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#511 世界樹


 

 「…ふ~む。トランス状態で婿殿は3人の出産を知ったと言うのか。ましてミーアが双子である事まで分ったとなると、夢とばかりには言えぬようじゃな。」

 「お婆ちゃん。それって、赤ちゃんは神様が授けてくれるって事?」


 「そうなるのう…。婿殿は科学的に説明が付くと言っておったが、それだけでは無いのかもしれんのう。」

 「サーシャは、息子を神様から受取ったのを覚えていると言っていたぞ。ミーアもその体験をしたら直ぐに生まれたと言っておった。…ところで、4つの神の内どの神から赤子を授かっ他のじゃろう?」


 テーブルの3人が俺の顔を見た。ディーまで見ているぞ。

 

 「それが良く分からなかったんです。何となく姉貴に似ているような気がしました。そして、姉貴の腕がベッドから落ちた音で目が覚めたんです。」

 「そして、ミズキは冬眠状態から通常の眠りに移行したのじゃな。案外直ぐに目が覚めるやもしれぬのう。我にはミズキが赤子を神の国から運んで来たとも思えるぞ。それを目撃したのが婿殿ならばなおの事じゃ。」


 「全く、ミズキらしいといえばそれまでじゃ。赤子を運ぶ手伝い等せずに、直ぐに帰ってくればよいものを…。」

 

 アルトさんの言葉にリムちゃんも頷いている。

 そんな2人を見てアテーナイ様は微笑んでいた。


 「たぶん、ミーアが難産だったのを見かねて運んできたのじゃろう。サーシャとミケランはついでじゃな。」

 

 何処から運ぶのかは分らないけど、確かに近くではありそうだ。でも、コウノトリじゃあるまいし、ましてついでは酷いんじゃないか?


 「誕生日が同じなら一緒に祝ってやれるな。それも何かと都合が良いのう。」

 「アルト姉様。早速、お祝いを考えませんと。」


 「うむ。確かにそうじゃ。」

 

 2人は早速テーブルの角で密談を始めた。直ぐじゃなくても良いと思うんだけどね。

 ディーが、そんな2人のカップにお茶を注ぐと、俺達のカップにも注いでくれた。

 軽くディーに頭を下げて礼をいう。

 

 「春先にはエントラムズで王子の披露があるじゃろう。連合王国の王政はしばらくは続く。先ずはめでたい事じゃ。」

 「それまでに姉貴が帰ってくれば良いのですが。」


 「なぁに、もう直ぐじゃよ。昨日に帰らなかったという事は、もう一つ何かを託されてきたのかも知れんのう。」

 「何を託されたのでしょうか?」

 「それを詮索するのは僭越というものじゃよ。我等には理解出来ぬ事やもしれぬ。」


 アテーナイ様は余り気にも留めない様子だ。

 自分たちの領分を越える事象には干渉する事も出来ない。それを理解しているのだろうか?

 最もあまり係わらない方が良いだろう。


 「ところで、あの2人も帰ってくるのじゃな?」

 「哲也達なら、帰ってきますよ。何せ、13万M(約2万km)は離れていたんですから、そう簡単には帰れないでしょう。それでも、イオンクラフトを越える乗り物を使うと言っていましたから、案外早く帰ってくるかも知れません。」


 「本来なら褒美を取らす事になるのじゃが、今回は何も出せぬ。…済まぬな。」

 「良いですよ。これ以上何もいりません。」

 断わったけど、それでもアテーナイ様は申し訳無さそうな顔をしている。


 バタン!っと客間で音がした。直ぐにアルトさんとリムちゃんが飛んで行く。

 やがて、ガッカリしたような顔をして客間から出て来た。


 「まったく、ミズキの寝相の悪さはの右に出るものはいないぞ。布団を全部蹴飛ばしていた。」

 「ちゃんと元通りに掛けてきましたから大丈夫です。」

 

