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#456 トンネルの探し方

 


 余り長いことこの場所にいると、どんな難問を突きつけられるか分かったものではない。早々にサンドラさんにお暇を告げるとリビングから引き下がった。

 さて、帰ろうとしてアルトさん達の居場所が分らない事に気が付き、玄関口でおろおろしていると執事が近寄ってきた。

 

 「お嬢様方をお探しですか?」

 「はい。そろそろ帰ろうとしてるんですが、アルトさん達の居場所が分らなくて…。」

 「お嬢様方は若奥様と御一緒に王宮のサーシャ様をお訪ねになられましたよ。」


 早速、移動してたか。執事に礼を言って、俺は王宮に走って行った。

 王宮周囲に廻らした柵の門に立っていた近衛兵が、俺を見つけて手招きしている。

 息せき切って走り込んできた俺に、「大丈夫ですか?」と声を掛けてくれた。


 「アキト殿が来られたら案内するように申し付かっています。私に付いて来てください。」

 近衛兵はそう言って歩き出す。

 息を整えながら俺はその後を付いていった。


 王宮に入ると階段を2階に上がる。王宮広間を通り越して通路を歩いて行くと、近衛兵の立つ扉の前で案内してくれた近衛兵が立ち止まって俺を見る。

 

 「この部屋に案内せよ。との事でした。どうぞ、お入り下さい。」

 警護の近衛兵が扉を叩き、部屋の中に声を掛ける。


 「アキト殿の到着です。…アキト殿、中にどうぞ。」

 そう言って、扉を開けてくれた。

 部屋に入ると、円卓を囲んで10人程が集まっている。

 嬢ちゃんず(…人妻だから元嬢ちゃんずだな)の周りには、亀兵隊の連中と歩兵部隊の連中がサーシャちゃんの言葉を聞いていたようだ。


 「やって来たか。アキトの席はここじゃ。」

 アルトさんが隣の椅子を指差している。

 まぁ、言う事を聞いておいた方が良さそうな雰囲気ではある。

 円卓の椅子に座ると、全員が俺を注視する。

 

 「発端はアキトだと聞く。怪物がレイガル族を襲うと聞いたが、どんな奴なのだ?」

 セリウスさんとケイモスさんがサーシャちゃんの後ろの席から聞いて来た。

 お目付け役って所なんだろうな。しばらくはサーシャちゃん達の後見人として軍を仕切るのかもしれない。


 「昨年、遥か北東に向かって核爆弾を入手しました。無人の地下施設で手に入れたのですが、その時俺達を追い掛けて地下より這い出してきた奴がいます。

 通路に障害を作り、爆裂球も使いましたが奴は追って来ました。

 最後に地下施設に入る穴を爆裂球で塞いだのですが…抜け出して来たようです。」

 

 「獣なのか?虫なのか?…それとも魔物の類なのか?」

 「生物である事は確かです。たぶん原生動物とも言うべき物なのでしょう。…ディー、壁にアメーバを写してくれ。俺が見た奴はそれに一番似ている。」


 直ぐに、ディーは壁にアメーバを投影する。今回は動画だ。

 「こんな奴です。通常の大きさは針の穴より小さいのですが、俺を追って来た奴は家程の大きさがあると思います。あのように擬足と呼ばれる足を伸ばして移動します。捕食は、あの擬足の内側に獲物を捕らえて消化します。」


 「人を襲うのか?」

 「その可能性があります。俺達の行った地下施設は、その規模から言って、3千人はいた筈です。そして脱出口は土砂で埋まっていました。施設内に人の姿は全くありませんでした。」


 「人を食べて大きくなった…、という事じゃな。」

 サーシャちゃんの言葉に俺は頷いた。

 「現在、発見場所から西に3,300D(約500km)程移動しています。そして停止した場所はレイガル族の版図です。」


 「我は、最悪を考える必要があると思うのじゃが…。」

 「俺も同じだ。」

 俺の言葉に小さく頷いたサーシャちゃんが、エイオスに顔を向けた。


 「アキトもそう言うておる。やはり、3段構えで対処しようぞ。」

 「トンネルの爆破。そしてレイガル族の侵入。そして最後が怪物の連合国侵入ですな。」

 「そうじゃ。例えトンネルの爆破による閉鎖で事態が終息しようとも、残り2つの作戦を作っておけば、不足の事態が生じても、うろたえる事は無い。」

 

