表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/64

第14話 告白する王女様

 無言の勇者一行が大臣を追及している。

 そのとき、スタート王国第一王女、アレスティア・ツァーレス・スタートが現れた。


「む……? アレスティアがか……?」

「ええ、そうです。そうすれば、父上も勇者の言を信ずるに値するものと見なしてよいでしょう?」

「ふ、ふむ……それはまあ……確かに……」


 国王はアレスティアの提案を聞き、顎髭に指を添えながら一考する。


「い、いけませぬぞ! 勇者の出した薬が、もしも毒物であったら――」

「勇者の出す物が毒であるはずもない。それに、そんなことをするメリットなど、勇者にはないではないか」

「ぐぅ……」


 大臣が騒ぐも、アレスティアは冷静に言葉で切り替えし――勇者の持つ薬を奪い取って、中身を一気に飲み干した。


「…………ふむ、味はまあまあだな。それで、もう余は嘘をつけなくなったのか?」


 アレスティアの豪快な飲みっぷりを見て、イーダとイーナが目を丸くする。


「そうじゃよ、王女殿下。薬の効能は即効性じゃ」

「でもまさか、ティアがこれを飲んじゃうなんてね……」

「駄目だったか?」

「そんなことはないけど……昔から思ってたことだけど、ティアはもうちょっと慎重に動いたほうがいいわよ?」

「肝に銘じよう」


 イーナとアレスティアは、子どものころから王宮で一緒によく遊んだ間柄であった。

 そのため、イーナはたとえ王女様相手であっても、アレスティアに口出しすることができた。


「では、今飲んだ薬の効力を確かめてみるとするか」


 国王がそう言って、アレスティアのほうを向く。


「それでは陛下、王女殿下になにか質問をしてみてくだされ」

「うむ、そうだな…………お前が最後におねしょをしたのは、いくつのときだ?」

「ちょ!? 父上!?」


 アレスティアが驚きの表情で国王を見る。


「これは薬の効能を確かめるためのものだ」

「なるべく答えづらいような質問でなければ、意味がありませんしのう」


 すると、国王とイーダは『仕方がないことだ』というよな視線でアレスティアを見る。

 なので、アレスティアも観念したとばかりに、そっと口を開いた。


「ぐ………………10のときまでです」

「ふむ……合ってるな」

「合っておりますな」

「くぅ……」


 流石に、このようなことを口にするのはアレスティアにとって羞恥の極みだった。

 しかも、今は本当のことしか喋ることができない。

 一度言葉を紡いだら、スルッと本当のことを喋っていた。


「ティアったら……そんな年までおねしょしてたのね……」

「ちょ、イーナ!?」

「あ……ご、ごめんなさい……」


 そして、アレスティアはイーナの反応にショックを受けて涙目となった。


「おねしょなど、私は5才のころには卒業してました。ラミちゃんはどうです?」

「き、奇遇ですわね! 私も同じくらいですの!」

「なんで焦ってるんです?」

「あ、焦ってませんの!」


 さらには、自分よりも一回りも小さい少女たちにすらオネショ卒業時期が負けていることを知り、アレスティアは失意のどん底に立たされた。


「おお……なんということじゃ……」

「まさか、余の質問がこれほどアレスティアを傷つけてしまうとはな……」

「そ、そんな可哀想な目で見るのはやめてください! 余は別に、傷ついてなどおります!」

「そうか……そんなに傷ついておったか……」

「ぐ、ぐぅ……」


 正直なことしか言えないアレスティアは、自分に向けられる視線に耐えきれず、逃げ出したくなった。

 しかし、ここで逃げてしまったら、なにかに負けてしまうような気がした。

 結果、彼女はその場に踏みとどまり、羞恥心で顔を赤くすることしかできなかった。



「…………俺は12のときまでおねしょしてたなぁ」



 ――そんなとき、『無言の勇者』と呼ばれるその男が呟いた。

 しかも、アレスティアより遅いおねしょ卒業を告白するという、衝撃的な内容を口にして。


「ゆ、勇者……?」


 アレスティアは驚愕した。


 なぜ、こともあろうに無言の勇者がこんな発言をするのか。

 外での件で、勇者は人を守るときのみ喋るのだと、その真意を読み取れたと思った。

 しかし、今回は理解不能であった。


「ふっ、膀胱ユルユルですね」

「そ、そうですわ! 12にもなってお、おねしょしてたとか……恥ずかしいにもほどがありますの!」

「アルト……あなた、ちゃんと夜中にトイレ行ってた?」

「!」


 だが、周りの感心がアレスティアから勇者に変わったのを見て、『もしや』と思った。


「(もしや……勇者は余が恥ずかしめられるのを見かねて、あえて自分が矢面に立った……?)」


 アレスティアの思考が、勇者の行動に正統性を見出した。

 その瞬間、また自分は助けられているのだと感じ、苦笑を顔に浮かべた。


「(ふふっ……12までおねしょをしていただなんて、下手な嘘をつく……)」


 そして、勇者は存外に不器用な男であったのだと思い、アレスティアはそこで認識を改めた。


 勇者はただ無口なだけで、喋らないというわけではない。

 けれど、人が困っているときには、どのような些細なことでも手を差し伸べようとする。

 そんな、善良過ぎるほどのお人よしなのだ、と。


「(このようなことでも救いの手を差し伸べてくれるとは……余はまた勇者に借りを作ってしまったな)」


 アレスティアは勇者に恩義を感じた。

 また、それと同時に、彼への尊敬の念をますます深くしていく。


「……ゴッホン。余が言うのもなんだが、今はおねしょをいつ卒業したかの暴露話に花開かせているときではないだろう」


 国王が咳をつき、周りの人間の注目を集めた。


