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第12話 ペモペモは踊り食いが一番美味しい食べ方です

 俺、ヌルシー、フラミーの3人は、イーダに連れられて城の一室へと足を踏み入れた。


「あ! アルト! あなた、今までどこほっつき歩いてたのよ!」


 部屋の中にはイーナが待ち構えていた。


 彼女とは、王様との謁見以来の再会になるな。

 長く別れてたわけじゃないのに、なんか怒ってそうな雰囲気だ。


「どこほっつき歩いてって、町の中を散策してただけだけど?」

「あなた、自分が大魔王を倒した英雄だっていう自覚はあるの!?」

「全然ないよ」

「ええっ!?」


 自覚もなにも、俺が大魔王を倒したのは、あくまでゲーム内の話でですし。

 ボタンをポチポチしていただけの作業で、英雄の自覚など芽生えるはずもない。


「……それに……もしかして、町の中でもそんな調子で喋ってたんじゃないでしょうね?」

「喋ってたけど?」

「はぁ…………むしろ喋ってたら無言の勇者だと思われないと思うけど……それでも町中ではあまり喋らないようにしなさい。いいわね?」

「えー」

「えーじゃないの! 無言の勇者が突然喋り出したら、みんな驚いちゃうでしょ!」

「むぅ」


 どうやら、イーナは俺が喋ることに否定的なようだ。

 絶対喋るなって言ってるわけじゃないから、まあ、ケースバイケースで対応していこう。


 誰からも注目されてないような人ゴミの中や、知り合いや身内だけが集まるようなところでは喋るのオーケー。

 それ以外のところ、特に注目を浴びそうなところとかでは極力喋らない。


 例外ができそうなカンジはするけど、だいたいこんな感じでいくかな。

 絶対に守んなきゃいけないことってわけでもないし、気楽に考えよう。


「ほっほっほっ、まあよいではないか、イーナよ」

「おじいちゃん!」

「そうやって尻に敷こうとすると、アルト殿に逃げられてしまうぞい」

「わ、私は別に、アルトを尻に敷こうだなんて……」

「それに、勇者どのは記憶が定かでない。あまり責めるでないぞ」

「う……そういえばそうだったわね……」


 あー。

 俺って今、記憶喪失ってことになってるんだったね。

 いずれ、どっかのタイミングで、記憶が徐々に蘇りつつあるくらいのことは言っておこうか。

 あんまり心配させ過ぎちゃうのも気が引けちゃうし。


「とりあえず、今は食事を取ることを優先したいのう」


 イーダはそう言って、部屋の奥にあるテーブルに視線を向ける。

 そこには、俺もテレビでしか見たことがないような食事がセッティングされていた。


「……待っていたぞ、勇者」


 席の1つにはクレアが座っている。

 テーブルの上には5人分の食事が並べられていることから、あれはおそらく、俺、ヌルシー、イーナ、イーダ、クレアのために用意された物なのだろう。


「うーん……5人かぁ」


 当たり前ではあるが、フラミーの分の食事はなかった。

 どうしようか。

 1人だけ除け者にするというのも可哀想だし……。


「先ほど通りすがった城の者に、もう1人分の食事も手配させたから、もうしばらくしたら6人分になるぞい」

「あ、6人分手配してもらえたの?」

「もちろんじゃよ。フラミー殿はわしらの客人じゃからのう」

「おお! 太っ腹だねぇ!」


 ちゃんとフラミーの分も用意できるなんて。

 流石は大賢者様だ!

 気配りのできる大賢者様ってステキ!


「……にしても、凄い料理だなぁ」


 安心した俺は、テーブルの上に視線を戻す。


 湯気が立ち上のぼる黄金色のスープ。

 柔らかそうな白いパン。

 ドドンと大皿に置かれている、こんがり焼かれた肉の塊。

 豪華そうなお皿に美しく盛りつけられた野菜サラダ。


 これ、1食でいったいどれくらいのお値段なんですかね。

 日本でこんな料理を頼んだら、諭吉さんが数枚飛んでいっちゃいそうだ。


 というか、フルーツパフェのときも思ったけど、なんか日本とかでも見かけるような食事が結構あるな。

 『サーチ』とかしたら、名前くらいはわかるんだろうか。


 そう思った俺は、近くにあった長いパンに『サーチ』をしてみる。



 『フランスパン』



「フランスパンやんけ!?」

「あ、アルト殿!?」


 ハッ……。

 いきなり異世界らしからぬワードを見かけたせいで、ついツッコミを入れてしまった。


 でも、フランスパンってなんだよ。

 見たカンジ、それっぽいなぁとは思ってたけどさ……。

 この世界にもフランスとかあるの?


