三 [6/11]
「与羽!」
白銀がソラを殴りつけながら叫ぶ。
「ソラは任せろ。術者を頼む」
与羽は頷いた。まだ握り締めているお守りに祈る。
――守護の神、私をお守りください。
そして、創世記ではしばしば仲の悪い神として書かれている力の神にも祈る。
普通仲の悪い神々に同時に祈りをささげるのは好ましくないこととされるが、与羽には守護の神と力の神が本当に仲が悪いとは思えなかった。
――力の神、守護の神に負けないくらい私に力を分けてください。
与羽は術者を捜して駆けた。手の中には澪しかない。
「孤狐! 朝顔! 礼行!」
与羽が走りながら叫ぶと、三つの小さな精霊が与羽のそばに現れた。戦闘には向かないが、遠く離れた人に言付けをするのなどを手伝ってもらうために使役している。
この世界には、よほど発展した所でなければ、郵便局さえない。
「流王を捜してとってきて。急ぐけど、安全に。気をつけて」
「なんで俺が――」
一番大きな体を持つ四本の狐尾をもつ精霊だけ不満そうな声を漏らしたが、ほかの二人に「そう言わずに――」「行こうよ、孤狐」と諭されて、現れたのと同様消えた。
それと入れ違いに矢が肩を掠める。
振り返っても何も見えない。与羽は夜目が利かないのだ。
天力の光は見えるが、天力を目視しにくくする呪文もある。ソラならそれが扱えても不思議はない。
神経質に後ろを振り返りながら走る与羽の腕をかすめて矢が飛ぶ。
流れ矢ではなさそうだ。確実に追いかけられている。
「……っ、蒼竜! 澪に憑け」
「御意」
声だけがして、澪がするりと与羽の手を抜けた。
みるみる水をまとい、龍の姿になる。頭と尾は与羽の髪と同じように青くきらめく黒い石に覆われ、胴は水でできている。平たい尾は与羽の水の剣並みに鋭い。
蒼竜はソラの足止めをするため、後ろに飛んでゆく。
与羽は走った。嫌な、冷たい天力の元へと。
そして、やっと人影が見えた。
平均的な身長に細身の青年。ひとつに束ねられた闇色の髪は、ひざ裏に届きそうなほど長い。
「やぁ」
彼は冷たい翡翠色の目を笑みの形に細めた。