「ほっほっほっ、そうでしたな。今はアレスティア王女殿下がお飲みになられた薬の効果を検証しているところじゃったわい」

「一応、ティアは嘘をついてないと思うけど……さっきの質問だけじゃ弱いかしら?」

「ふむ、では、余からもう1つ、アレスティアに問いを投げかけるとしよう」

「う……」


 父上は次にどんな質問をしてくるのか。

 そう思ったアレスティアは、冷や汗をタラリと流す。



「アレスティア……お前は、どうして余の口調を真似たり、男装を好むようになったのだ?」

「!」



 国王が問いかける。

 すると、アレスティアは目を丸くし、そして若干気まずそうに眼を伏せた。


 このことについて、国王は昔から気になっていた。

 けれど、それにはおそらくアレスティア自身の生い立ちが関係しているとわかっていた。

 そのため、直接聞いても答えをはぐらかされるだけだと思い、今まで訊かなかった。


 だが、今回は嘘をつくことができない。

 なので国王は、この機会にして、アレスティアと正面から向き合おうとした。


「そ、それは…………余はいずれ父上から王位を継承する者であるにもかかわらず、女として生まれてしまったからです……」

「なんと……」


 アレスティアは、正直に答えた。

 薬の効果で嘘をつくこともできなかったので、正直に答えるしかなかった。


 王族たるスタート家は、代々長男が王となる家系である。

 しかし、現国王のアレクセイと、今は亡き王妃の間には、2人の娘しか生まれなかった。


 それにより、男が就くべきとされたスタート王国の次期国王は、例外的に女王となるのではと巷で噂されていた。


「父上は側室も持たず、病で亡くなった母上だけを愛し続けた。そのことは、子である余にとって嬉しいことでした……ですが、それと同時に、なぜ余は男として生まれなかったのかと悩みもしました……」

「……アレスティア」


 王妃が亡くなったとき、貴族たちは国王に側室を迎え入れることを勧めた。

 けれど、国王はそれで子どもが生まれた場合、今いる娘たちと争うことになりかねないと判断し、その勧めを拒否したのである。


 そして、これは貴族だけでなく、スタート王国の国民に不満と不安を抱かせた。


「余が男として生まれていれば、父上も責められることなどなかったのにと思わずにはいられないのです……」


 アレスティアは、そこで悔し涙を瞳に浮かべる。


 自分が男であったならば、すべて丸く収まったのに。

 男として生まれていれば、国王が責められることなく、自分は次期国王として堂々と国民に顔を向けられたのに、と。


「だから……お前は男のように振る舞うようになったというわけか?」

「その通りです……」

「ふむ……そうか……」


 国王は、アレスティアを見ながら額に手を添える。

 その姿は、自分のせいで我が子につらい思いをさせてしまったという申し訳なさが表に出ていた。


「勇者よ。アレスティアに飲ませた薬をもう1本出してはくれぬか?」


 さらに国王は、勇者にそんなお願いをした。


 すると、勇者は驚いたというような表情をするものの、アイテムボックスから『ショージキポーション』を出した。


「勇者よ……感謝するぞ」


 国王は薬を勇者から貰い……それをグイッと一飲みした。


「な!? 陛下! いったいなにを――」

「……よいのだ。これで余も、アレスティアと嘘偽りなく話せるのだからな」


 イーダが驚くも、国王はそれを制し、再びアレスティアのほうを向いた。



「アレスティアよ…………余は、お前という娘が生まれたことを、これまで一度として悔いたことなどなかったぞ!」

「!」



 そして、国王はアレスティアに大声で伝えた。

 自分の思いが、彼女の心に伝わるように。


「確かに、余は跡継ぎに男子を授かることはなかった。そのことに対し、様々な者から責められもした……だが、それとこれとは関係ない。お前が余の子として生まれてきたことを、余は今でも神に感謝している!」

「ち、父上……!」


 国王は今、アレスティアと同じく、嘘がつけない。

 だからこそ、この言葉に偽りなど一切なかった。


 それが自分の身をもってよくわかっていたアレスティアは、そこで大粒の涙を流した。


「アレスティアよ……お前は王族としてこの世に生まれたが……無理に男を演じようとしなくとも良い。そのようなことをしなくとも、お前は立派な私の子なのだからな」

「ちちうえ……父上ー!」


 アレスティアが国王に抱きついた。

 すると、国王はそれを優しく受け止め、我が子の頭を優しく撫でる。


 こうして、スタート王国を統治する王族親子は、互いの間にある家族の愛を確かめ合ったのだった。


「……それで、私はこれから、どうなるのでしょう……?」


 そんな親子を尻目にして、大臣が恐る恐る声をあげた。


「貴様は牢屋で尋問じゃ!」

「あなたに飲ませたポーションの効果が本物だってこと、イヤというほど教えてあげるわ!」

「あらいざらい吐いてもらって、徹底的に裏を取らせてもらうとするかのう!」

「い、イヤだあああああああ! 私はもっと美味い酒を飲みたいし、美しい女を侍らせたいぞおおおおおおおおお!」

「ええい! 欲望が口からダダ漏れておるぞ! 観念せい!」

「ちょ、暴れないでよ! もう! クレア! ちょっと手伝いなさい!」

「……承知した」

「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」


 そうした美しい親子愛の隣で、勇者一行は子どものように両腕を振り回す大臣を穏便に取り押さえていたのだった。

次回

自爆する王女様

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