……まさかインちゃんにそんなことを言われる日が来るとは思いませんでした」
対するヌルシーは、若干引き気味でインフィーに接している。
今日帰ることが確定したのは、なにを隠そう、ヌルシーがインフィーの変化に対応できなくて早く帰りたがったからだ。
彼女いわく、『なんか今のインちゃんはインちゃんらしくなくて気持ち悪いです』とのことである。
酷い言われようではあるが、昨日からインフィーはヌルシーに構いっぱなしだったので、それもしょうがない反応と言えるのかもしれない。
構うようになったのは、昔ヌルシーを仲間外れにしたことからのものかね?
なんにせよ、俺にとっては可愛い女の子たちがキャッキャウフフしてるとこを眺められて、ごちそうさまでしたって気分ですよ。
「ぬ、ヌルシーちゃん……こ、ここ今度会ったときは……み、みんなでゆっくり遊ぼ……」
「そのときは、またみんなの分のお菓子をたくさん作るっすよー!」
「みんなので遊ぶかどうかはわかりませんが、お菓子については是非そうしてください」
レイニーとウィンディーの言葉に対し、ヌルシーはそんな返答をしていた。
食べ物部分には食いつき凄くいいな!
このくいしんぼうさんめ!
そんなに食い意地がはってると、いずれヌルシーはおデブちゃんになってしまうんじゃないかと心配になるよ!
「ヌルシーさん……またいつでも私のところをお尋ねになってくださいな。私、もうあなたを除け者になんてしませんから」
「き、機会があったらまた来てあげてもいいです…………」
インフィーがヌルシーの手を握る。
すると、ヌルシーは『ひっ』と軽い悲鳴を上げ、戸惑った表情で俺のほうを向いてきた。
助け舟でも出してほしそうな目ですね。
でも出しませんよ?
彼女らの間に割って入るような無粋な真似などしませんって。
「……さて、別れの挨拶も済んだことですし、そろそろ私たちも行きますわ」
ヌルシーを見かねてか、フラミーがそう言って白龍王にお辞儀した。
「では、またお会いしましょう、白龍王様」
「うむ、今度は赤龍王と一緒に来るがいい」
そうして白龍王は、俺たちのほうを向く。
「貴様たちも、気が向いたら再びこの地を訪れるといい。歓迎するぞ」
そう言う白龍王に頭を下げ、俺たちは屋敷の外へと向かって歩き出した。
こうして俺たちは白龍王の住む山を去り、『ワープ』でスタート王国へと帰国したのだった。
「……ふぅ、やっと帰ってこられたのです」
スタート王国の城下町前に『ワープ』して早々、ヌルシーがホッと息をついた。
「そんなにインフィーと一緒にいるのは疲れましたの?」
「疲れるというほどではないですが、いきなり仲良くされても、こっちとしては対応に困るのです」
なかなか難しいお年頃のようだ。
というか、ヌルシーについては、スタート王国はもう帰る場所として認識しているみたいだな。
奴隷として強制的に連れてこられた国だっていうのに、それほど嫌悪してないっぽく見える。
「さて……ワシはこれまでのことを国王様にご報告しに、王宮のほうへ戻るぞい。皆はどうする?」
「アタシはお爺ちゃんと一緒に戻るわよ」
「……私もそうする」
イーダたちはこのまま王宮に戻るようだ。
それじゃあ、俺はどうしようかな。
せっかく城下町にいるんだし、ヌルシーたちを連れてブラブラするというのもありっちゃありだけど。
でも、ヌルシーたちも旅の疲れがあるだろうし、やっぱりここはイーダたちと一緒に――。
「た、助けてくだせえ! 勇者のダンナああああああああああああぁぁぁぁ!!!!!」
「っ!?」
――突然、どこからともなく男の鳴き声が耳に届いた。
この声は……いつぞやのチンピラの声か!
あのヤロウ!
この前盛大にパフェ代ちょろまかしておいて、よくまた俺の前に姿を現せたな!
お前を町中引き回しの刑にするって決めたのは覚えてるぞ!
……と思っていたら、俺の袖口からスラ様が飛び出てきた。
「うぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
俺が振り返ると、スラ様が迫りくるチンピラに麻痺魔法『パラライズ』をぶちかます様子が目に映った。
『パラライズ』はダメージがゼロだけど、高確率で敵を動けなくさせるから結構便利な魔法なんだよな。
そういえば、スラ様にも覚えさせてたんだっけ。
って、そんなことはどうでもいいか。
「おい! アンタ! よく俺の前にツラ出せたな! 余分に渡したパフェ代返せ!」
パフェ代なんて大したものじゃないけど、なあなあにしておくのも良くはない。
というわけで、俺はチンピラにパフェ代の過払い請求をすることにした。
それさえしてくれるなら、町中引き回しの刑は勘弁してやろう。
「って……アンタ、その首輪って、もしかして……」
ふと、俺はチンピラの首に巻かれた首輪に目がいった。
それは、サイズこそ違えど、今ヌルシーが巻いているものと同じような首輪に見えた。
しかも、その首輪には鎖がついている。
これって、もしかしなくても……そういうことですかね?
「大人しくしてたと思ったら、急に逃げ出しやがって!」
俺がまじまじとその首輪を見ていると、1人の大男が近寄ってきて、チンピラの首輪についた鎖を手に持って引っ張り出した。
「いやいや、すいませんね。ウチらの商品が粗相をしていたみたいで……」
「う、うわああああああああぁぁぁ! 放せえぇぇぇ!」
チンピラがその場から逃げ出そうとしてか、体を動かそうとしている。
しかし、『パラライズ』の効果で身動きが取れなくなっているため、立ち上がることすらままならないような状態だ。
「うるせえ! 借金奴隷の分際で飼い主様の許可なく喋るな!」
「ぐへぇっ!?」
大男はチンピラを殴り飛ばし、俺たちに対してはヘコヘコと頭を下げた。
「へへへ……では貴族の皆様、今後も奴隷商会をどうぞご贔屓に……」
「…………」
……あー、つまり、あれですか。
この大男は奴隷商を営む人で、チンピラはそこの奴隷となったと、
それで、奴隷商は俺たちのことを身なりで貴族だと思い、お得意様になるかもしれないから態度が柔らかかったと。
つまりはそういうことかね。
「なんていうか……野蛮だなぁ」
俺の向く先には、気絶したチンピラを肩に担いだ奴隷商が、奴隷数人を鎖で引き連れて、どこかへ向かう姿がある。
改めてああいうのを見ると、奴隷制度はあんまりよくないもののように見える。
元からヌルシーの首輪を見るたびに思ってたことではあるんだけど。
「……ちょっと王様に相談してみようかな」
なんとなく、今見た光景が忘れられそうになかった俺は、思いつきでそんなことを考えた。
「アルト、また変なこと考えてたりしてないでしょうね?」
「別に変なことなんて考えてないよ」
「本当にそうかしら……」
っていうか、『また』ってなによ。
俺はいつも真面目なことしか考えてないよ。
失礼しちゃうなぁ。
「アルト殿、あまり無茶なことをしてはならんぞ。横暴なことをしているように見えるが、それがあの者らの仕事なのじゃからな」
「うん、わかってますって」
イーダから釘を刺された。
俺も、あんま無茶なことはしませんよ。
ただ、ちょっと国王様とお話してみるだけだからね。




