#455 商会への依頼
年が明けて、例年通りに4つの神殿に初詣に出掛けた。
帰って来たらタニィさんが、来客を俺達に告げる。
「アテーナイ様、イゾルデ様それにアン姫様とアキレス王子です。」
「分かった。たぶんゼンザイ目当てだな。量は大丈夫?」
「例年通りですから、大丈夫な筈です。」
全く、困った王族達だな。
新年の朝食なら宮殿の方が豪華だと俺は思うけど…。まぁ、そうは思っても声に出さないのが大人と言うものだ。
「新年おめでとうございます。」
そう言って、来客達のいるリビングに入って行く。
「「「おめでとうございます。」」」
どうやら、新年の挨拶が定着してきたらしい。
タニィさんも今朝俺達に挨拶してくれたしね。
俺達が座ると、早速アルトさんがアテーナイ様と話を始めた。
「ひょっとして、ゼンザイ目当てに訪れたのでは?」
「ほほほ…、そのような訳ではないぞ。」
何となく弁解がましく聞こえるな。
それでも、タニィさんがゼンザイを運んでくると皆一斉に食べ始めた。やはり、ゼンザイ目当てのような気がするな。
「毎年、新年の早朝に婿殿達が神殿で祈るので、神官達の印象は良いのじゃが、神官達はその理由を知りたがっていたぞ。」
「あぁ、それは単純な理由です。今年も良い年でありますように…。そう祈るのが、俺達の国の慣わしなんです。」
「でも、素敵な話ね。カイザーに広めるように伝えようかしら。良い年って単純な言葉だけど、色んな意味に取れるでしょう。そんな祈りを都市の初めにするというのは神殿にとっても望ましいと思うの。」
「そうじゃのう…。それで一年が無事に過ごせればそれは神の慈悲によるもの。悪い事が起ったとしても、もっと悪くなる所をここまでで抑える事ができた。と考えるのじゃな。それは神への感謝にも繋がるじゃろうが、何故そのような手段を今まで取らなかったのじゃろうな?」
初詣って、どの宗教にもあるのだろうか?
俺の住んでた町の神社やお寺にはあったし、新年早々にミサがあるのよ、ってクラスのクリスチャンが言っていたな。
となれば、バビロンの住民にも在った筈だ。それが無くなった理由は、バビロン脱出とその後の争いが原因だったのかな。一旦は宗教を捨て去ったが、心の安らぎを求めて宗教が復活したんだな。
「まぁ、俺達の国の風習ですから無理に広める必要は無いでしょう。俺の国でも全ての人が初詣に出掛ける訳ではありませんし。」
「強制はせぬよ。人々の暮らしに良かれと思う事は、例え異国の風習であろうとも取り入れる事にやぶさかではない。…まぁ、カイザー辺りは賛成するじゃろう。」
ひょっとして、初詣の後はゼンザイじゃ!何てキャンペーンを展開しないよな。ちょっと心配になってきたぞ。
「そうじゃ。…国王達が5日後に婿殿を招きたいと言っておったぞ。婿殿だけで良いと言っていたが、いったい何のことやら。この頃国王達も何やら計画しておるようじゃが我等には内緒のようじゃ。暇潰しに行ってくれぬか?」
それって、召喚って事じゃないのかな。暇潰しとは考えられないけどね。
「判りました。5日後ですね。時間は?」
「昼食後で良い。我から伝えおく。」
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それから5日後、1人で王宮への道を歩いてる。
いったい何の用事なのか判らないのが問題だ。連合国家運営に何か齟齬が出たのだろうか?…それとも、カナトールの改革施政に問題が出たのだろうか?