 「ありがとう。まぁ、1つ位欠点はあるよ。あれは我慢するしかないね。」

 「婿殿は苦労が絶えんのう。」


 そう言って面白そうにアテーナイ様が笑い声を上げる。

 俺の性格なのだろうか? 確かに苦労が絶えないぞ。


 「それ程、気に病む事もない。それだけ皆に慕われているという事じゃ。」

 「そうでしょうか? いらぬお節介をしているように思うときもあるんですが。」


 「まぁ、お節介と重いながらも手を出すのが婿殿のさがであろうな。今更治るものでなし、誰にも迷惑を掛けねばそれで良いではないか。」


 俺の苦労性は治せないって事なのかな?

 まだ先が長いんだから少しずつ性格を変える努力をしてみるか。


 「しかし、これで数年もすれば此処も賑やかになるのう。セリウスの所が3人。スロットの所も直ぐに次が生まれるじゃろう。ユリシーもあの歳で子供を儲けるやも知れぬ。そして、サーシャやミーアが子供を連れてくれば、賑やかよのう。」

 「確かに賑やかになるが、そう度々はこれまい。10歳位で此処に預けてくれるなら楽しいのじゃがな。」


 それは賑やかに違いない。その中に身を置く自信が無いぞ。

 きっとアルトさんも一緒になって騒ぐに違いない。まぁそれは微笑ましい光景なのだろうが、俺には辛いものなりそうだ。

               ・

               ・


 ディーの作った夕食を食べた後は、アルトさん達は無線機に掛かりっきりだ。どうやらサーシャちゃんはベッドの傍に無線機を置いておいたようだ。

 産後に障りがないんだろうか。無線機で楽しそうにお喋りしているぞ。


 寝る前に庭に出て冷えた空気の元、タバコを取り出す。

 ゆっくりとタバコを吸いながら眺めるアクトラス山脈は、昼間とは違って幽玄な姿を俺に見せてくれる。


 庭の隅にあるタトルーンは直径6m程の大きさだけど、あれで数人が中にいるんだから驚きだよな。ジッと姉貴の危機を待っているのだろうか。たぶん何かの装置で心象世界で鍛錬を繰り返しているのだろう。

 彼らに世話にならないように、俺達で何とかしたいものだ。そのためにも姉貴には早く帰ってきてもらいたい。


 家に入ろうとして、自分の影に気が付いた。

 今夜は月はない筈だ。そう思いながら後を振り返ると、上空から大きな光球が下りてくる。


 帰って来たのか!

 そう思って大声で姉貴の名前を呼ぶ。

 光球は更に大きくなり……俺を飲み込んだ。


 ここは?

 俺の心象世界のようだ。リオン湖に望む庭の片隅にあるテーブルのベンチに俺は座っていた。

 そして、俺の直ぐ隣に、直径2m程の光球が様々な色を辺りに放射している。

 

 『お前が我が娘の伴侶か?』

 

 鋭い切り込むような思念が俺に向かってきた。

 

 「ミズキ姉の弟だ!」

 『ふむ……まだ未熟な知性体ではあるが、思いは純粋か…。我等は世界の外にある身。本来ならば直接干渉は出来ねど、むざむざこの世界全体を破壊するに偲びず。娘に破壊を示唆してこの星の遥か昔に娘の思念体を送り込んだが、どうにか、危機を回避したようだ。

 我等の元に返れば皆がその働きに喝采しようが、娘はお前といる事を望んでいる。

 我等が頚木を外し、お前の元に送ろう。そして、我は妻共々、この地でお前達を見守る事にした。』


 光球が脈を打つと、1つの光球を弾き出す。その光球は俺に近付くと優しい光を俺に向ける。

 姉さんだ。間違いない。

 その光球はスイーっと尾を引くように家に入っていく。

 

