一 [6/15]
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ソラの家は、通りの中ほど、広場の隣にある。精霊による飛行が多い外守頭の特権だ。
他の家同様、石造りで窓は大きい。家の中で靴を脱ぐ習慣がないので、玄関と言う玄関はなく、戸をくぐるとすぐに大きなテーブルのある居間になっている。
とてもよく片付いていて、青麗の屋敷ほどではないが、部屋の端に置かれた棚には歴史書などの書物や占いに使う道具が置かれていた。
「さて、と。もう夕方ですけど、どうします? お風呂の準備をしましょうか? それとも夕食を作りましょうか?」
ソラが身に纏った布の下からボウガンと矢筒、ボウガンをぶら下げておくためのベルトを外してテーブルに置きながら尋ねた。
「仲のいい夫婦の妻みたいじゃな」と両腕の篭手を外しながら与羽がからかい、
「あなたが望むなら、外守を辞めて専業主夫になってもいいですよ」とソラも冗談で返した。
「それで、どうしますか? どちらでもいいのなら、両方同時にしますが」
「両方同時にできるんなら、最初っから聞かずにそうすりゃええじゃん」
与羽は半ば呆れ調子にそう言った。
「分かりました」
ソラは与羽の反応を意に介さず、マイペースだ。
「白銀、お風呂の準備をお願いします。わたしは夕食の準備をしましょう。与羽は夢見の布をさがしてください」
「また、夢見のひらひら布装束ぅ~?」
与羽は不満を隠さない。布を体に巻く夢見の衣装は動きにくいのだ。
「語り部にとって、この布は様々な気候下での体温調節を助ける、優れた伝統衣装です。他の夢見の前では、あまり悪く言ってはいけませんよ。それに、たとえ部外者と言えど、協力者のあなたにはそれなりに夢見らしくしていただかなくてはなりません。
物置にあなた用の黒い布がありますから、せめて万年の夢を歩く時だけでも身に付けてください」
「だってさ、雷乱。取ってきて」
与羽はまだ不機嫌そうだったが、ソラの言う事が正しいので、雷乱にそう命じた。
「仕方ねぇな」
しぶしぶだったが、雷乱は従って、物置へ入っていった。
夢見の布の色は指定されている。
完全に年功序列の民族で、百年生きていない駆け出しが黒、三百年以内の若者が青、五百年以内の中堅が緑、千年以内の人が黄、それ以上が白だ。白い布を身につけている人は非常に少ない。
万年の夢にいる人は、ほとんどが何か優れた能力を持っている緑以上の年長者なのだが、それでも白い布を身につけた人はまれだ。
全ての語り部を合わせれば、黒と青が圧倒的に多い。
ソラのまとう黄色の布は、彼が十分尊敬に足る人物である事を示している。