王宮の柵を警備する近衛兵に来訪の目的を告げると、直ぐに王宮玄関へ近衛兵が走っていく。
「案内者を用意させますから、玄関でお待ち下さい。」
近衛兵はそう言って俺を通してくれた。
王宮への来訪者は殆んどが馬車を使うようだ。玄関先まで広い石畳が続いている。カツカツとブーツの鋲を鳴らしながら玄関まで歩いて行くと、顔見知りの執事が俺に頭を下げる。
「皆さんお待ちかねです。ご案内いたします。」
そう言って俺を王宮内に案内してくれた。
2階の広間に続く通路を歩くと、近衛兵が2人立つ扉の前で執事は立止まった。
「ここでございます。どうぞ、中に。」
そう言いながら素早く近衛兵に目配せする。
近衛兵は扉を叩くと、中に向かって俺の来訪を告げた。
「アキト殿。到着しました。」
そして扉を開くと、俺を中に入れた。
教室位の部屋に4人の国王がテーブルを囲んでいる。
入って来た俺を見ると、トリスタンさんがテーブルにある椅子の1つを指差した。
「わざわざ済まないね。そこに掛けてくれたまえ。」
俺が席に着くと扉を叩く小さな音がして、侍女達がお茶を運んで来た。
6人程が座れる丸いテーブルに座った俺達にお茶を置いて、真中に置いたのは何と鯛焼きだ。
国王達の話し合いの場に鯛焼きとはちょっとシュールな感じだぞ。
出されたお茶を見ると、陶器のカップだ。だいぶ白さが増してきた。その上ワンポイント的に花の絵が赤で描かれている。ここまで技術力が増したのかと感心してしまう。
「さて、アキト殿も来てくれたし、話の続きを始めようではないか。」
エントラムズ国王が他の国王に告げると、皆が頷いた。
いったい何の話をしてたんだ?
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「美人コンテスト!」
「シッ!…アキト殿、声が大きい。女性達に聞かれたらこの話は別のものになってしまう。我等が求めるのは連合王国一番の美女を決める事で、武勇に秀でた女性を決めるのではない。」
少し、飲み込めてきたぞ。
要するに、国王達も祭りの企画を集まったついでに始めたんだな。
確かに、狙い目は良い。俺達の世界でも色んなミスコンがあったし、学園祭でもその企画があった。但し、姉貴は出場しない事って変な制限があったけどね。
そして、これには幾つかの問題点がある。
それを俺に解決させようとしてるんだな。だが、それは恨みの矛先を俺に向けようとしているようにも思えるぞ。流石は一国の国王だけあって責任を如何に放棄してこのイベントを実行するかを考えているようだ。
「良いですか。この案には俺も賛成します。そして、このような企画は大なり小なりの大きさで俺達の国にはありました。
そこで、2つ大きな問題がある事を先に言っておきます。
1つは出場者の資格。もう1つは審査員の選出です。この2つの課題を解決すればこのイベントは大成功に収まるでしょう。」
「参加資格とは?」
「全ての女性では対象が多すぎます。…そして、この種のコンテストでは未婚が前提となります。さらに、女性の魅力が際立った18から25歳までに限定しすると共に、アテーナイ様達に邪魔されぬよう、王族の参加を禁止します。」
「なるほど、庶民のコンテストにするのじゃな。それなら邪魔されずに済む。」
「そして、大本命のラミア女王の参加が無ければ応募者も多くなるじゃろう。」
「次に審査員ですが、国王達だけですと…反感を持たれますよ。女性の恨みは恐ろしいと言いますし…。」
「それが一番怖い。少なくとも王族の参加を除外すれば風当たりも弱まるじゃろうが。」
「御用商人を参加させましょう。さらに、年頃の青年を各国から籤引きで選出すれば国王達への非難は殆んど無くなる筈です。」
「うむ、考えたな。確かにそれは良い。年頃の青年を交えるのも面白そうじゃ。嫁にするなら…と言う評価が入るのじゃな。」
「やはり、アキト殿に相談して良かったぞ。せっかくの案が消える所であった。」
「問題は選ばれた勝者への褒美じゃな。」
「それも、あまり問題にはなりません。連合王国一番の美女に選ばれるという名誉が与えられるのですから。ちょっとしたティアラと、そうですね…記念品で良いでしょう。精々、金貨2枚程度ですね。それと、2番目、3番目を選んでも良いでしょう。
それなりに女性は誉れにもう筈です。」
「場所は、エントラムズを予定している。残りの問題は企画運営を誰に託すかという事だ。」
「でしたら、商会に頼めば良いでしょう。たぶん両手を上げて引き受けてくれます。ただ、企画費を幾らか取られそうですが…。」
「何の、それ位何の問題も無い。我等の手許金から出す事にしよう。…そして、その役目、アキト殿に全権を委任する。商会と上手く話を付けて来てくれ。」
やはり、こうなったか。何となく判ってたけどね。
「良いでしょう。では商会への依頼金を受け取りたいと思います。優勝者達への記念品はおよそ金貨5枚。企画費は会場準備を兼ねて金貨10枚程度になるでしょう。」
「それで、出来るなら安い費用じゃ。この案を計画した段階で我等が用意した軍資金がこれじゃ。持って行くが良い。」
俺の前に大きな革袋がドンっと置かれる。
袋の紐を解いて中を見ると金貨が一杯だ。どう見ても100枚以上はあるぞ。
「15枚だけ頂きます。後は何とか出来るでしょう。」
「アキト殿への依頼料もある。その2倍を持参いたせ。でないと次の依頼がしにくいのでな。」
トリスタンさんが近衛兵に目配せすると、近衛兵の1人が俺の脇に来て袋から金貨を取り出す。30枚を積み重ねて、用意していた袋に入れる。
「全く欲の無い奴じゃ。じゃが、残りを考えると後3度程この種の依頼が出来そうじゃな。」
しまった。ここで国王達のへそくりを没収しておくべきだったか…。
重要な会議?が終ると、連合王国の情報が交換され、課題があればその対処が話し合われる。
本来はこっちの方が重要じゃないのか?
