#502 何処の王国も似たようなもの
姉貴達との通信は問題なく出来たけど、相手はリムちゃんだな。几帳面な電鍵の叩き方は通信兵も見習って欲しいものだ。ともすればミクやミトのように会話速度で叩こうとするが、通信は確実にが大事であって、速さはその後だぞ。
俺が、通信機を片付けて用意された席に戻っても、まだ激論が続いていた。
どうやら、王女に対する王国の仕打ちをどうはねつけるかに話題がすり替わってるな。日頃の鬱憤が先程の王女の決定で触発されたようにも見える。
「ええい、騒ぐな。客人がおるのだ。ネーデルの兵士がその陽に騒ぐものではない!」
老将軍の一喝で、少しは静かになった。ぼそぼそと呟く声も労将軍の一睨みで、静まり返る。
「そなた達の言い分も分かる心算じゃが、それはこの砦内だけにしておけ。王都では酒場にも内偵がいるぞ。」
「ですが、この場で炸裂に巻き込まれて死を迎えるよりは遥かにマシです。」
「これが半年前に分かっておればそれなりの手は打てたであろう。今は食料さえ乏しい状態じゃ。次の補給も精々が一月分、これでは兵糧としては不十分じゃ。」
兵も中途半端、そして資材も砦の維持に必要な最低限という事か。生かさず、殺さず万が一の時には時間稼ぎを期待する。ある意味飼い殺しに近いな。
状況的には理解出来るところもあるが、余り口を挟むのも問題だろうが、少し助けてやろうか…。
「よろしいですか。この砦に立て篭もると言うのであれば、頑丈な砦ですから2、3の注意で被害を少なく出来るでしょう。
先ずは、当日は塀や楼門に監視兵を配置しないこと。
そして、兵舎を補強して全員が兵舎内にいる事です。勿論、周辺の監視所や集落の人々もこの砦に避難させてください。」
「誰も外に出るな。という事か? その間に蛮族や異形の者共が侵出してきたらどうする気だ。」
「少なくとも北からの脅威はないでしょう。東西の脅威はあるのでしょうか?俺は東から来ましたがそのような軍勢を見掛けませんでした。南のダリル山脈に姉貴達が待機していますが、そのような軍勢の話は先程の連絡では受けていません。」
「周囲には敵はいないという事か? だが、お主の姉者はダリル山脈に伏兵と共におるではないか。何千を要しているのじゃ。」
「4人ですよ。俺のチームの残りです。チームの名はヨイマチ、俺を含めて7人の仲間ですが、2人程伴侶を迎えてチームから離れています。」
「その名は、聞き及んでおる。20倍の敵軍を退ける智将と剣姫、月姫そして爆弾姫と幼き姫。更に不思議な剣の技を使う妖精族を共にするとな。確か、月姫と爆弾姫は婿を迎えたとか…。ならば残りは4人じゃのう。
虹色真珠も偽物とは思えぬ。ならばその者のいう言葉は真実。レムナス、アキト殿の言う事しかと対処するがよい。」
「さすれば、第1、第2隊は周辺の監視所と集落に触れを出せ。来月14日までに荷を纏めて砦に来たれとな。家畜は砦の南方100M(15km)まで下がらせよ。これは第3隊に任せる。残りの隊は砦の修復じゃ。特に北を入念にせよ。兵舎も屋根等飛ばされぬように丸太を組んでおけ。以上だ。」
流れるように老将軍が士官達に指示を出す。
次々と士官達は王女様に頭を下げると部屋を出て行った。残ったのは王女様に老将軍、それに2人に付く副官が数人だ。
副官が俺達のカップにお茶を注いで回る。
「面倒な話はここまでじゃ。のんびりとするがよい。そして今夜は砦に泊り明日に発つが良かろう。」
そう言って、金のパイプを取出してタバコを詰めている。
ここは禁煙じゃ無さそうだ。俺もケースからタバコを取り出して火を点けた。
「歪みの破壊は我らには都合の良い事。だが何千年にも渡って、その存在があればこその物があろう。全て良しという訳ではあるまい。何を隠しておる?」
「慧眼恐れ入ります。問題がない訳ではありません。歪みにより放出される魔気の量は莫大な量です。たぶんこの世界に満ちている魔気が希薄になるでしょう。上位魔法は長い間にはなくなる可能性があります。」
