↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
485/541

#482 何故か仕事は増えていく



 初夏を迎える頃になると、製鉄所の丘の上に作られた貯水池までの用水路が形になってきた。

 レンガを貼る作業はまだ10km近く北の方で行なっているが、掘削を担当する選考部隊は、これから水車を動かす用水路の方に作業が移る事になる。そして、水車を動かした後の水は貯水池に集められ、港へと流れていく。

 製鉄所と港の標高差が数mあるから距離は1km以上離れているが十分に水を送ることは可能だ。

 

 何と言っても水だ。この地には地下水はあるようだが、その場所は限られている。ヘンケンさんが用水路を大きく作ってくれたから、その水の恩恵を受ける者もこれからどんどんと増えて行くのだろう。

 

 そんな事を考えながらテラスから製鉄所を見ていると、イオンクラフトが頭上を越えて西に飛んで行った。

 ディーが帰って来たようだ。

 最近は配管を運んでいる。炉の周囲の配管は高温に晒されるから、セラミック製の配管を使う事にした。

 使う配管の2倍を確保すれば、数回炉を更新出来るだろう。

 だが、それは問題の先送りでしかない。それを使い切った時に、代替する物をル繰り出す程に技術を発展させる事が出来るだろうか?

 その為に、教育手段を確立し、能力のあるものを更に上の階梯である科学教育を教え込む。

 種は蒔いたが…、刈り入れは何時になるのか。

 それを思うと、気が滅入る。だが、刈り入れを行なう為には種は蒔かねばなるまい。

 

 リビングに戻ると、冷たいお茶を頂きながら連合王国の地図を眺める。

 連合王国全体が大きく動いている。辺境の荒地を屯田兵達が開拓しているし、カナトールは復興しつつある。

 リザル族は、長老が部族消滅を危惧していたが、今では部族の人員も増えているようだ。そしてアクトラス山脈のパトロールは彼らに任せておけば安心出来る。

 何人かのハンターは、彼らに危うい所を救助されたという事だ。山岳救助隊的な運用も山岳猟兵達は行なっているらしい。それは、彼らの異形を少しでも民衆が受け容れる要因として機能している筈だ。


 問題は、テーバイだよな…。

 テーバイ王国は、スマトル王国からラミア女王が虐げられた者達を引き連れて建国した王国だ。

 形は王国だが、将来的にはカナトールよりも1歩進んだ民主主義の国になりそうな気がする。

 何と言っても、ラミア女王は伴侶を得ようとしないのだ。今は女王の下で治世が行なわれているが、官僚組織の育成には力を入れている。その官僚たちも新しい国という事もあってか、熱心に国作りに貢献しているようだ。

 それも、あるのだろう。ラミア女王は連合王国に度々訪れているようだ。将来的にテーバイを、連合王国に合体させる為の政治的なものもあるのだろう。 

 しかし、未熟な連合王国の官僚ではテーバイの官僚組織に吸収されかねない。

 後から加わった国家に、連合王国が吸収されるの各国の王族達が黙って見ていられるだろうか? 

 少なくとも、テーバイを組み入れるのは、官僚組織が機能してからだな。

 同等なら両者も納得するだろうけど、優れた人材を持つ国家を取り入れるのは難しい話だな。

 一度、クォークさんと話をしてみるか。

 トリスタンさんの代ではたぶんテーバイを組み入れる事は出来無いだろう。軍事的な結び付きを持つ事で、連合王国と同盟関係を保つ事で満足する筈だ。

 問題は、ラーミア女王が崩御した後に発生する。クオークさんの子供の代に顕在化する事になる筈だからな。


 スマトルは群雄割拠の国になってしまった。内戦に明け暮れて在りし日の姿は何処にも無い。シュタイン様がスマトル戦の戦記を執筆していると言っていたから、スマトルと言う国が歴史の中には残った事になる。