そんな中、俺の持つ情報を話す段になった。
「俺の持つ、現在の課題は2つ。1つは歪の消去ですが、俺の方の準備は終了しました。もう1つの歪の除去を担当するユング達の方についても時間の問題という事です。早ければ来年には除去が可能です。
2つ目は、アルトさん経由でサーシャちゃん達が計画しているレイガル族の連合王国側の出口を閉ざす作業ですが、これは早急に実施する必要が出て来ました。大型の原生動物がレイガル族の版図に向かっています。壁や爆裂球で防ぎ切れません。たぶんレイガル族は周辺に拡散します。そのための対処です。
そして最後に王子達の長期計画です。これは軍縮の結果にも関連しますから一応お耳に入れておきます。
アトレイム、エントラムズ、モスレムそしてサーミストに連なる運河の掘削を計画しています。軍縮で職を失った工兵を使って20年計画で行なうようです。金銭的な支援を俺からもお願いします。」
「レイガル族の話は本当なのか?」
「はい。アテーナイ様と相談して、情報をサーシャちゃんに送りました。雪解けと同時にアクトラス山脈で山狩りが始まるでしょう。」
「なら、安心だな。リザル族も協力してくれるなら早期に結果が出よう。」
「そして、運河なのじゃが…そんな運河を作れるのか?…王都は必ずしも同じ標高では無いぞ。」
「元より承知。その対処法も教えてあります。」
「ならば、我等が口を出す事は無い。資金援助は何とかしよう。4カ国の物流が活発になるなら、連合王国の事実を庶民が知ることが出来よう。」
たぶんクォークさん達を蔭ながら応援してくれるだろう。
そして、国王達の課題も対応可能なものが殆んどだ。唯一問題なのは、人材が居らぬという事だが、人材は見つけるものではない。育てるものだ。
貴族政治を無理やり王政に持って行き、最終的には民政に移行しようという大胆な政策の付けだな。
その人材を商会から紹介して貰えば良いと思うのだが、何とか自分で見つけようと悩んでいるらしい。
男の意地なのかな。さっさと頼めば直ぐに紹介してくれると思うんだけどね。
夕方近くになって俺は、部屋を辞して館に帰る事にした。
明日にでも、サンドラさんに会う事にするか。
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「国王達の相談って何だったの?」
「あぁ、ちょっとしたイベントの相談だった。それで、明日サンドラさんの所に行ってくるよ。ディー、お願いできるかな?」
「了解です。」
「それで、イベントの内容は?」
「美人コンテストだ。参加資格は王族を除く、18から24歳までの独身女性という事になる。」
「それだと、私は無理ね…。リムちゃんもダメだし、アルトさんもダメになってしまうわ。」
ちょっとご機嫌斜めだな。参加したいのか?
「まぁ、どこにでもあるイベントだが、連合王国では初めてになるな。国王達は乗り気だよ。それだけ平和なんだろうね。」
そう言って、早々と休む事にした。
リビングでは姉貴とアルトさん達が何やら相談しているけど、3人の出場は無理だぞ。
そして、次の日。
早々と朝食を頂いて屋上に向かうと、ディーと一緒にアルトさん達が待っていた。
「久しぶりにミーア達に会うのじゃ。」
そう言われては連れて行かねばなるまい。
俺達4人はディーの運転するイオンクラフトで一路エントラムズに向かった。
2時間程でエンタラムズの王宮の庭に到着する。
近衛兵に国王達の依頼でパロン家に向かう事を告げると、直ぐに納得してくれた。
昨日の内に、モスレムから通信が送られてきたらしい。
「パロン家では皆さんお待ちかねです。ここに置いておけば悪戯される事もありません。早速お向かい下さい。」
近衛兵に礼を言って、王宮から南に伸びる大通りを歩いて行く。
パロン家の門には執事が立って俺達を待っていた。
「ようこそお出でくださいました。皆さんがお待ちです。」
そう言って俺達をリビングに案内してくれる。
「我等はミーアに会いに来たのじゃが…。」
リビングの扉の前でアルトさんが執事に言った。
「それも、存じております。では、アキト様はこちらに、お嬢様方は私に付いて来てください。若奥様がお待ちです。」
若奥様って、ミーアちゃんの事か?