「直ぐにか?」
「使えなくなるまでに10代以上の世代が交代すると考えています。」
「ふむ。となれば差し迫っての問題は無い訳じゃな。」
「ですが、それですと瀕死の重傷者を将来は救えなくなる可能性がありますぞ。」
それだけは何とかしたいが、全てを満足させる解決策は無い。
「何とか、それに変わる技術を開発すべくモスレム王国は周辺諸国と共同で領民の教育を始めました。直ぐには形にはなりませんが200年も過ぎれば実を結ぶでしょう。」
「長く掛かりそうじゃな。お主、エルフの血を引くのか?」
「いいえ。元々の性格がのんびりしているだけです。…ところで、お訊ねしにくい話ではありますが、王女様は左遷されているのですか?」
「ある意味、左遷じゃな。昔は重要な砦であった。ノーランドとの戦や北の異形の者共の侵入を何度もこの砦で食い止めたのじゃが、今ではそのような事も余りない。
国の施政には我は不要のようじゃ。
何時果てるともない、スパリアム王国との戦い。…少なくとも500年は続いておる。その原因が何であったかなど、今は誰も知らぬ。
その戦で太る者もいるが、農村から徴用した若者は再び故郷を見る者は稀じゃ。
たぶん、こうしている間にも死ぬ兵士がおるのじゃろう。それを考えるとな…。」
理由も分からずに戦っているというのは愚かな限りだ。
その戦を利用して懐を肥やす者が、戦の指揮をしていたのでは堪らないな。収入源として戦を継続しているとなれば、ある意味施政への反逆じゃないのか?
それを糾弾して左遷では、この国は先が無さそうだ。
「腐敗貴族による国政ですか。」
「まぁ、そんなところじゃ。それに腐敗軍人が雑じる。」
「しかし、モスレムもそれ程の違いがあるとは思えぬ。若い時分に諸国を廻ったが、何処の王国も上に立つべき貴族ほど腐っておったぞ。」
「国が古くなるほど弊害は出てきます。それは、何処も同じでしょう。ですが、モスレムと周辺諸国はかなりの貴族を粛清しましたよ。上級貴族は殆ど残っていないでしょう。エントラム等は貴族を1代限りとしたほどです。」
俺の言葉に部屋に残った者達が一斉に俺を見た。相当驚いたようだな。
「どのように貴族を追い払ったのじゃ。国に巣食う者共を追い払うにはそれなりの覚悟がいるぞ。悪ではあるが国を動かしているのも確かなのじゃ。」
「結局、追い払っても大差は無かったようです。期待したほどにも仕事をしていなかったという事でしょうね。
追い払う手は各国様々でしたが、腐敗した勢力は一掃されました。今では互いの王国が手を結び大きな事業を展開しています。」
「代わりは幾らでもいるという事か、一つに固着すれば何れは害になるという事じゃろう。しかし、軍が一緒になるとそう簡単に追い出す事も出来ぬ。」
「かといって、このまま此処におれば何れは滅ぼされますぞ。」
「貴方達は此処で戦った相手は?」
「一度、ノーランドの部隊と戦った事があるだけじゃ。その軍勢は獣であったが、それを率いていたのは小人族と4本腕の獣使いじゃ。」
ノーランドだけであれば、落ち行く先はある。
「もしも、ネーデル王国と一戦交える事になればどうします?」
「砦を枕に最後まで戦う事になろう。この北は異形の種族が暮す場所。そして東はノーランドで西は海じゃ。」
「エルフ族を知っていますか? そして彼らの故郷を。」
「いいや。エルフの里は隠れ里。北にあるとは聞くがどこかは誰も知らぬ。」
俺は女王に筆記用具を借りた。
従兵が持ってきた紙にサラサラと地図と文章を書き込む。
「敗れると判断したならば、此処に向かいなさい。エルフの隠れ里ならば2千人を優に養えるでしょう。ですが相手が拒めばそれでお終いです。その隠れ里は簡単に入る事は出来ません。たとえ万単位の兵を向かわせようともです。」
「賭けなら、少しはマシな方に賭けろと言うのじゃな。それも一興じゃな。」