 2の手、3の手か…。その辺は姉貴と似て来たな。

 姉貴なら、更にもう1つ考えそうだな。3の手の前に、怪物を使ってサルの掃討何か始めそうだ。

 まぁ、ここはそこまで考えなくても良いだろう。

 俺としては、レイガル族が連合王国へ侵入する事自体、確率が低いのではと考えてる。


 「過去の魔物襲来を考えると最低4箇所のトンネルがある。だが、本当にそれだけか?と俺は思ってるんだ。…あるとすれば、カナトールの西そしてテーバイの北だな。幸いにして直ぐ近くに村が無いから、それ程急いで探す必要は無いかもしれないが…。」

 「それは、我も考えた。こちらが済み次第捜索を始める算段じゃ。」


 ならば、俺の危惧は何とかなるな。流石、サーシャちゃん。ちゃんと司令官としての大局的なものの見方が出来るようになってきた。


 「後は、トンネルの破壊方法だが…。出口を破壊するだけでなく、少し中に入った所から破壊して欲しい。そうだな…、出来れば100D(30m)程中から破壊する方が効果的だ。出口付近だけだと、再度穴を開けるという事もありえる。」

 「10D(3m)程度ならば再度掘り抜くとも限らないという事じゃな。了解じゃ。

 

 「さて、我等は帰るとするが、手始めはネウサナトラムからに致せ。我等も協力を惜しまぬ。」

 「もちろんじゃ。4月になれば直ぐにネウサナトラムに向かうぞ。」

 サーシャちゃんは、そう答えた。

 

 「それまでに、十分な作戦を練っておきます。」

 ミーアちゃんも俺達に伝えてくれる。

 後は、サーシャちゃん達で大丈夫だろう。トンネルの破壊作戦果たしてどんな作戦になるのかな。ちょっと楽しみだ。


 「じゃぁ、ネウサナトラムで待ってるぞ。」

 そう言って俺が立ち上がると、アルトさん達も立ち上がる。部屋を出ようとした時に、円卓の全員が立ち上がって俺達を見送ってくれた。

 

 「ちゃんと司令官をやってるね。」

 「うむ、ミーアも居るし、セリウスとケイモスも居る。サーシャの突飛な作戦もちゃんと補足してくれるであろう。」

 

 俺達はエントラムズ王都を後にしてモスレム王都へと戻る事にした。

 「忘れ物は無いよね。」

 「子供では無いぞ。心配無用じゃ。」

 そんなアルトさん達はディーと一緒に操縦席に座ってる。俺は荷台のベンチでのんびりと横になる。

               ・

               ・


 「ミーアちゃん達は元気だった?」

 「あぁ、ちゃんとサーシャちゃんを補佐して作戦立案をしてるようだったよ。」

 

 「サーシャちゃんがあんなだから、ミーアちゃんが必要なのよね。相手も自分と同じように考えられると思って、ちゃんと説明出来無いのよ。要点だけ話して、それで理解出来ると思ってるのね。」

 「あぁ、テーバイ戦でそんな事があったな。」

 

 「それを、翻訳してくれるのがミーアちゃんなの。だからあの2人は一緒にいて初めて本来の力を出せるのよ。」

 数年間でそれ程仲良くなったのか…確かに、何時も一緒だったからな。

 

 「4月になったら軍を動かすみたいな事を言ってtぞ。ネウサナトラムから始めるらしい。」

 「少しは協力出来るわね。その後はノーランド街道の東に向かって、カナトールの2箇所を潰せば終了ね。」

 

 「あぁ、だが俺はカナトールの西とテーバイの北も気になる。」

 「その懸念はあるけど、見つけるのが大変よ。」


 確かにその通り、姉貴に頷くとタバコに手を伸ばす。

 ジッポーで火を点けると、暖炉の傍に移動して考え込んだ。


 広大な山麓に、巧妙に隠されたトンネルを探す方法はあるのだろうか?

