一 [4/15]
* * *
「アリサ女王でしたか。この辺りではマイナーな人物ですね」
青麗の屋敷からの帰り際、ソラは与羽にそう話を振った。
後ろを人の姿になった精霊の雷乱と白銀がついて歩く。
「うちの地元では歴史で絶対に習う有名人じゃ」
与羽はそれだけしか言わなかった。青麗に見事に言い負かされて、機嫌は最悪だ。
「というか、緊急事態のクセに青麗もあんたも夢見の人たちものんびりしすぎ。夢見が落ちたら世界が終わりかねんのんで?」
「そう簡単にはやられません。今まで何度となく夢見や万年の夢が狙われてきましたが、いつも危なげなく解決できました。絶対的な先読みの力と、おびただしい数の協力者、外守の努力がありますから」
「優秀な外守頭がおるもんな? 夢見最強」
「そうですね」
三百年ほど万年の夢守護のトップを務めている外守頭――ソラはしれっとうなずいた。
「…………。少しくらい否定するなり照れるなりしろよ……」
与羽がため息交じりに言う。
「事実を否定することはできませんから。しかし、あなたにそう言ってもらえるとうれしいですよ」
ソラは唯一見えている口元に柔らかな笑みを浮かべた。
「……食えん奴じゃな、あんた」
「食べちゃってくれてもいいですよ」
ソラはすっと自分の腕を差し出す。
「『噛み付いてください』ってか? 変態かあんたは」
「変人に言われたくありません」
冷静に言い返すソラの後ろでは、銀髪の青年の姿をした白銀がくっくっと笑いを押し殺している。
「まだ変人の方がマシじゃし。それに、あんたも十分変人じゃ。目ぇ隠して、ボウガン忍ばせて――。ソラも本名じゃなぁじゃろ?」
「ええ、本名はリクと言います」
「ああ、陸がやじゃったけぇ、空ね。私は創世記に出てくる銀空コンビを真似とんかと思った~。――ふざけんのも大概にしろよ?」
「わたしはいつでもまじめですし、陽藍コンビに言われたくありませんね」
与羽のノリツッコミにも、ちゃんと返す。
「銀空コンビ」は神話に出てくるとても仲の良い人間と精霊をいつのころからか、そう呼ぶようになったものだ。「陽藍コンビ」も羽音姫「陽」と羽音翼「藍」。二人で一柱の最高神――羽音神に由来する。