 大きな光球は段々と明暗を繰り返し、そして形も不定形になっていく。

 突然一際眩しい光を発したかと思うと、その姿を消していた。


 いや、消したのではない。さっきまで光球のあった場所に見慣れない植物が庭に敷かれた石を突き破って立っている。

 広葉樹のようだが、見た事もない木だな。幹は20cm程で樹幹は4m程伸びている。


 家の扉が開いて、姉貴が顔を出した。

 とことこと俺の所に歩いてくる。雪があるから転ばなければ良いんだけど。


 「お帰り!」

 「ただいま。ちゃんと帰って来たでしょ。」

 「あぁ、絶対帰ってくると思ってたからね。」


 姉貴がコイツ! って感じに俺の額を指で押す。

 やはり姉貴がいないとな。アルトさんやリムちゃん。それにディーもいてくれるけど、姉貴がいないとしっくりこない。


 「ミーアちゃんに双子が生まれたよ。」

 「うん。その場に私もいたのよ。辛いのに頑張ったわ。後で褒めてあげなくちゃ。」


 「そして、サーシャちゃんと、ミケランさんのところも同じ日に生まれたよ。」

 「同じ誕生日なら、忘れなくて良いよね。」


 姉貴らしい答えが帰って来た。

 そして、不思議な木を姉貴に聞いてみた。


 「私のお父さんとお母さんよ。この姿で私を見守るんですって。」

 「姉貴は植物なの?」

 「ちょっと違うわ。たぶんアキトに近いとは思うんだけどね。」

 

 たぶん曖昧な生物なんだろうな。最も生物と言えるかどうかも怪しい限りだ。本質は気の集合体に宿った意識のようなものだと思う。姉貴を構成しているのは姉貴の意思によって作られた肉体となるのだろう。

 道理で、遺伝子チェックでエラーが発生する筈だ。

 学校の検査は上手く誤魔化していたのかな。


 ベンチを立って姉貴をっ抱き寄せようと腕を伸ばす。

 あれ?

 腕が姉貴を通り抜けたぞ。

 そして、姉貴が段々と風景の中に溶け込んでいく。


 「帰って来たようじゃな。」

 俺の前に何時の間にか長老が座っていた。


 「はい。何処に行っていたのかは判りませんが帰ってきました。」

 「お主が薄々気付いている場所じゃ。何処でもないどこかと言うところじゃのう。」


 そう言ってホッホッホ…と笑っている。


 「それよりもこの木です。余りにも活性が高いと思うのですが?」

 「まるで、エーテルの噴出孔じゃな。」

 

 「危険性は無いんでしょうか?」

 「全くないのう。むしろ、この付近で生命活動が活発になるじゃろう。それ程の噴出量じゃよ。我等の伝承にある世界樹のようじゃな。この宇宙に流れるエーテルの元となる存在それを我等は世界樹と呼んでおる。」


 「気は生命エネルギーにより生じるものだと思っていました。」

 「も少し詳しく言えば、思念エネルギーと言えるじゃろう。生体なら当然持っておる植物は希薄じゃがのう。恒星のフレアで遊ぶ思念体もいるのじゃ。その周辺にはやはりエーテルが渦を巻いておる。

 この木も、この惑星には無いものじゃが周囲の生態系を活発にする事はあれ、害にはならぬ。それにしても、超越した生命体はその姿をどのようにも変える事が出来るのじゃろうか。それとも、この立木に見える姿もかりそめの姿なのであろうか。」


 長老の言葉は、最後は呟きに変わって聞き取り辛いものだった。

 そして、小さくなる言葉と共に長老の姿も景色に溶け込んでいく。


 段々と周囲の明るさが失われ、何時の間にか星明りの下で1人たたずんでいる。

 心象風景の中の出来事だったのか?


 ふと後を振り返る。

 そこには、しっかりと世界樹が根を下ろしていた。

 という事は、姉貴がもう直ぐ起きるってことだよな。俺は庭を後に家に戻る事にした。



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