確かにパロン家に嫁入りしたんだからそう呼ばれてもおかしくは無いが…、ちょっと、違和感があるな。
通路の奥に消えていく3人の背中を見送って、俺は意を決する。サンドラさんはやり手だからな。交渉が上手く行く事を4つの神殿の神に祈り、そっと扉を叩く。
「どうぞ、お入りなさいませ。」
中からの声に促がされ、俺は扉を開いた。
いるいる。奥様連中のサロンだから、扉を開けたとたん香水の匂いに圧倒される。
確かにまだ若い独身の方々もいるのだが圧倒的に年上の女性が多い。
「さぁ、どうぞ。…遠慮なさらずにテーブルへ。」
誰か判らないご婦人に手を引かれてテーブルに付くと早速お茶のカップが目の前に出された。白いカップには菊と桜の文様が入っている。
これは、俺と姉貴の紋章だよな。ミーアちゃんの嫁入り道具の一つなのかな。
「先ずはお召し上がりくださいな。そのカップはミーアの嫁入り道具の一つ。サロンでお使いくださいとミーアが私に持って来てくれました。
皆さん、その紋章を褒めてくださいます。まこと、単純にして高貴なもんしょうであると。」
サンドラさんは気に入っているようだな。
「壊れ物を何時までも取って置くようでは困ります。皆さんで使っていただければ俺も贈った甲斐があると言うものです。」
ここは、流れに合わせた方が良さそうだ。
「それで、アキト様がわざわざ私共を訪問してきた理由は何でしょうか?」
サンドラさんの質問に、先ずはお茶を飲んで心を落着かせる。
「実は、商会の皆様に仕事を依頼に来ました。」
「アキト様のお仕事はハンターでしょう。私にはザナドウを倒す事等で来ませんよ。」
俺にとっては、ザナドウを倒すほうが易しいと思うぞ。
「実は、祭りの企画と運営をお願いしたいのです。」
「あぁ、モスレムやサーミストで行なった王国主催のお祭りですね。確かにあれはおもしろかったですね。商会のご婦人方も何人か見物に出掛けました。」
「えぇ!今度はエントラムズですか。それは光栄ですね。それで、どんな…。」
こうなったら、早めに話しておく方が良さそうだ。
「実は、エントラムズだけでなく、連合王国全体で行なうお祭りになります。その名は、ズバリ『美人コンテスト』!」
俺の言葉の後の数分間はどう描写して良いのか判らない程の大騒ぎになってしまった。パロン家の傍を通り掛った人がいるなら思わず立止まって館を眺めただろう。それ程の大騒ぎだ。
パンパンとサンドラさんが手を叩く。
「また、とんでもない祭りを考えましたね。それを商会に託すという事ですか?」
「はい。大まかな内容は、メモに記載してあります。」
俺がバッグから取り出した紙片を奪うようにして、サンドラさん達が記載の中身を読み始める。あれだけの騒ぎがピタリと収まり、皆がサンドラさんに寄り添って紙片を覗き込んでいる。
「はぁ~、なるほど考えられましたね。これなら、商会の娘達も納得するでしょう。そして、日頃美貌を自慢しているご婦人方は参加出来ないのですね。それも、一興ですね。そして、連合王国の若い娘達が集まるのであれば、やはり商会が動かざる得ないでしょう。…判りました。商会がこの企画を引き受けます。」
サンドラさんの言葉にホッと一息付く。
「そして、あまり準備金を用意できませんでした。これでお願いいたします。」
国王達から頂いた金貨の袋をサンドラさんに差し出す。
「たぶん、この原案だとそれ程必要ないと思います。残金は商会に寄付という事で宜しいでしょうか?」
「構いません。出来れば王子達の事業に協力してあげてください。たぶん株式の形態を取ると思われます。出資金が必要になりますが長期的に安定した収入が得られると思います。」
「王子達も何か考えているという事ですか。それが連合王国の発展に繋がれば出資はやぶさかではありません。」
王子達には協力的だな。しかし、この計画が国王達から出たものだと判ったら、どうなるんだろう。
そんな事を考えながら、コンテストの方法に関わる、商会の皆さんの質問に俺は答え続けた。