「あのー……これってフランスパンで合ってます?」

「そうじゃが?」

「じゃあ、フランスとかってどこかにあるんですかね?」

「? お主はなにを訊きたいのか、よくわからんのじゃが……」

「フランスパンはフランスパンよね?」

「……だな」


 ええー。

 どーゆーことよー。

 全然意味がわからん。


 もういいや。

 フランスパンはフランスパンでいいじゃない。

 それ以上でも以下でもない。


「…………ん?」


 と、そこで俺は、テーブル上の食事の中に見慣れないものがあることに気づいた。


 これ、なんだろ。

 『サーチ』。



 『????』



 なるほど。

 全然わからん。


「なにこれ」

「それは『ペモペモ』じゃな」

「あなた、ペモペモも知らないの? ……いや、覚えてないのほうが正しいのかしら?」


 ペモペモってなんだよ!?

 全然意味わかんないよ!?


「……あ、あれ?」


 と思いながら謎の物体に目を向け直すと、さっきとは別の表示が俺の網膜上に現れた。



 『ペモペモ』



 …………これ、もしかして、俺が認識できるように『サーチ』の結果が変わったってこと?

 さっきは『????』だったのに、今は『ペモペモ』になっているということは、そうとしか考えられない。


 今まで特に意識してなかったけど、多分、ヌルシーたちは日本語を話してないんだろう。

 でも、俺には勇者的な力のおかげで、彼女たちの言っていることが自動翻訳されて聞こえている……てとこか。

 それで、どうしても俺の知ってる言語で表せない物については『????』となる……と。


 『フランスパン』のことといい、この状況を無理矢理解釈するとしたら、こういう理由が俺にとって一番納得できる。


「にしても……ペモペモってなんだよ……」


 理由はどうあれ。

 目の前のペモペモなる料理は……はたして料理と言えるのだろうか……。


 なんか、ウネウネしてる……。

 形容しがたい物体が、皿の上で怪しげにクネクネしてる……。

 これ、生き物かなにかですか……?


「どうやら、アルト殿はペモペモに興味津々であるようじゃな」

「そんなに食べたいなら、私の分をあげてもいいわよ?」

「……私のも、やろう」

「いえ、いりません」


 俺はイーナたちの提案を丁重に断った。

 変な物を押しつけないでください。


「なら、私がもらってもいいです?」

「ペモペモなら私も欲しいですの!」

「ほっほっほっ。お主らも、まだまだ子どもじゃのう」


 ペモペモ子どもに大人気!?


「しょうがないわね。でも、よく噛んで食べるのよ?」 

「……丸飲みは命に関わるからな」


 食事するのも命がけ!?


 く……みんなに全然ついていけない……。

 これは俺が悪いのか……?

 なあ、なんとか言ってくれよ、ペモペモさんよぉ……。


 他の食事はマトモなのに、なんでこいつだけ――。


「…………ん?」

「どうかしたかの、アルト殿」

「いや……これなんだけど……」

「?」


 俺はフランスパンやペモペモと同様に、黄金色のスープに『サーチ』をかけていた。

 すると、そこで目を疑うような結果が網膜に映し出され、驚いた。



「このスープ……『毒』が入ってる……」

「なんと!? 毒じゃと!?」



 イーダがビックリとした表情で、スープに視線を注ぐ。


「…………うむ、確かに。よく見ると、なにかがスープに混ざっているようじゃ」

「お、おじいちゃん……」

「……なぜ毒が」


 イーナやクレアも困惑している様子だ。


 スープに毒を仕込むのがこの世界の常識……ってわけじゃあなさそうだな。

 どうやら、5人分のスープのすべてに毒が入ってるみたいだが、これはイーダたちにとっても予想外のことだったようだ。


「……皆様。どうかなさいましたか?」


 そのタイミングで、1人分の食事を持ったメイドさんたちが部屋に入ってきた。


「う、うむ……それがのう……」


 俺たちを代表して、イーダがメイドさんたちに、毒の件を伝えた。


「えぇ!? スープに毒が!?」

「そ、そんな……」

「いったい誰がそのようなことを……」


 メイドさんたちも動揺している。

 料理に毒を仕込みやすい人物といえば、それは配膳を行ったメイドさんたちか、料理を使った人たちといったところだろう。


 誰が犯人であるにせよ城内でこんな不祥事があったなれば、とんでもない事態に発展しかねない。


「……しょうがないなぁ。面倒だけど、犯人を特定しようか」


 せっかくの食事が冷めてしまうけど、しょうがない。

 俺は、自分たちに毒を盛ろうとした犯人を突き止めるため、アイテムボックスから1本の瓶を取り出す。



 ――1時間後、犯人はあっさり判明した。

次回

VS○○

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