俺の手から、折畳んだ紙片を受取りながら言った。
「もし、受け容れてくれたなら、新たな国も作れるでしょう。同じ、ユグドラシルの血を引く者、断わる可能性は低いと思います。」
たぶん、時刻の軍とは戦わないんじゃないかな。戦うとすれば世代が交代した後だろう。何といっても自分達の故郷だ。
夕食を共にしながらも、話は尽きる事は無い。王女は他国の話を聞きたがったし、老将軍はテーバイ戦そしてスマトル戦の顛末が気になったようだ。
御用商人達は直接交易をしていないようだが、それでも噂話は此処まで届いていたようだ。
次の日の朝早く、俺は南門を出る。
王女と老将軍が門を出て俺を見送ってくれた。
たぶん、年明けの食料を届けに来た部隊は、もぬけの砦を目撃する事になるだろう。
それはそれで面白い事が起こりそうだ。
昼を過ぎても歩き続けて、小さな茂みを見つけた。
薪取りをして、焚火を作ると、お茶を飲みながら、無線機で姉貴達に連絡を取る。
1時間も掛からずにディーがイオンクラフトを飛ばしてくる。今夜は此処で野宿だな。
「ご苦労さまです。皆が心配していましたよ。」
「後で顛末を知らせとくよ。向うはどう?」
「バックギャモンでミズキ様が負け越してます。」
姉貴はサイコロ遊びは苦手だったからな。まぁ、アルトさんが退屈してなければそれで良い。
ディーが運んでくれた夕食を食べて、操縦席に毛布をかぶって横になる。
これで、当日まで何も無い事を祈るだけだな。
哲也の方が気になるが、何も連絡が来ないところを見ると順調のようだ。
もうすぐ10月も終る。狩猟期はどんな具合かな。新たな虹色真珠の保持者ルクセム君の話題で持ちきりだろう。アンドレイさんも吃驚するに違いない。
そんなアンドレイさんの驚く姿を想像している内に眠ってしまったようだ。
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「…という事で、とりあえずは納得してくれた。」
「まぁ、全て良しとは行くまいが、砦に引きこもるなら問題は無いじゃろう。」
「監視部隊や集落の人達も砦に入れば、バビロンの計算では被爆する恐れもないようよ。フォールアウトの可能性もあるけど、この季節の北風は強いという事だから拡散してしまうわ。」
次の日の早朝、ダリル山脈のアジトに引き上げてきた俺達は、焚火でリムちゃんの入れてくれたお茶を飲みながら砦での顛末を報告する。
「問題は、王女達とネーデル王国の貴族そして将軍達との確執だな。下手をすると内戦だ。エルフの隠れ里を教えてきたよ。内戦よりはエルフの里で暮らす方が遥かにマシだ。」
「どの王国も同じじゃな。軍が関わっていないだけ連合王国はマシじゃったか。」
「でも、それは問題の先送りよ。何れ内戦になるでしょうね。」
姉貴には分ったようだな。
たぶんエルフの協力を得て数年後には内戦に向かうと考えたのだろう。
俺にはそんなに早くは起きないと思いたいが、こんな時の姉貴の勘は良く当たるからな。
「ユング達からメールがあったわ。順調に前進してるそうよ。でもね、油断をするなと連絡しておいたわ。たぶん、1分前までは作戦を変更出来るわ。それが過ぎたら、決行する外に手が無いことを再度念を押しておいた。私達も同じ、最後の1分がボーダーラインよ。」
「分ってる。俺が黄色のキースイッチを回せば後には戻れない。たとえ哲也の方が都合が悪くなっても単独でこちらを破壊する事になるだろう。その逆もありえる話だ。」
「その問題をバビロンの神官さんが指摘してくれたわ。非常に不安定になるそうよ。色々な多元世界と一時接触しないとも限らないと言っていたわ。」
それもありえる話だ。地球のほぼ両極端な場所に発生した2つの次元断層と言うべき歪は、俺達には知る事も出来ないが密接に関わっている筈だ。
その片方だけを消滅させた場合の過度状態に、何が起きるかは全く予想が付かない。