 少なくともトンネルは南北方向に走っている筈だ。

 だとすれば、クリャリンスクを探した地下レーダーを使う手はある。その探知範囲はイオンクラフトを基点に左右10mだが、適当に間を空けて探す事は出来るだろう。なんせ深さ30mまで確認出来ると言っていたからな。

 問題は、イオンクラフトの飛距離だ。1日で300km位だから、調査する範囲は東西方向を30kmとすれば5往復。南北方向は150m程度になってしまうな。

 これでは、アクトラス山脈の山麓を調査するだけで数年は掛かってしまうぞ。


 「ディー。イオンクラフトの地中レーダーの探知深さを20mにすることで探知範囲を左右に広げられないかな?」

 「計算上は可能です。その場合、左右の探知範囲を2倍程度に広げられる筈です。少し待ってください。」


 そう言うとお茶のカップをテーブルに戻してジッと考え込んでしまった。

 そんな俺とディーの会話を姉貴が興味深そうに見ている。


 「電磁波の発射角を調整して、演算装置のプログラムを変更する必要があります。リンリン達に調整を頼みますか?」

 「そうしてくれ。それで、どれ位に広げられるんだ?」

 「地中の空洞、それも直径1m以上の空隙に限れば、地下20mとして、左右の探知範囲は25m程度まで広げられます。」

 

 改良すれば、1日で東西30km、南北500mを探知出来る訳だ。それなら、少しは使えそうだ。

 「但し、雪は電磁波を吸収しますから、雪解けしないと使えません。」

 「あぁ、4月になったら使ってみよう。改造は任せるよ。」

 

 ディーが席を立ってリビングを出て行く。リンリン達に会いに行くのかな?

 体はパンダだけど腕は確かだからな。安心して任せられる。

 

 「イオンクラフトでトンネルを探すの?…確かにアイデアだけど、相手は広大なアクトラス山脈の山麓よ。」

 「分かってる。だが、闇雲に兵隊達を使って探すよりは確実だと思うよ。」

 「そうね。確かにトンエルの数は未知数だから、急がば回れって事かしら。」


 「と、思ってるんだけどね。…やはり、回りすぎなような気がしないでもない。」

 「もう1つ、方法があるわよ。…でも、これはアキトに出来るかなぁ?…気の流れを見ていく事でも分かるかも知れないわ。最初の1つが見つかればはっきりするんだけどね。」


 気の流れ?…確かに気の流れは山頂から噴出して山麓を流れるように下りて来る。木々や岩で流れが乱れる事は無い。その乱れを作るのは生物だ。だから気の流れを乱す者を見つけることで、獣をネコ族よりも先に検知する事が出来る。

 そこにトンネルがあればどうなるのだろう?

 気の流れがトンネルに吸い込まれるのか、…はたまた気がトンネルから噴出すのだろうか?

 確かに、何らかの違いが生じる可能性がある。

 姉貴はそれを探すと言っているのか?


 「最初に見つけた場所でトンネルを探そう。そしてそれによって気の流れがどう変わるのかを確認しよう。それが分かれば俺と姉貴で別の場所を探す事が出来る。」

 「アキトは余りする事が無いんだから、気の使い方を少し勉強しなさい。たぶん違いがある筈だからね。」


 そう言って姉貴は教科書を広げている。

 確かにそうなんだけど、どうやって修行するかだよな。

 ここは、長老に相談してみるか。


 「ちょっとお昼寝するよ。夕方に起こして。」

 俺の言葉に姉貴が頷いてる。ちゃんと聞いてたのかな?

 自室に戻ってキングサイズのベッドに横になる。

 キューブを腰のバッグから取り出すと、長老に念を送る。

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