 ノーランドとレイガル族の戦は小康状態に陥っている。これは、原生生物がレイガル族の版図に侵入した為だ。

 かなりの犠牲を出して地下に閉じ込めたようだが、果たしてどうなる事やら…。

 だが、少なくとも倒せない相手では無いようだ。哲也からのメールでそれが分かった。彼らも同じような生物に遭遇して、それを倒したと言っていた。添付された画像には半透明で中心に核を持つ姿が映っていた。

 そして、倒すには核を破壊すれば良いらしい。レールガンで穴を開けて爆裂球を核に投げ入れて破壊するのは難しそうだけど、サーシャちゃんはニコリとしていたな。直ぐにアイデアが浮かんだのだろうか。


 まぁ、現状はこんなところだ。

 とりあえず、連合王国に脅威は存在しない。俺達は製鉄所を作り、クォークさん達は運河を作っている。そして、暇になった国王達が発起人となった美人コンテストまであと一月だ。

 各、町や村は代表の選出に忙しそうだ。先週、サラブの町で行なわれたコンテストには、俺も姉貴を引き連れて出掛けて行ったのだが、何と審査員をやらされた。

 とりあえず、全員に9.0を付けておいたから怨まれる事も無いと思うけど、しばらくサラブには行きづらくなってしまった。


 「ただいま戻りました。これで、セラミック配管の移送は終了です。」

 「ご苦労様。後は何とかなるだろう。バビロンとの往復はしばらくないと思う。」


 「これが炉のマニュアルです。この世界の言葉ではありませんので、翻訳を行ないます。」

 「そうしてくれ。度量衡が違うから面倒だけどね。」


 「問題は温度の制御です。放射温度計が5個ありますが、これが破損したら代替出来ません。」

 「昔は炉の炎の色で類推したと思うんだ。ある意味人間が温度計代わりになるんだけど、確かに長くやっていると目を傷めるな。長期的には簡単な温度計を作る事荷なると思うよ。」


 放射温度計は無理だが、熱電対や測温抵抗体なら何とかなりそうだ。炉から距離を離して、計測すれば温度を類推する事も出来るだろう。


 「姉貴達は見えたかい?」

 「測量をしているようでした。メイクさんも一緒でしたよ。」


 町作りには大工もいるよね。って姉貴がサラブの町で探してきた大工さんがメイクさんだった。

 まぁ、大工には違いないが、船大工だぞ。

 それでも、メイクさんは引き受けてくれたようだ。猟師達が使う舟は弟子達に任せて自分はそろそろ引退を考えていたらしいのだが、面白そうだの一言で姉貴達と一緒になって忙しく動いている。

 小さな猟師町だから頼まれれば家も作ったことがあるそうだ。そういう意味では大工の仕事って意外と広いのかも知れないな。


 「様子を見て来るか?」

 「なら、お弁当を頼みますから、しばらく待って下さい。」

 そう言うと、リビングを後にした。たぶん、ジーナさんと一緒にサレパルを作っているんだろう。


 そういえば、貯水池の西に作った農家に最初の入居者がやってきたと言っていたな。ちょっと挨拶してこよう。これからは何かと手伝って貰わねばならないからな。


 「お待たせしました。準備完了です。」

 そう言って、ジーナさんとディーが袋を持ってやってきた。

 袋を受取って、ディーとバジュラに乗り込む。そんな俺達をジーナさんが玄関先で見送ってくれた。


 町の建設場所までは5km程だ。20分も掛からずに姉貴達の所に到着した。

 貯水池に隣接した荷揚げ場の柱に天幕の屋根だけ張ってターフのような日除けを作っている。それが貯水池と町作りの作業員達の休憩場所だ。


 そんなターフの1つにアルトさんとリムちゃんのガルパスが止めてある。バジュラをその傍に止めると、姉貴達のいる測量場所に歩いて行った。

 貯水池から100m程東に歩くと沢山の杭が打ってある。通りや家の大きさを示しているんだろうが、杭の番号からでは何がなんだか判らないぞ。


 そんな杭の列の向うに姉貴達がトランシットを使って作業をしていた。姉貴がトランシットを使って、アルトさんが物干し竿のような物差しを持っている。記録はリムちゃんが担当しているみたいだな。

 それを見ているメイクさんの隣では若者が杭とハンマーを持って立っている。

 

 「今日は。昼食を運んで来ましたよ。」

 「ちょっと待ってね。この場所に杭を打って貰うから。」

 しばらくして場所が決まったらしく、若者が杭を打ち込んでいる。


 「 おぉ、アキトか。しばらくじゃな。」

 「こちらこそ。姉貴のわがままに付き合って下さり申し訳ありません。」

 

 俺の言葉にメイクさんが笑い出す。

 「何の。こっちこそ想い出に残る仕事が出来そうじゃ。声を掛けてくれて、うれしいかぎりじゃよ。」


 俺達は、ターフの所まで歩いて行く。日陰にベンチを並べると、近くにある専用のカマドにポットを乗せた。用意してある薪でお茶を沸かす。

 薪は貴重品だから、小さなカマドを使ってお茶を沸かすのだ。


 俺達が持ってきたサレパルを配り、お茶と一緒に頂く。

 西の貯水槽はすり鉢状にレンガが貼られているが、まだ底に到達していない。後一月は掛かりそうだな。

 その貯水池の西に10軒程の家が建っている。外で子供達が遊んでいるから家族で越してきたようだ。


 「だいぶ杭が並んだね。」

 「大まかな配置は出来たわ。後一月もしないで荷馬車の隊列がやって来るわよ。そしたら、民家から作り始めるの。」

 

 神殿は、ある程度の人口が集まってから作るらしい。製鉄所の従業員として働く前には、この町作りで生活費を稼いでもらう心算のようだ。

 アテーナイ様の依頼で作る事になった納骨堂は、その神殿の姿が評判になり結構な販売実績となったようだ。

 「金貨で20枚は下るまいぞ。」何て、アテーナイ様が言っていたそうだ。

 俺としては、資金が増えただけ嬉しいけどね。


 昼食後はディーも姉貴を手伝うらしい。俺は、引っ越してきた農家に挨拶に向う事にした。

 貯水池を取り巻く遊歩道を歩いて農家に向かう。

 それ程、時間も掛からずに直径200m程の貯水池だから、直ぐに農家に付く事が出来た。農家は西向きに作られており、貯水池側には数本の雑木の苗が植えられている。姉貴の考えだと、池の周囲を緑にしたいらしい。まだ指の太さで、丈も俺の身長に達しないから、かなり先の話になりそうだな。


 農家の庭先で荷車から荷を下ろしている夫婦を見掛けた。

「今日は、今日来られたんですか?」

「あぁ、やっと着いたよ。半信半疑で北の村から来たんだ。1M四方の土地と家が貰えるって聞いてね。俺は農家の次男だから、小作を夫婦でしていたのさ。これからは自分の土地が耕せると思うと嬉しくなるね。ところで、あんたは?」


 「この南東に住んでる者です。貯水池の東の町作りにも参加してますから、場合によっては手を借りる事があるかもしれません。その時はよろしくお願いします。」

 「あぁ、まだ荒地だから作物は取れないしな。ところで、あの貯水池は灌漑用に使えるのか?」


 「贅沢に使う事は出来ません。あれは南の製鉄所用の水量調整用ですからね。全く使えない訳ではありませんから、製鉄所と調整する必要があります。その内、やってくるでしょう。」

 確かに農家にとって水は死活問題だな。

 調整池から組み上げる方法も考えなくちゃならない。

 これは、俺の仕事になるな。


 だが、水を汲み上げる方法をどうする? 水車は用水路から離れすぎている。使えるとすれば風になるのかな。幸い、ここは丘の上だから風の通りは良いはずだ。今も涼しい風が吹いている。

 風車を作るか。確か、オランダの水車は水を汲み上げていたな。古くから使われているなら、実績もあるという事だ。

 

 早速、別荘に帰ると、風車の原理を考える。

 風の向きに合わせて風車を動かす工夫もしなければならない。そして動力をどのように伝達するか。揚水方法は何を使うか、メモ用紙にアイデアを書き込んでいく。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 製鉄所を造ってるけど❗️ 日本刀で言うと江戸時代にそんな設備無かったよね?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。